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大型の重機が近くを通ったような、“ドドドドッ”という音と共に地面の揺れを身体全体で感じる。それだけでも、この『ボア』がどれほど巨体であるかの証明でもある気がした。


『獣道』の両脇に生えている木の影から、こちらに向かって勢いよく突進して来る『ボア』を観察する。外見はイノシシそっくりではあるが、大きさは2tトラックと同じぐらいはあるだろう。口の両脇から鋭い大きな牙が天に向けて雄々しく生えており、あんなものに突かれてしまえば致命傷は避けられないほどの物々しさをひしひしと感じる。


そんな『ボア』を前にしても、恐れることなく盾を構えているドワーフの勇敢さには頭の下がる思いがする。そして、待ちに待った———とは言えないが、ドワーフ達の構えた大盾に『ボア』が突撃した。


“バゴンッ!”という大型のトラックが巨大な鋼鉄の塀に突っ込んだような大きな音がした後、ビリビリとした衝撃波が少し離れたこの場所にまでやって来る。あまりの衝撃に思わず委縮してしまいそうになるが、そんなことをしてしまえば、そんな突撃を食らってもなお自分たちの役割を全うしているドワーフ達に面目が立たない。気合を入れて自分の役割を果たさなければ。


『ボア』は自分の突撃に絶対なる自信があったのだろう。その攻撃を防がれたことに少しばかり動揺しているようにも見えたが、すぐに気を持ち直し、再びドワーフ達に突撃するために後退し距離を取り始める。


だが、それを許すほど俺達は寛容ではない。ドワーフ達は大盾を構えたまま前進することで距離を詰め、助走をつけるための距離を稼がせない。そして、そんな鬱陶しい動きを見せたドワーフに注意が向いた瞬間、俺達人間とエルフが『獣道』の両脇から姿を現し、攻撃を加え『ボア』を挟撃する。


突然現れた伏兵に『ボア』も驚いていたようではあるが、『ボア』系統のモンスターは〈嗅覚〉といった〈索敵〉に近しい『スキル』があるので、俺達が近くに潜んでいるという事をあらかじめ予測はしていたのだろう。ドワーフの大盾によって動きが制限されていたが、即座に俺達の攻撃にも対応して見せた。


——いや、対応と言うのは少しばかり誇張した表現ではあるが、これほどの巨体だ。体を少しゆするだけでも、それを『ボア』よりも遥かに小さな生身でまともに受けてしまえば大きなダメージとなる。おまけに、体を固い毛皮で覆われており、剣で斬り付けても生半可な攻撃では奴に傷を負わせることすら出来ずにいた。


だが、俺達の役目は十分に果たしたと言える。何せ『ボア』にそういった敵を察知する『スキル』があるという事もこの作戦に織り込み済みであったからだ。俺達の役目もまた、大盾を持ったドワーフ達と同じように『ボア』の注意を自分たちに向ける事であり、真のアタッカーは最初からドワーフの構える大盾の後ろにいたのだ。


この中で一番高い攻撃力の持ち、近接戦闘に特化した屈強な肉体を持つドワーフの中でもトップクラスの実力の持ち主、ゴルグさんだ。これは最初から2段構えの作戦だったのだ。


『ボア』の注意が『獣道』の両脇から突如出現した人間とエルフに向かった瞬間、構えられた大盾の隙間から姿を現し、振り回すだけでも一苦労しそうな巨大な戦斧を『ボア』の首めがけて思いっきり降り降ろす。


決まった!と思わず諸手を挙げて喜びそうになったが、ゴルグさんの戦斧の刃先が中ほどまでで埋ったところで、硬い肉の盾に阻まれて動かなくなってしまったのだろう。ゴルグさんはそれ以上刃先を進めることが出来ずにいたのだ。


ただ『ボア』にも小さくないダメージを与えることには成功した。かなり痛がる素振りを見せた後、首を何度も振り戦斧から逃れようとする。ゴルグさんも抵抗はしたが、流石に体格もパワーも違い過ぎる。首に食い込んでいた戦斧が外れ、それを持っていたゴルグさん諸共近くの木に叩きつけられてしまった。


斬り付けられた首からボトボトと血がしたたり落ちる。このまま時間を稼げば、出血多量により『ボア』を倒すことが出来るかもしれないが……手負いの獣の恐ろしさは尋常ではないと聞く。そんな守りに入った考え方では、逆に被害が大きくなってしまう可能性も十分に考えられた。


ひとまずはゴルグさんを安全なところまで移動させて治療を……と思っていたが、即座に立ち上がり、何事もなかったかのように戦線に戻っていった。俺が思う以上にドワーフの体は頑丈にできているのかもしれない。


「檀上さん、少しいいですか?」


作田さんが俺に話しかけてくる。その間も俺達は『ボア』に対し『魔法』による援護射撃をしていたが、どれも決定打にはなりそうにない。まともにダメージを与えることが出来たのは、先ほどのゴルドさんの一撃だけであった。


「何です?」


「このまま戦闘が長引けば、もしかしたら何事もなく終わるかもしれませんが、戦闘音や血の匂いにつられて他のモンスターが来ないとも限りません。コイツ1体でも手間取っているというのに、混戦にでもなってしまえば……」


「つまり、あまり時間をかけずに、コイツを倒す必要があると?」


「ご明察の通りです。そこで檀上さんのお力を貸していただければと思いまして」


今でも十分にお力を貸しているとは思うんだが…これ以上となると、『アレ』のことを指して言っているんだろうなぁ。まさか、さっそく使う羽目になるとは思わなかった。とは言え、出し渋って被害者が出てしまえば絶対に後悔する自信もある。決断をするのは早い方が絶対にいいだろうしな。覚悟を決めよう。

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