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「『スノーホワイト』と呼ばれている花ですね。出芽から開花まで10年以上の月日を要しますが、生命力が強いため1年以上水や日光を与えなくても問題なく生存するのだとか。希少であり、ほとんど世話が必要ない事。そして開花した花が白くとても美しい事も相まって、この花を求める声が日増しに強くなっているとか…」


と、懇切丁寧に説明してくれた只野さん。やはり総務課にお勤めになっているだけあって、異世界産の産物にもかなり詳しいらしく、ドワーフから貰った『シャイン・クリスタル』についても分かり易く丁寧に説明してくれた。


曰く、加工が難しく、原料である『シャイン・クリスタル』を輸入しても、国内には加工できるだけの腕を持った職人は存在していない事。曰く、彫像は勿論のこと、グラスの様な薄く加工するには例えドワーフと言えど並大抵の職人では不可能であること。曰く、ましてや、そんな薄いグラスに精密な細工を彫り込むなんて……とのことだ。


それらの情報を基に俺の灰色の脳みそから導き出された答えは、エルフから貰った花もドワーフから貰ったグラスもとんでもなくお高いという事だ。


ここにきてようやく、自分たちがとんでもない物を貰ってしまったことに気が付いてしまった。俺達がエルフやドワーフに上げたものなんて、そこらの百貨店で買い集めたありふれた品々だ。正直、申し訳なさが俺の心をさいなんでしまう。


「まぁ、そのお気持ちはよく分かります。ですがエルフやドワーフの方々も非常に喜ばれていたので、あまり気になさる必要は無いと私は思いますよ?それにしても……これらの物を貰ったとき、檀上さんが平然とされていた理由が今になってようやく分かりましたよ」


と、偶然警備の打ち合わせに来ていた作田さんが、俺たちの会話に参加して来て話された。俺とは違い作田さん達『協会』の戦闘員の方々は、そういった異世界の産物の知識もそれなりに持ち合わせていたのだろう。一目見ただけで自分たちが貰った品が只物ではないことに気が付き、動揺していたらしい。


しかし俺があまりにも平然としていたことで落ち着きを取り戻し、平静を装うことが出来たとのことだ。……実際には貰った物の価値を知らなかったという、あまりにも情けない理由であったわけだが。


そんな作田さん達もせっかく頂いた品と言う事で、ありがたく使わせてもらっているとのことだ。ただし、俺の様に普段使いをしているわけではない。少しお高めのお酒を飲むときに使用するといった、そんな感じの大人っぽい使い方らしい。


「確かに今は希少かもしれませんが、今後どうなるか分からないのでは?最近では、エルフやドワーフとの交流も活発になりつつあると聞きましたし」


心のどこかで、貰った品々を高級品だと認めたくない自分がいた。


もちろん、自分の所有物が高価な品であることは喜ばしい事ではあるのだが、こちらが渡した品がごく一般的な物であり、やはり申し訳なさが先に来るからだ。価値が釣り合っていないことに負い目を感じ、もう少しお高いものを渡しておけばよかったといつまでも後悔してしまう。


「交流が活発になったとしても、高級品であることには変わりありませんからね。今はまだある程度の情報統制が出来ていますので、これらの品々の情報を知る人は限られています。ですが交流が今よりも活発化すれば、こういった品々の情報を知る人物の数は増えていきますよ」


「早い話、供給の量が増えても需要の量も増えるので、総体的には希少で高級な品という事に変わりはないという事ですね」


作田さんに引き続き、只野さんにまで否定されてしまった。そんな2人がかりで俺を責めなくても……まぁ、そんな気はしていたさ。今度ゴルグさん達に会ったときにでも、もう一度、しっかりとお礼を言っておこう。


「そう言えば、檀上さんは来週剣持さん達と『新天地』に行かれると聞きましたが?」


「はい。もしかして追加メンバー募集の話を聞きましたか?」


「ええ。エルフやドワーフの方々も『新天地』に強い関心があるらしいですからね。そういったところは私たちと人間と変わりないみたいですから。そのおかげで、追加のメンバーもすぐに見つかりましたよ」


と、満足げに語る只野さん。


聞けば、他の探索者からも似たような話がいくつも舞い込んでいるらしく、『協会』も最近ではそういった『新天地』調査メンバーの人材斡旋業務で忙しいらしい。仕事が無いよりは有る方が良いことに違いはないが、有りすぎるのも考えものだろう。


近々追加の人員が派遣される予定ではあるらしいが、それまでは忙しい日々を過ごすことになりそうだと少し陰のある様子で話す只野さん。どうやらお疲れの様だ。俺達との会話を終えると足元にジャレついていた猫を抱き上げ、モフりながら自分の席に戻っていった。

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