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「檀上さん、そろそろ昼食を食べに行きませんか?」


日頃から何かと親しくさせてもらっている職員さんに誘われてようやく、思っていたよりも早く時間が経過していたことを知った。そういえば、先程からハヤトもそわそわとしていたような気もするがそう言う理由であったか。


ハヤトには申し訳ないことをしたなと思いつつ、お昼に誘ってくれた職員さんと一緒に食堂に行くことにした。


「あのような雑用、本当にお任せして良かったんですか?」


と、心配そうに語りかけてくる職員さん。


「ええ。まぁ、何もしていないよりは気が休まりますし、面白い情報に目を通すことも出来ますからね」


前職では終わりの見えない事務仕事を延々とこなしていた。それと比べれば、終わりが見えている分遥かに気が楽だった。ま、仮に終わらなくても自分にツケが回ってこないという環境が、より一層その考えに拍車をかけているような気もするが。


軽く雑談をしながら食堂の扉に手をかける。が、いつもとは違う、独特の匂いが食堂の中を満たしていたことに気が付いた。


「な…ん…何ですか?この匂いは…」


「…獣臭い?いや…何でしょうかね?でも、どこかで嗅いだような気もしないような…」


いつもは食堂のすぐ外で昼食を食べているらしいハヤトではあったが、今日はその匂いに当てられてか、食堂から少し離れた場所で待機の姿勢を見せていた。


何か良からぬ実験でもしているのだろうか?そんな不安が頭をよぎったが、すでに食堂に来ていた職員さん達が美味しそうなものを食べている様子が目に入ってきた。


「あれは……ラーメン、ですかね?」


「みたいですね。となると、この匂いは…豚骨ラーメンの匂いでしょうか?とりあえず、中に入ってみましょう」


促されるままに食堂の中に入って席に着き、食堂のスタッフさんが本日の昼食を持ってきてくれるのを待つ。その間周りを見回し、やはり、今日の昼食はラーメンであることを確信した。


「ラーメンであることは間違いないみたいですが、俺が知っている豚骨ラーメンよりもかなり匂いがキツい気がしますね」


「それは、このラーメンの使われている『ダシ』が豚骨ではなく猪骨、つまり『ワイルド・ボア』の骨が使われているからですよ」


俺達の食事を持ってきてくれた食堂のスタッフさん。先程の口調と彼の表情から、味に自信があることを読み取ることが出来た。


そのスタッフさんはそのまま食堂の外に出てハヤト用の昼食の配膳もしていた。ハヤトの今日の昼食は豚丼らしい。俺達の前を横切ったとき、ジューシーかつ香ばしい、とてもいい香りがしていた。


「……さて、そろそろ私たちも頂きましょうか」


折角のラーメンだ。麺が伸びてしまってはもったいない。と、言う事で早速頂くことにする。


まずは白濁のスープから頂く。スープに溶け出したコラーゲンによってわずかばかりトロみのあるスープはクリーミーでありながら、あっさりさもある不思議な味わいだ。ここのスタッフはラーメンの専門というわけではないはずだが、この味なら専門店を名乗っても十分にやっていけるだろうと確信。


麺のほうも俺好みの細身のストレートの固麺だ。スープも良ければ麺もいい。そんなわけで、2度の替え玉を頼んだ俺は、この豚骨もとい猪骨ラーメンを心行くまで堪能することが出来た。


ラーメンによって中断していた雑談を、食後の水を飲みながら再開した。


「今回はかなり当たりの部類でしたね」


「『今回は』?」


「ええ、檀上さんを始めとした調査部隊や支援部隊の方々がいらっしゃらない日中、この食堂では『新天地』の素材を使った新商品の開発に日々励んでいます。そしてそれが昼食として出てくるわけでして……」


なるほど。今回は当たり、ということは、当然ハズレもあるというわけか。


しかし、ハズレを昼食として提供することにここのスタッフは何とも思わないのかな?とも思ったが、どうやら試食のし過ぎで美味しいのか不味いのか分からないほど、舌がバグってしまうこともあるらしいとのことだった。


そんな新商品の開発も、当然ながら売りに出す素材に付加価値を少しでもつけるための研究の一つというわけだ。


つまり俺達『新天地』で活動しているメンバーの豊かな生活と、美味しい食生活を支えているのは、『協会』の職員さん達の尊い犠牲の上であったと言わけだ。より一層彼ら彼女らに頭が下がる思いがした。

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