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「檀上さんがよろしければ、今後も私たちのチームに参加しませんか?」


社交辞令ではない、本気の色が見える声色でそう勧誘される。ここで中途半端な回答をしようものなら、あっという間に突き崩され、あれよあれよと言う間に既成事実を作られてしまいそうだ。ここは毅然とした態度で断ることにしよう。


「申し訳ありませんが、お断りさせてもらいます。じ……」


『実力的に劣っていますので』と、言おうとしたが、『実力なんて後からついてくるもの。私たちのチームに参加していれば、実力なんてすぐにでもつきますよ!』なんて言われるかもしれないので、それに続く言葉を寸でのところで飲み込んだ。


「そうですか、それは残念です。ですが私たちはいつでも檀上さんの参加をお待ちしておりますので、気が変わりましたら是非!」


ここでも『機会があれば』なんて言葉を言ってしまいそうになったが、やはり止めておく。東条さんご本人は自覚していないのかもしれないが、いたるところにトラップが仕掛けられている気もしてきた。勿論、邪推の域は出ないのだが。このままでは彼のペースに巻き込まれるかもしれない。何とか話題を変えなければ…


「それにしても…東条さんの班には〈支援魔法〉を使うことの出来る人はいらっしゃらなかったのですか?以前テレビの取材をお受けしたときには、〈支援魔法〉を使うことの出来るパーティーメンバーがいらっしゃったような……っと、すみません」


探索者と言う職業は常に命の危険が付きまとう職業だ。今回の調査依頼に〈支援魔法〉を使える人がいないという事は……ケガか病気で不参加なのか、もしくはすでにこの世にいないとか…


「いえいえ、檀上さんのお考えが間違っていらっしゃいますよ」


俺の考えを読んだうえで、それを真正面から否定した。最悪の事態ではなかったことに安堵し、その〈支援魔法〉を使うことの出来る人員はどこに行ったのかと言う疑問が頭をよぎる。


「アイツは故郷に帰って、自由気ままに野菜作ったり家畜を育てたりしています。アーリーリタイアと言う奴ですね」


「確かに、探索者という職業は危険が付きまとう分、実入りも大きいですからね。ですが…それにしても、かなり早い気もしますね。その方も確か東条さんと同じぐらいの……まだ40にもなってなかったと記憶していますが?」


彼らが取材を受けていたのをテレビで見たのは大分前で、記憶はかなり薄らいでいる。確信は持てなかったが、まだまだ現役でも通用する年齢であることには変わりないだろう。オマケに実力のある探索者ともなれば『格』も高く、それに比例して肉体的には全盛期といっても過言ではないはずだ。


「まぁ、アイツらと一緒に『協会』を辞める時の、勧誘したときに交わした約束ですからね。元々都会の喧騒って奴が苦手なヤツでしたから」


東条さんが元は『協会』に所属する戦闘員で、その時の仲間と一緒に探索者に転職?したというのは割と有名な話だ。彼がわざわざ『協会』を辞めて探索者に成ろうとした理由、それは現在彼のメイン武装である『聖棍』にあるとテレビの取材に答えていたな。


『協会』に所属する最大のメリットが、『協会』という巨大な組織の後ろ盾を有しケガや病気の際でもきちんとした保障を受けられることにあり、探索者の最大のメリットはそういった後ろ盾が無くすべてが自己責任にはなるが、実入りが非常に多くなるということが上げられるだろう。


『協会』の戦闘員として働く東条さんはある日、『協会』の伝手でとある『ダンジョン』から『聖棍』が発見されたという情報を入手した。


初めは『魔道具』である武器にそれほど思い入れはなかったらしいが、偶然その実物を見た時非常に気にいり、どうしてもそれを手に入れたくなったのだとか。


しかし『協会』の一戦闘員である彼のお給料で高価な『魔道具』を購入できるはずもなく、悩んだ挙句、気の合った仲間と一緒に『協会』を辞め探索者に転職したらしい。


『棍』という武器は『剣』や『槍』といった武器よりも人気は低くそういった武器よりも安価であるが、『魔道具』である事にも変わりはない。かなり高額であったが、あらゆる伝手を使って金をかき集めやっとの思いで購入することに成功したとのことだ。


だが、まぁ、当然ながらかなりの借金を背負う羽目にもなった。それを返済するためにかなりのハードスケジュールで仕事をこなすことで、かなり短い期間で彼は借金を返し終わったらしい。


そしてその〈支援魔法〉を使える人は、つい最近貯金額が目標金額に到達したとかで、探索者を辞めて現在は自由気ままなスローライフを送っているというわけか。


そのアーリーリタイアしたという彼に、なんとなくシンパシーを感じてしまうのは気のせいではないだろう。俺も『ダンジョン』が発見されていなければ、その人と同じようなのんびりとした日常を過ごしていただろうからなぁ。

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