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島津さんから『魔剣』を受け取った日の翌日。『スキル』の訓練をしたいという名目でハヤトを研究所の総務課に預け、人がいない場所まで行き、そこで『魔剣』の性能を確認することにした。
総務課の職員さんも何人かは、俺がドワーフ製の『魔剣』を昨日島津さんから受け取ったことを知っていたのだろう。言葉には出していなかったが『頑張ってください』そんな意志のこもった温かな目線を俺に向けてくれていた。
そうして、何度目になるか分からないが〈索敵〉を発動して周囲に人の気配がないことを改めて確認する。周囲に人の気配がないことを再び確かめた後、満を持してというわけでもないが〈収納〉から『魔剣』を取り出した。
豪華さと絢爛さがちょうどよいバランスで調和する鞘から剣を引き抜く。
刀身は『アダマンタイト』と呼ばれる希少金属で構成されている。この『アダマンタイト』と呼ばれる金属、『ダンジョン』から産出される量が非常に少なく、刀身に使用されている量だけでも一財産と言えるだけの価値を有している。
それによって構成されている『魔剣』の価値が低いわけが無い。小市民である俺が、こうして持っているだけでも本来の重さ以上の何かを感じてしまうのも致し方ない事であろう。
『魔剣』とは言え、一応は魔道具の一つであるため〈鑑定〉をすることにした。
【 品 名 】 魔剣
【 スキル 】 〈切断力強化Lv8〉 〈自動回復Lv5〉 〈雷攻撃付与Lv7〉
〈剣術技能強化Lv4〉 〈剛撃Lv8〉 〈限界突破Lv8〉
実は見た目だけがすごくて、性能はそれほどでもない……そんな淡い希望を抱いて〈鑑定〉したが、やはり性能も見た目に劣らないだけの高性能であることが分かってしまった。
ここまで来てしまっては、もはやあきらめるしかない。この『魔剣』を使いこなせるようになることこそが、自分の身とこの『魔剣』を守るための唯一の手段だろう。
そうと決まれば早速訓練に入る。まずは基本の型を意識した素振りからだ。今まで使用してきた剣よりも長く、そして重さの違いから来る違和感により初めの内は思ったようにうまくいかなかったが、剣を振るごとにその違和感もなくなっていく。
それは恐らくこの〈剣術技能強化〉なる『スキル』が関係しているのだろう。そうでなければ、この新しい剣に慣れるだけでも数日は要していたはずだ。
武器の性能の良さに助けられていると感じつつも、これほどの武器、例え犯罪に手を染めてでも手に入れたいと思う人もいるだろうという不安がついつい頭をよぎってしまう。
邪念を振り払うように剣の素振りを続け、納得のいく動きが出来た辺りで小休止を挟んだ。
「やっぱ……一番気になるのは、この〈雷攻撃付与〉なんだよなぁ」
不安を紛らわすように、つい独り言をこぼしてしまった。
まぁ、いつまでも悩んでいたって仕方ない。物は試しとばかりにこの『スキル』の訓練もしておこう。確か、こういった攻撃は『魔剣』に〈魔法〉を発動する要領で魔力を流すのだったか。
〈魔法〉の『スキル』を有する人なら、それほど難しいものではないとあらかじめ島津さんから聞いていたが……出来た。刀身がパリパリとした雷を纏い始めた。ただ、込めた魔力が微量であったためか、『雷』というよりは『静電気』といった方がしっくりくる弱弱しさだ。
問題なく発動することは出来た、ならば次の段階だ。
この〈雷攻撃付与〉の最大火力も試しておこう。『魔剣』に込めることが出来るだけの『魔力』を込めて、横薙ぎに振るう。
すると剣筋に従って描かれた弧から、放射線状に雷が放出された。その範囲は優に10メートルはあるだろう。その放たれた雷の熱量によって地面に生えている草が炭化し、プスプスとした煙を周囲にまき散らしている。
〈魔法〉の『スキル』があるなら、こういった能力は必要ないのでは?と思われるかもしれないが、『スキル』の発動には小さくない集中力が必要となる。それは接近戦だと大きな隙になりうるわけだ。
しかし『魔剣』の場合だと魔力を込めるだけでこういった攻撃をすることも出来るし、何よりも込める魔力量によって、先程の様に放射線状に広範囲攻撃も出来れば、単に切っ先に雷を纏わせることで斬撃の威力のみを上げることも出来るわけだ。
戦況に応じてあらゆる対応が出来る。それがこの『魔剣』の持つ強みの一つだろう。そして今回の実験で最初に思ったこと。それは、『あっぶね~、最初に魔剣に魔力を込めた時、魔力量を少量にしておいてよかったぜ。調子に乗って大量に流し込んでいたら、黒炭になるところだったぜぃ』という、あまりにも小市民らしいことであった。




