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不幸なことに、東条が殴り飛ばされた場所は〈回復魔法〉が使えるエルフから最も離れた方角であった。また、彼も殴り飛ばされた衝撃によって大きなダメージを負っており、即座に移動することは不可能であった。


だが、東条は1人ではない。彼の周りには頼りになる仲間がいる。それが東条の勝因であり、怒りに任せて自分を傷つけた東条ばかりに注視し周りへの警戒を怠ったワイバーンの敗因であった。


「打て!!」


西島の合図により、彼らが奥の手として用意していた『ネットランチャー』を打ち放つ。ズドンッ!という4つの大きな炸裂音が響いた後、ワイバーンの巨大な体に対モンスター用に作られた網が覆いかぶさった。


『新天地』に知的生命体の痕跡はなく、当然ながらこのワイバーンに網という道具に関する知識などあるはずもない。自分の体に纏わりつく謎の物体を振り払うおうと、何度も何度も体を揺り動すが、その度に網がワイバーンの体により複雑に絡みついていく。


この網は『ドロップアイテム』の強固な糸と炭素繊維で織られており、更には『魔鉄』製の鋭い返しが付いた無数の針が職人の手作業により1つ1つ丁寧に編み込まれている。ワイバーンが暴れれば暴れるほどこの返しがワイバーンの体と周りの網にも引っ掛かり、対象をより強固に絡めとっていく。


ワイバーンがいくら巨体の持ち主で、強力な膂力を有していようとも幾重にも重なった網を破ることは容易ではない。しかし時が経つにつれ『バツッ!………バツッ!』と炭素繊維が引きちぎれる音がしたため、西島は予備として残しておいた最後の1台のネットランチャーを使用することを即決した。


(念には念を入れておくか。このネットランチャーもかなり高額だが……ま、命には代えられないしな。うちのリーダーもそんな小さなことを気にする男ではないし)


「残りのネットランチャーも打っておけ!」


西島の指示により更に1つの炸裂音が鳴り響く。絡まった網によって体の動きのほとんどを封じられているワイバーンであるが、鋭いと角が牙が生えている首から上の部分と、一振りで何人もの冒険者を屠れそうな太い尻尾。何よりも、並の攻撃では傷一つ付けることが出来そうにない頑丈そうな鱗が残っている。ある程度の動きを封じたとはいえ、この先の戦いも楽にはいかないだろうという事は西島を含むここにいるメンバー全員の総意であった。


「よし!では最初の指示通りに動いてくれ!」


西島の指示により、探索者たちがまずは網の端に付けられたロープを近くの太い木の幹にくくり付けていく。そしてこの場にいる、遠距離攻撃の手段を持たないメンバーがそのロープを握って力を籠め、ワイバーンを地面に押さえつけさらに動きを封じる。


ワイバーンが憎らしげな呻き声をあげるが、これは西島たちにとって苦肉の策でもあった。何故なら多くの近接戦闘を主体とするメンバーの武装が剣や槍と言った刃物の類であるため、下手に攻撃をすると網を切断してしまう可能性もあったからだ。そのため、この度の戦闘においては、多くの前衛がロープを引っ張ってワイバーンの動きを封じさせることに注力させた。


「ドッセェイ!」


全身覆う重厚な金属製の鎧を纏いながら、その重さをまるで感じさせないほど軽やかな動きでワイバーンに接近したドワーフ。小型の冷蔵庫ほどの大きさもあるウォーハンマーを大きく振りかぶり、野太い声を発しながら東条に攻撃されなかった方の翼を殴りつけた。


先程の炸裂音に以上の大きな音が周囲に鳴り響く。無論ダメージを与える目的なら胴体に当てた方が有効的ではある。しかし今のワイバーンは全身がトゲ付きの網で覆われているため、万が一でもそのトゲがドワーフを覆う鎧に絡みついてしまっては……そう考えた故の戦略であった。


残っていた片翼まで攻撃されてしまい、怒り狂ったワイバーンが先ほどドワーフに攻撃しようと動く。しかしエルフの放った攻撃魔法による目くらましにより、何とか後退するだけの時間は確保することが出来た。


「うっし…皆!ここまでやれば、後は気を抜きさえしなければ俺達の勝ちは揺るがないだろう!最後まで気張っていくぞ!」


エルフの〈回復魔法〉によりダメージがすっかり抜け、戦線に復帰した東条が皆を鼓舞する。


この時点では未だワイバーンに与えたダメージの総量自体は多く無かったが、翼は折られ飛んで逃げることも敵わなければ、体中に絡みついた網によって地面を強く踏みしめることも、バランスが取れずふんばることも出来ないのだ。まさに『翼をもがれた鳥』と言う言葉がふさわしい有様であった。


それから時間をかけて少しずつではあるが確実にワイバーンの体力を削りとっていく。途中他のモンスターから強襲されたりもしたが、2時間ほどの戦闘時間の後にようやくワイバーンの息の根を止めることに成功した。

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