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ワイバーンの鑑賞もほどほどに、しばらくして剣持さんの部屋に帰ることにした。
ミーティングの続きをするつもりではあったが、話題は先ほど見たワイバーンのことばかりになってしまうのも仕方のない事であろう。
「あれほどの大物も『新天地』にいたとは…」
「ま、西島さんもあんだけの大物に出会う事の方が稀だから、あんまし心配しすぎなくても良いんじゃね?」
「ですよね。実際俺が『新天地』に行っていたときには、影も形も無かったわけですし………話は変わりますが、あれほどの大物の買取価格は幾らぐらいになると思います?」
不安が無かったわけでは無いが、気を紛らわせるために話題を変えることにした。多少卑しい話になるが、あれほどの数の戦力と高価な消耗品を多数消費することでようやく討伐することの出来たモンスターだ。その価値を知りたいと思うのは俺以外にもいるはずだ。
「……どんなに安く見積もっても、『億』は下らないでしょうね。西島さんの話からするとワイバーンの皮はかなり頑丈らしいですから。皮鎧にする、ブーツや手袋などに加工する。いくらでも使い道はあるでしょう」
「爪や牙も剣などの武器の良い素材になるな。ワイバーンの首から上を剥製にして売り出せば、好事家が喜んで札束を積み上げるだろう」
ワイバーンの体全体を購入することは難しいだろうが、首から上だけならそれほど高額にはならないだろう。…まぁ、あくまでも大金持ちを基準にした考えであり、少なくとも俺のような小市民からすれば目玉の飛び出る様な金額にはなるだろうが。
「後は、肉がどれほどの価値があるのか今の段階じゃ分からないが…それも近いうちには分かるだろうな」
「ですね。正直今から楽しみですよ」
『近いうちに』と言うのは、東条さんがワイバーンに勝ったことで祝勝会を開く予定であるからだ。そこではワイバーンの肉も提供すると意気込んでいるらしい。
西島さんから“お知り合いの方も連れて是非に。うちの東条は祝い事はたくさんの人でワイワイと祝う事が好きですので”と、去り際の彼に誘われたのだ。西島さんの話だと、かなり大規模なものになると予想される。
「俺はモンスターの肉についての知識はあまり無いんですが……実際、ワイバーンの肉ってどんな感じなんですか?」
この中で『ダンジョン』産のワイバーンの肉を唯一食べたことのある槍木さんに聞いてみる。勿論、今回『新天地』に出現したワイバーンと『ダンジョン』のワイバーンは別の種ではあるのだが、少なくとも俺よりは有益な情報を持っているだろう。剣持さんと弓取さんも同じ思いだったようであり、俺と同じように槍木さんに注視している。
「牛肉に近い甘みと、ジビエのようなしっかりとした肉質が特徴だな。焼く前の肉を見せてもらったが、和牛の霜降り肉の様に鮮やかな『サシ』が入っている部位もあった。無論、肉の味をダイレクトに味わうことの出来る赤身の部分も美味かったが、俺個人とすれば肉汁の滴るジューシーな霜降りの方が好みだ。勿論、赤身の味が劣っているわけでは言ことは断言させてもらおう」
「えーっと…『ダンジョン』産のワイバーンのお肉って、いくつか種類があるんですか?」
先程の話に出て来た赤身やら霜降りっぽい肉など、剣持さんの話だといくつかの種類があるらしい。俺が今まで『ダンジョン』の中で倒してきた、例えば『ボア』の肉だと、どこの部位かも分からない大きなブロック肉がデンっとドロップされるだけであったはずだ。
「その通りだ。無論これはワイバーンに限った話ではなく、他の可食可能な大型のモンスターに現れる特徴の一つだ。噂だと、『ダンジョン』の深層に出現するとされている『ドラゴン』の肉もそうらしいんだが…残念ながら実物を見たという情報すらほとんど無く、噂の域を出ない話しなんだがな。だが、もし、仮に『ドラゴン』の肉が市場に出回るなんてことにでもなれば…その価格は青天井間違いなしだろう」
自分の好きな分野の話であるため、いつもよりかなり饒舌な槍木さん。そんな彼のおかげで色々と面白い話を聞けた。
話しがかなり逸れまくっていたため想定していた時間よりもはるかに長い時間をかけて、ようやく今日のミーティングを終わらせることが出来た。と言っても、話し合えたのは最低限の事柄に限られているため、ミーテョングの内容とすれば及第点以下だろう。
その後は皆で食堂に行って夕食のバイキングを皆でワイワイと食べた後、解散することになった。




