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「長かったような、短かったような…それでも、こうして皆さん依頼完了日まで、無事でいられそうなことは班長としてホッとしています」
今日もいつものように『新天地』での支援依頼をこなした。途中襲ってきたモンスターを返り討ちにし、その素材を『協会』の職員さんに渡しに行ったところ、その職員さんから来月にも調査依頼が終了することが伝えられたのだ。
この依頼も楽なものではなかったが、こうしてたくさんの人たちと、同じ目的に向けて努力をするという感覚は学生時代を思い出して何となく楽しかった気もする。何よりもこれほどの長期間、異種族の人たちを同じ場所で過ごすというのは得難い経験であった。
それなりの期間衣食住を共にすることで、連帯感と言う奴も生まれたと思う。今も雑談をしながら皆で浴場に向けて移動しているわけだが、こうしていると、異世界人だとか異種族だとかは本当にどうでもいい、些事の様な事にしか感じられなくっていた。
「『新天地』の『調査依頼』は終わるらしいですが、『調査』自体は継続するんですよね?」
結局『新天地』について大きく分かったことと言えば、知的生命体が存在していなさそうなことと、強力なモンスターが跋扈している事と言う、発見当初からあまり変わり映えしない事だけであった。
「『依頼』と言う形ではなく、『調査』を『新天地』で活動するうえでの大義名分のような形で残すらしいですね。結局のところ、やることは今までとあまり変わらないのでしょうか」
『今まで』と言うと、モンスターを倒し、その素材を持ち帰って来ることを指してのことだろう。
一応、調査範囲もそれなりに広範囲に及んでいるが、どこまで行っても代り映えのしない山と木しか見えないらしい。なにせドローンを上空に飛ばし、それなりの高度から周りを見下ろしても、緑のカーテンしか見つけることができなったとのことだ。
『新天地』の中で夜を明かし、より広範囲に調査の手を広めることが出来れば他の何かの発見に繋がるかもしれないが、あれほど強力なモンスターが頻繁に出現してくるような場所では安心して夜を明かすなんてできないだろう。
『ダンジョン』の中の様にモンスターが現れない『セーフティエリア』なんて場所があれば話は別ではあるが、そんな都合の良い場所があるわけも無し。
もしくはモンスターが近くに寄ってこないような、特殊な『スキル』が発見されれば話は別だろう。最近〈調教〉といった『スキル』新しく発見されたんだ、そういった『スキル』が発現しないとは限らないからな。
「皆さんは、この依頼が終わったらどうされる予定ですか?」
「儂は…もう少し『新天地』で活動しようと思っておる。当面は、『新天地』の素材は高値で取引されると聞いた。今のうちにガッツリ稼いでおいて、後で楽をしようと思っておる」
と、答えたのはゴルグさんだ。『新天地』での活動期間もそれなりに長く、新しく参入してくる人よりも地理に明るい。オマケに周りには今まで共に活動してきた人で溢れていて、コネもあればツテもある。当面は俺達の様に『調査隊』に参加した人の一強時代が続くことは想像に難くない。まぁ、危険な任務に就いたんだ。それぐらいの旨味があっても良いだろう。
「私は一度実家に帰り、今回の仕事でお知り合いになった企業と商売をしようと思っています。身の危険を犯してまで作った人脈ですからね。有効に活用しなければ…」
今度はアルフォンスさんの言葉だ。それなりの戦闘力があるが、彼の本業はあくまでも商売人。彼の当初の目的であった人脈作りもそれなりに成功していたのだろう。
俺や作田さんにも、人間相手にどのようなものが売れるのかよく質問をされていたからな。ありふれた答えしか返すことが出来なかったが、多分、エルフである彼にはそれが大事な情報だったのだろう。それを思えば、これまで共に戦ってきた彼の役に立つことが出来てよたったと思う。
「もしかしたら、檀上さんのお手を借りることになるかもしれませんね。その時はよろしくお願います。ちなみに檀上さんは、この依頼が終了した後どうされるご予定ですか?」
「俺は…とりあえず研究所に戻って、今回の任務のレポートを作る予定ですね。一応、任意での提出ってことでしたが、今後とも『協会』とよりよい関係を続けていくためにも出した方が良いかなって思いまして。その後のことは……恥ずかしながら、何も考えていませんね」
よく考えれば、ここにいるメンバーとももうすぐお別れになるという事だ。この先、このメンバー全員で集まることもないだろう。それを思うと、これほど大変であった支援任務が名残惜しいものに思えてくるのも不思議なものだと思った。




