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剣持さんの部屋の窓からは、ちょうど『新天地』への入り口が見下ろせる方角にある。そのおかげか入り口から少し入った場所にある広場に、首長竜のような巨大なモンスターが首から血を流した状態で横たわっていたのが見えた。
遠目ではあったが生きているようには見えない。それは、周りに人だかりができていることからも、首長竜にはすでに戦闘力が無いということが簡単に窺い知ることが出来た。
周りにいる人間と大きさを見比べる。……大体、15・6メートルぐらいの大きさはるだろう。人間がゴ……小さく見えるほどの巨大なモンスターだ。
「ありゃ多分、ワイバーン系のモンスターだな。亜種か、上位種か…」
あそこに死体があるという事は、当然ながら『新天地』に出現したモンスターなのだろう。
ワイバーンは『ダンジョン』の中でも深層にのみ出現するモンスターであり、大きな羽を持ち『ダンジョン』の中という高さに制限のある場所でありながら上級探者すら一筋縄ではいかない強さを誇っているらしい。
「私たちが知るワイバーンよりも大きく、そして強そうな個体ですね…」
「とりあえず下に降りて、近くから見ませんか?さっきから続々と人が集まってきているみたいですし」
「だな。ここにいるだけじゃ何も分からないしな。近くまで行きゃ、周りの人からも話を聞くことも出来るだろ」
俺の提案に弓取さん乗っかり、それに剣持さんと槍木さんも頷いた。剣持さんの部屋から出てエレーベーターのある場所まで行くが…
「人が……ものすごい集まっていますね。あのワイバーンのことを、皆さんも知りたいという事でしょうか?」
「それ以外には考えられんな。むしろそれ以外の目的で下に降りようとするなら、そちらの方の理由を知りたい気もするが…」
すでにエレベーター乗り場の前には人が多く集まってきており、利用するにはそれなりの待ち時間が必要であった。
俺達の後から来た人達はエレベーターに乗ることを早々にあきらめたようであり、すぐに階段から降りる選択肢に移行したらしい。続々と、そちらの方に人が流れていく。
俺達も顔を見合わせる。………どうやら、皆同じ意見の様だ。エレベーターを待つ列から外れ、階段を使って下に降りることにする。幸いここの階層は、それほど上階に位置していると言うわけでも無い。あまり疲労することなく地上にまで降りることが出来た。
ホテルのフロントから外に出て、ワイバーンの死体のある方角に向かう。すでにワイバーンの周りにはたくさんの人が集まってきていた。何とか人と人との隙間を縫いながら、ワイバーンの死体への接近に成功。
見た目の大体の形は、やはり昔恐竜図鑑で見た首長竜に近いだろう。足はコモドドラゴンのような太くて頑丈そうであり、ヒクイドリのような鋭く太いツメも生えている。尻尾もモササウルスのような太くて長い。頭からは大きな角が2本生えており、鋼鉄の鎧ですら容易く貫くことの出来そうな太い牙が、頑丈そうな上顎と下顎の間からびっしりと生えているのが見えた。
首長竜と大きく違う点は、腕からは蝙蝠のような皮膜のついた巨大な翼が生えているところだろう。
子供のころ、親と一緒に恐竜博物館に行ったことがある。そこには恐竜の実物大のレプリカが展示されており、その大きさと恐竜の怖さにビビった記憶が俺にはある。そして今は、その時感じた物とは違う異質な何かを感じた。
何というか……『リアル』……何だよな。それもそのはずだ。こいつはついさっきまで生きていたのだ。こいつは既に死体であり、あの時のレプリカと同じように動き出すことはない。そう頭では理解しているのだが、今にも動き出してしまいそう、そんな恐怖を感じているのは俺だけではないと思う。
「すごいな、これは……檀上さんは、このモンスターに関する知識はお持ちですか?」
「いえ、俺が『新天地』で活動していた間は、一度も見たことも聞いたことも無いモンスターですね」
俺達がそんな雑談をしていると、巨大なワイバーンの影から複数の人影がこちらにやって来るのが見えた。その人影の内の1人が、俺達の姿を見て大きく手を振りこちらに駆け寄ってきた。
「檀上君、そして剣持君たちか。久しぶりだな」
それはつい最近まで、『新天地』を一緒に調査していたメンバーである東条さんであった。




