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「……お金が無いのでしたら、あるところから出資してもらえば良いんじゃないですか?例えば、ほら、企業連合とか…?」
「企業連合、ですか……確かに、悪くないかもしれませんね」
顎に手を当てて真剣な様子で考え込む只野さん。難しいことは考えず、思い付きで言った事ではあるが、かなり好意的に受け取ってもらえたようだ。
「……あ!でも、そういったところから出資してもらうと、後で手に入れた情報を渡せとか、貴重な資源を発見したときも譲歩を迫られそうな気もしますね…」
企業連合は慈善活動家の集まりではない。彼らには彼らの利益を追求するという目的があり、未開の地の調査をするからという名目で、簡単に出資してもらえるわけでも無いはずだ。
「いえ、そこは全くもって問題はありません。むしろ、『協会』はエルフやドワーフの件でかなりの利益を見込めることが予想されていますので、企業から小さくないやっかみを受けています。ここで新たに発見された異世界の調査に協力してもらう事で分け前を渡す大義名分を与えるということは、それほど悪いものでもないかと思われます」
異世界産の品々は『協会』が主導となって日本各地に販売されていく。勿論、有名な企業とかが直接買い付けに来てはいるが、どうしても異世界からの信用と信頼のある『協会』の方が取引の額が多くる傾向にあるらしい。今後の付き合いでその傾向が変わることもあるだろうが、当面は『協会』の一強時代が続くと思われていた。
「それに……例えばですが、支援物資などに企業名などが入っていますと、雇われた探索者に対する宣伝広告にもなりますからね。今回の調査で集められるのは上級探索者、つまり実力者に自社の製品を知ってもらえるというのは、企業にとってもその効果が大きいものになりますね」
宣伝広告か……広告を打つってなると、企業からすれば、色々な人に見てもらえる方が魅力が大きいと言えるだろう。色々な人……色々な『人』かぁ………
「いっそのこと、エルフやドワーフも雇って、調査に同行してもらうって言うのも悪くないかもしれませんね。企業としても、異世界の人達に自社の名前を憶えてもらえる可能性が高くなるなら喜んでもらえそうですし」
やはり今回も特に深く考えたというわけでも無く、なんとなく口にした俺の考えだった。考えを口にした、と言うよりは、独り言をこぼしたと言う表現に近いだろう。ただ、その考え自体はかなり的を射たものになっていたらしい。
「やはり、檀上さんもそう思われますか!」
我が意を得たり、そんな感じで勢いよく俺の言葉に乗っかって来た只野さん。その圧力に飲み込まれそうになりつつも、未開の地、身の安全が確保されていない場所の調査に、異世界の住民を巻き込むことの危険性が無いのかと疑問に思った。
が、よく考えてみれば、この『ダンジョン』は人間の物だけではなく、この『ダンジョン』によって繋がっているエルフやドワーフの物でもあると考えることも出来る。
そんな場所の調査に、異世界の住民達を巻き込むのはそれほど不都合でもないかもしれない。
「そう言えば、どうしてその新しく発見された場所が、異世界であると判断されたんですか?普通のダンジョンみたいに、別の階層に移動しただけとかと考えられるんじゃないですか?」
「調査隊によって何体かのモンスターの討伐に成功したのですが、そのモンスターが光の粒子となって消えなかったので、そう判断されたんですよ」
エルフやドワーフのいる世界にもモンスターは生息しているが、『ダンジョン』の中のとは違い、倒しても光の粒子となって消えることは無い。そういった性質が異世界と似ているため、『ダンジョン』ではないと判断されたとのことだ。
「なるほど……ちなみに、その倒されたモンスターはどうなったんですか?」
「マジックバッグに収納されて、現在は湯川所長の元に送られて研究素材となっています」
湯川所長が狂喜乱舞している姿が目に浮かぶ。が、ドワーフどころかエルフの研究すら終わっていない状態で、新たな研究対象が届いたとしても碌な研究が出来ないんじゃないか?ま、俺には関係のない事だ。研究のし過ぎで体調を崩したとしても、ここには『回復魔法』を使える人もいるだろうから、多分、大丈夫だろう。
「檀上さんにもお手を借りることもあると思いますので、その心づもりだけはしておいてください」
去り際にそんな不穏な言葉を言われ、どことなく落ち着かない気持ちのままハヤトを回収し研究所を後にした。




