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「とりあえず、この『ワイルド・ボア』の血抜きをしておきましょう」


西島の提案を聞き、多くの人が頭を傾けた。確かにモンスターの肉から血抜きをする行為は肉の味を損なわないための大事な作業の一つである。しかし、それはあくまでも今のような緊急時ではなく平時に行うべきもの。巨大なモンスターが接近しつつある今、やらなければならないことはもっと他にもあるはずだと考えたのだ。


その疑問を払拭するためか、皆を代表してその疑問に自分なりの答えをだしたトビーが西島に問いかける。


「それは……血の匂いをこの辺りに充満させることによって、我々の気配を少しでも消すため…とのお考えでしょうか?」


「その通りです。その上空にいる巨大なモンスターが嗅覚によって敵を補足しているかどうかは定かではありませんが、やれることはすべてやっておきましょう」


西島の指示によって、この辺りの地形を考慮したうえでの作戦が練られていった。限られた時間は僅かであったが、皆で知恵を出しあって足りない部分は互いに補い合い、穴を埋める様に少しずつ作戦を組み立てていった。




そろそろモンスターが視界に入る範囲内にくるとして、トビーがその旨を皆に伝えた。その報告を聞くと全員が示し合わせたように木の影へと移動し、モンスターの襲来に備える。


程なくして大きな翼が羽ばたく“バッサバッサ”という重低音が周囲に鳴り響き、一つの巨大な影が先ほど倒した『ワイルド・ボア』の近くに着陸した。


(あれは……ワイバーン系統のモンスターだろう。前に倒したヤツよりも巨大で獰猛そうな種族だが、これほどの戦力がいるんだ。油断しなければ負けることは無いだろう)


先陣を切る予定である東条は絶好の機会を狙うためワイバーンの動きをつぶさに観察する。


ワイバーンはキョロキョロと周りを見回したが、その時間は想定よりもはるかに短く、すぐに目の前にあるご馳走である『ワイルド・ボア』に注意を向けた。


これは恐らく、先程老齢なエルフが言っていた『周りの敵を警戒する必要が無いほどの強さを持っている』の証明である気がした東条は、警戒レベルをさらに引き上げる。


『ワイルド・ボア』の一番柔らかくて美味しい部分に噛みちぎったワイバーンは満足そうな表情を見せながら、僅かな咀嚼時間の後これをあっという間に飲み込んだ。肉が旨いためか、それとも来るかもわからない敵に備えることが馬鹿らしくなったのか。ワイバーンの警戒心がだんだんと薄れていくことを、東条はその鋭い観察眼によって察知していた。


『ワイルド・ボア』の体積が減るにつれ周りのメンバーの緊張感も高まっていったが、それでも誰一人として冷静さを失わなかったのはここにいるメンバーの能力の高さ故である。


そうして『ワイルド・ボア』の大部分がワイバーンの胃袋の中へと消えていき、そのワイバーンが食休憩のためか、わずかな時間であったが大きな隙を見せた。そしてその一瞬の隙を突いて、東条が木の枝からワイバーンの翼に向けて飛び掛かる。


その突撃のスピードはすさまじく、彼が足場として、そして踏み込むために利用していたその太い木の枝が中ほどまで大きな亀裂が生じてしまっていたのが、その衝撃の強さの証拠であった。


隙を突かれたワイバーンは初撃を躱すことも防ぐことも出来ず、東条の振るう昆による一撃をモロに受けてしまった。


周囲に“バギッ!”という、固いものが砕けた音が鳴り響く。周りの探索者たちは東条の初撃が成功したことを確信したが、これは戦いの火ぶたが切って落とされたことと同義であった。


(とりあえず初撃は上手くいったな。後は『アレ』の邪魔にならないように、距離を……おっと!!)


片翼に大きなダメージを与えた東条。次の作戦の為に一度距離を取る予定であったが、ワイバーンが折れたはずの片翼を強引に振り回したことによって、それにぶつかってしまった東条は大きく弾き飛ばされてしまう。


もちろん、昆を自分の前に構えることで直撃は避けることに成功はしたが、数秒間の滞空時間の後幾本もの木々の太い枝に叩きつけられ、最後には大きな樹の幹にぶつかったことでようやくその衝撃を打ち消すことに成功した。


攻撃をされたことによって受けた身体的なダメージの報復か、それともこんな小さな生き物に攻撃されたことによって傷つけられてしまったという自分のプライドのためか。大層ご立腹であったワイバーンは先ほど折られた片翼をズルズルと引きずったまま、先程殴り飛ばした東条を確実に仕留めるためにゆっくりと、しかし確実に距離を詰め始めた。

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