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「その後は複雑に絡まった網を少しずつ外していき、何とかこのワイバーンを『マジックバッグ』の中に収納することが出来ました。正直、戦闘時間よりも網を外す時間の方が長かったですよ」
念には念を入れて、合計で5枚もの網をワイバーンに使用したんだ。拘束力は高まっただろうが、その分だけ取り外しが難しくなるのも仕方のない事だろう。
ただ、それでも思っていたよりは時間がかからなかったとのことだ。
何せワイバーンの膂力が西島さんの当初の想定を大きく上回っていたことが原因らしい。頑丈な網の糸もかなりの本数が引きちぎられていたらしく、その分だけ取り外しに時間がかからなかったとのことだ。
その事実を知った時、やはり東条さんの判断は間違いではなかったのだと確信したらしい。
「そしてこいつを収納した『マジックバッグ』は少し前に買った物なのですが、かなり奮発して容量がかなり大きい奴を買っておいて正解でしたね」
これほど巨大なワイバーンだ。以前俺が『協会』から借り受けた『マジックバッグ』ではとてもではないが収納することは出来ないだろうな。それにしても“買った”と言ったな。彼らのパーティーは『調査』期間の間、常に最前線に赴いていたのだ。俺達よりも遥かにたくさんのモンスターと戦い、そしてその素材を持ち帰っていた。俺が思う以上に稼いでいたのだろう。羨まし…くはないな、その代償が超危険地域での活動だったわけだし。
「そういえば、先程の話に合ったネットランチャーってどんな感じの武器なんですか?」
「おや、檀上さんは興味がおありで?」
「まぁ、保険はいくらあっても良いですからね」
西島さんから話を聞き、持っていたスマホを使って話に出て来たネットランチャーを検索することにした。意外にも簡単に見つかり、購入申し込みのサイトにまで移動することは出来たのだが……
「『SOLD OUT』ってなってますね……」
「一つ一つが職人の手による手作りで、元からそれほどたくさん売りに出ていたわけではありませんでしたからね。ですが、この間見た時はいくつか在庫が残っていたように記憶していたのですが…」
「もしかして今回のワイバーン討伐の話を聞いて、それで注文された方もいるんじゃないですか?」
俺達が西島さんから話を聞く前に、彼らから話を聞いた探索者もいたとのことだ。話を聞いてすぐに注文していたとしてもおかしくはない。
「もしくは西島さん達と一緒にワイバーンを討伐した、つまり応援に来てくれた探索者がそのネットランチャーの有用性を認識して、『ダンジョン』に戻って来て速攻で注文したとかもあるんじゃないんスか?」
剣持さんに言葉に、弓取さんが同意するように補足していた。
「そうなると……俺達も新しいのを入手できるのも当分先になるという事か…ま、仕方ないか」
西島さんが残念そうに呟いていた。俺も残念に思っていたが、剣持さん達はどこか他人事のように、あっけらかんとしているのが気になった。
「お前らのその反応……もしかして、お前らは事前に買っていたのか?」
その問いに、バレてしまったか、剣持さん達がそんな表情を見せる。
「流石、良い勘をしてますね」
「今回『新天地』に挑むんで、念のために用意していたんスよ。それにしても、まさか売り切れてなっていようとは思ってもいなかったなぁ…もう2つ3つ買っときゃよかったぜ」
「……いや、そんなことをしてしまえば、他の探索者に行き渡らなくなる。人様に迷惑をかけることは良くないことだ」
「ま、そりゃそうだ」
昔から抜け目がないと思っていたが、やはり色々と頼りになりそうな御三方だという事を改めて実感した。俺も興味があるので後で実物を見させてもらえるよう頼んでみたら、アッサリと了解してくれた。
「じゃ、私はこの辺で」
そう言って、颯爽と去っていく西島さん。その後姿は素人目ではあったが疲れているようにも見えた。無理のない事だとは思うが、今回の討伐によって大量に消耗した備品の補充もあるとかで当面は忙しい日が続くと嘆いていたな。可哀そうに。俺に出来ることは無いだろうから、せめて心の中だけでも応援させてもらおう。




