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彼らの『新天地』での行動パターンはある程度決まっているのだろう。『ダンジョン』から出たと同時に、調査部隊のメンバー全員駆け足気味で移動を開始する。
巨体なモンスターが何度も通ることで、人間でも問題なく通行できる広さを持った獣道をひた走っていると、先頭を行く斥候役のエルフから“モンスターの反応あり”と部隊員全員に通達があった。それと同時に移動速度がより一層速くなる。
数分間の移動の後、そろそろモンスターの反応があったとされる場所に差し掛かった辺りで、リーダーである東条さんから俺に要請があった。
「檀上さん、そろそろモンスターと接敵、戦闘になります。『支援魔法』は事前に説明したように、『魔力』の節約のため今回前線で戦うメンバーにのみかけて頂くだけで大丈夫ですので、よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい…〈エンチャント〉!」
今回の戦闘で前線で戦う、人間2名とドワーフ2名に『支援魔法』をそれぞれかける。エルフは後方支援がメインなので彼女らに『支援魔法』をかける予定はない。
残りの前衛のメンバーである、予備戦力兼非常時の交代要員となる人間とドワーフには、彼らに出番が回るようなことがあれば、その時は彼らにも『支援魔法』をかける予定となっていた。
予備戦力を残した状態で、つまりメンバー全員でモンスターと戦わないのは東条さん達パーティーの基本的な戦術であった。と、言うのも、ここにいるメンバー全員(俺を除く)がかなり優秀な戦闘員であり、下手にチームプレーを意識して戦うよりも、個々が持ちうる力を十全に発揮できた方が戦いを有利に進めることが出来ると判断してのことらしい。
要するにチームプレーを意識した戦い方である『1対4』というあり方ではなく、『1対1+1+1+1』という表現の仕方が近しいのだろう。それが彼らのパーティーの最適解となったらしいのだ。
異動しながら<支援魔法>をかけ、戦闘準備が整ったあたりでモンスターの姿を視認することが出来た。あれは確か…『ブラック・スネーク』とかいう、スニーキングミッションが得意そうな名前の、巨大な蛇の形をしたモンスターだ。
「では……いつもの同じように!」
と、力強く踏み込んだためか、周囲に土煙をまき散らしながら突貫した東条さん。最後の方のセリフが若干聞き取りにくかったのは、彼が言葉を語り尽くす頃にはすでに突撃しており、俺達との距離が離れていたためであろう。
彼が背負っていた『聖棍』を抜き放ち、突撃の勢いを乗せたまま『ブラック・スネーク』の頭部を殴りつける。
『ブラック・スネーク』はこの辺りに住むモンスターの中ではかなり強い部類に属するモンスターであり、自分が他者から攻撃されるなんて予想だにしていなかったのだろう。強者故の慢心と言うやつか。あまりにも簡単に東条さんの先制攻撃は成功した。
ただ、強い部類に分類されるモンスターだけあって、東条さんの攻撃はそれなりのダメージは与えたものの、殺しきるには威力が足りなかった。すぐさま尻尾を大きく振ることで東条さんとの距離をとり、鎌首をもたげて威嚇、こちらとの臨戦態勢を整える。
それでも大きなダメージを与えたことには変わりない。エルフによる遠距離攻撃で注意を逸らしつつ、俺が『支援魔法』で強化したメンバーで袋叩きにすることで着実にダメージを積み重ねていく。
ここで油断しないが故の最前線で戦う調査隊のメンバーなのだろう。『ブラック・スネーク』による、所謂『最後っ屁』すらも容易に対処してみせ、被害なくそして短時間でこれほど強力なモンスターの討伐に成功した。
生死を確認すると、すぐにその死体を『マジックバック』に収納する。『協会』も、この調査部隊には大きな期待をよせているのだろう。かなり性能の高い、つまり内容量の多い『マジックバック』が貸与されているとのことだ。
そうして一仕事を終えた俺達は休養を…とはならず、次なる獲物を探して『調査』を再開する。
今回の戦闘で俺は『支援魔法』しか使っておらず、体力的に疲労したというわけでは無い。だが、東条さん達は違う。あれほどの激戦を繰り広げ、大した休息をとらないまま次の行動に移ったわけだ。有している体力がまるで違う。改めて、この調査部隊のメンバーとの地力の差を思い知られた気がした。
その後も『アーマー・ビートル』、『ブロー・ベア』と言った強力なモンスターとの戦闘を何度か繰り広げ、ようやく昼食の時間となる。やっと、一息付けそうだ……と、考えていたのは休憩が始まる前までのことであった。
昼食として持たされた食事は、腹持ちがよくて食べやすい具材がたくさん入ったサンドイッチだった。濃い目に味付けされた中に挟まれた具の味が、長時間の移動によって疲労した体にはちょうど良い。
俺がそんなことを考えている間も、この場にて東条さんと副リーダーさんが午後の予定を話し合っている。俺を含む他のメンバーもいる場所で話し合っていることから、会議の流れと内容を俺達にもしっかりと伝える目的もあるのだろう。実に風通しの良い職場だな。まぁ、屋外だし、風通しが良いのは当然か。
俺がアホみたいなことを考えていた、20分に満たない短い昼食の時間を終わらせると、すぐに『調査』を開始する。
彼らの『お金を稼ぎたい』という目的を否定するわけでは無いが、もう少し休息をとりたいなぁ、と言うのが今の俺の本音であった。




