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「では、来週の頭から1カ月ほどをめどに『新天地』にて活動することにしましょう。残りのメンバーは『協会』に斡旋してもらえるように、すでに手を回していますので」


『新天地』での調査は基本的には人間、エルフ、ドワーフの3種族が一つのチームを組んで挑むことが暗黙の了解になっていた。


そこには、俺達初期の調査隊がそのようなメンバー構成で挑み、犠牲者を1人も出すことなく調査を終えたことに対する、いわば願掛けの様な気持ちのあるのだろうが、やはり、各種族がそれぞれの長所と短所を補い合う事が出来るというのも理由の一つであった。


「それでは…私たちは実家に帰っていますので、何かあれば連絡をください」


今回彼らがここに来たのは『新天地』に挑むという名目であるが、実家に帰り辺りを散策することも目的の一つであったのだろう。この『ダンジョン』が発見されて以降、近年では人の流出が止まらず寂れていたこの田舎町にも少しずつ人が戻り始めていたのだ。


そのことを己の目でしっかりと確認しておきたかったのだろう。今回は少し長めの休暇を取られており、来週まではまだまだ時間がある。その間に俺も準備を進めておこう。


目下最大の課題となりえたのはヤギ達の除草作業のことだが、これは俺の祖父に任せることになった。と言うのも、俺の祖父はミーハーな所があり、異世界人が現れた『ダンジョン』を訪れたいと常々俺に言っていたのだ。


そしてこの度都合がついたとかで、弟3人、つまり俺にとっては大叔父を引き連れて、しばらくは俺の自宅で生活することにしたらしい。名目こそ『格』を上げて健康寿命を延ばすといっているが、その実兄弟4人、水入らずで朝までドンチャン騒ぎをすることが最大の目的だろう。幸い、自宅の周りに民家はない。いくら騒いでも人様に迷惑をかけることも無いからな。


「では、この辺りで…」


ソファーから立ち上がろうとした剣持さんが、ふと、何かを思い出したかのような表情を見せた。


「……っと、そう言えば…」


「何かありましたか?」


「あった、と言うほどでもないんですがね。檀上さんもかなり裕福に成られたなって…そう、思ったんですよ」


「そうですか?」


彼らに応対したときも、失礼のないような対応を心掛けてはいたが、金持ちアピール?をした気は全くない。彼らにお出ししたアイスコーヒーもボトルコーヒーを箱買いしたもので、近くのスーパーでも普通に売っているものでそれほど高級品でもない。上の値段のコーヒーもあったぐらいだし。


「あれ?もしかして…ご自覚が無いとか?……いや、そちらの方が…」


言い淀んでいた剣持さんに、俺と同じく話が見えていなかったであろう弓取さんが、俺の代わりに質問をしてくれた。


「んだよ、さっきから歯切れ悪ぃっつうか、何つーか。はっきり言ったらどうなんだ?」


「ああ…これだよ」


と言って、アイスコーヒーの入っていたグラスを指さした剣持さん。


「…?アイスコーヒーですか?別に市販品の普通のボトルコーヒーですけど…」


「俺らが普段飲んでる奴と同じ奴だろ?まさかお前、味覚がおかしくなったんじゃ…」


俺と弓取さんがほぼ同じタイミングで返答を返す。ただ、疑問に思ったのは俺達だけであり、槍木さんの方は剣持さんの言わんとしたことを正確にくみ取り、理解しているようであった。


「違う。コーヒーの方ではない。コーヒーの入っていたグラスの方だ」


「グラス、ですか?貰い物の、普通のガラス製のグラスですよ?」


と、俺が答えた辺りで、剣持さんが『納得した』と言った表情を見せる。やはり訳が分からなかったのは俺と弓取さんだけだったのだろう。


「このグラス、どのような方法で入手されたんですか?」


「『新天地』の調査で一緒に支援部隊の一員として活動していた、ドワーフの方々から頂いたものです。今回一緒の依頼を受け、無事に完了した記念品だと」


示し合わせたというわけでも無いが、俺達人間側も色々とお世話になったのでエルフとドワーフの方々に共同で金を出し合って記念品をプレゼントしたわけだが、彼らも俺達人間に記念品を用意してくれていたのだ。


ドワーフからは精密な細工の施されたガラスで作られた綺麗なグラス一式をもらい、エルフからは生命力がめちゃくちゃ強いが芽吹きから花を咲かせるまで長い時間が必要となる花を、開花している状態の奴を貰っていた。


ちなみに俺達人間側からは、エルフ達にはインスタント食品やレトルト食品の詰め合わせを、ドワーフには日本酒の詰め合わせセットを送った。非常に喜んでもらうことができて、贈り物をしてよかったと本心から思っていたのだ。

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