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藤原さんが去り際に「ドワーフの方たちの展覧館が公開されるので、時間があるときにでも見に行かれてはどうですか?」と言っていたので、ハヤトを知り合いの職員さんに預け、早速見に行くことにした。


研究所から少し離れた場所に作られたその建物の外観は、質実剛健と言った、無駄を一切省いた様相を呈していた。


つまらない虚飾など不要と言う事か、それとも工期を短くするためにあえてそのような外観にしたのか。判断に迷うが、問題となるのは中身の方だ。ゴルド兄弟によって、ドワーフという種族が素晴らしい技術を持つことは知っていた。そんな種族がどういった物を展示しているのか早く知りたくなってきた。


展覧館の入口にはドワーフの警備員が2人。聞いた話だと、ここにはかなり価値が高い品も多数展示されているらしい。こんな小人数で、警備をするうえで出入口と言う最も重要な箇所を警備するのは戦力的に少しばかり心もとないのでは?という疑問が一瞬浮かんだが、彼らの装備する武具も未熟である俺が簡単に見て分かるほど素晴らしいものであることが見て取れ、その考えが杞憂であるかもしれないと考えが至る。


もしかしたら、彼らの装備品もまた展示物の一つ?なのかもしれない。ドワーフの持つ、武具や防具の性能の高さを知らしめるための。


一息ついて展覧館の中に入ると、外観の武骨さとは打って変わって、細部にまでこだわって作られたと思われる煌びやかな美術品がこれでもかというほど展示されていた。


今にも動き出しそうな金属製の彫像品を始め、一点の曇りもない美しい白磁のティーカップに色彩豊かに描かれた花々。木目の一つ一つまで計算して作られたと思われる過去の偉人と思われる木像に、美しい刀身を持つ剣にそれに負けないぐらい細部にまでこだわって作りこまれた柄と鍔。


見るものを圧倒させるというのはこの事だ、そう言わんばかりの品々を前に俺は時間を忘れて観覧を続けていた。ドワーフの技術力を人間に知らしめる、その試みは間違いなく成功すると言えるだろう。


ただ、その素晴らしい美術品とは裏腹に、驚くほどにこの展覧館に訪れている人の数が少ないということにようやく気が回った。中学高校の美術の成績は平均で3ぐらいであった平凡な感性である俺ですら、一度見れば何度も足を運びたくなるほどだというのに。


そんな事を考えていると、俺の真横に人が来た気配を感じた。パーソナルスペースが狭いというわけでも無いが、これほど近寄られてしまえば落ち着かないし気にもなる。驚いて横を見ると、そこにはドワーフの『商業ギルド』のギルド長であるガングさんがいた。


「どうですかな、我らドワーフが作り出した品々は?」


「素晴らしい、の一言に尽きますね。感性が疎い俺でも、ここにある品々には心を奪われてしまいますよ」


「それは良かった」


満足そうに頷くガングさん。よく見れば、彼の背後にはいかにも強そうな護衛と思しきドワーフがいた。護衛の姿を目で見て確認するまでは一切のその気配を感じず、ギルド長という重要な役職に見合うだけの強い護衛を連れているのだと思った。


「どうしてこれほど素晴らしい品々が展示されているというのに、ここはこんなにも人が少ないんですかね?」


言った後に『少し失礼な質問だったかな?』とも思ったが、それ以上に疑問に思ったのも事実であった。


「あぁ、それは簡単ですよ。ここはまだ一般公開されていませんからね。現在は『ダンジョン協会』の関係者の方のみに公開をしている、いわばプレオープンの状態でして。一般の方々に公開するのはもう少し後になる予定だからですよ」


と説明されて、素直に納得できた。確かに、展覧館が一般公開していたら俺に何かしらの情報が事前に入っていたはずだ。それが無かったという事は限定的な公開であったためであろう。藤原さんが俺に勧めたのも、一般公開した後では来客も多くなり、存分に楽しむことが出来ないので早めに行ったらどうですか?という意味だったのだろう。


聞けば一般公開が開始されたとしても、マスコミなどを使って大々的に宣伝をする予定は無いとのことだ。まぁ、これほどの品々が展覧されている場所だ。人伝でも十分すぎるほどの宣伝効果はあるはずだ。


「さて、この辺りでお暇させて頂きましょう。少しばかり仕事が立て込んでおりましてな」


多分、入口の所にいた警備の人が俺がこの場所に訪れたことをガングさんに伝え、わざわざ挨拶に来られたのだろう。お忙しい中、俺に挨拶をするためだけに来るとはかなり律儀な人だ。


「檀上殿はどうされますか?」


「自分は……もう少しここにいさせてもらいます」


「そうですか、それではごゆっくり」


軽く会釈をして去っていくゴンドさん。彼の姿が見えなくなると、目の前に展示されている、今にも動き出しそうなほどリアルなドラゴンの彫刻に視線を戻す。噂では高難易度の『ダンジョン』では稀にドラゴンが出現するのだとか。ドワーフ達のいる世界にもドラゴンも出現するんだな、そんなことを考えながらのんびりと観覧を続けた。―――そういや、太郎達に野菜をあげるのを忘れていたな。ま、明日でもいいか。




翌日、ヤギに詫びの気持ちを込めて多めにトウモロコシをあげた。非難がましい視線を向けられたような気もするが、許してくれてる……よな?……きっと。

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― 新着の感想 ―
質実剛健…つまりは「トウフ」ということでしょうか。研究所の横にトウフ建造物があるとすれば、企業秘密的な秘匿性の高い工廠のように勘違いしてしまいそうですね。 実はそういった狙いもあったりして!?
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