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「それで、その口ぶりからすると…?」
「ああ、エルフの時と同じように、君にお金以外の方法でその『借り』を返そうとしているらしい。いや、エルフ以上と言ってもいいかもしれないな」
大使館が完成すれば、彼の国のドワーフは安心してこの辺りにまで来ることが出来る。そしてそれは、人を呼び込むためのカンフル剤になるので俺にとっても利益につながるわけだ。気にしなくてもいいのに…と、本心からそう思っているのだが。
「と、おっしゃいますと?」
「ドワーフという種族は良くも悪くも職人気質といった具合でな。受けた恩と仇は倍返しにしないと気が済まないらしい」
「つまり、土地を無償で譲渡したことを恩と感じている、それを倍にして返したいという事ですか?」
「その通りだ。それで君に対する恩の返し方なんだが、どうやらドワーフらしく、自分たちが作り出した物で返したいとのことだった」
彼らのお手製の物を対価としたいわけか。物作りに深い造詣があり、自分たちの作り出すものが素晴らしく他者に喜ばれることを信じて疑わないほどの高慢な考え方と捕らえることも出来なくもないが、彼らの作り出した物を実際にこの目で見たことのある俺からすれば、それは決してうぬぼれではないと断言することも出来た。
「それで…一体、どんなものが俺に送られてくる予定なんですか?」
「私にアドバイスを求められたが、君の趣味趣向なんかは私も知らないからな。君の身を守ることに繋がる、武器なんかはどうだろうかと提案しておいた」
島津さんらしい、無難な考えであると思った。確かに何とかの彫像とか、何とかの茶道具みたいな、俺の様な凡人には少しばかり理解しがたいものを送られるよりは実際に使うことの出来る武器の方が遥かに嬉しい。
「ま、君ももうすぐ上級探索者だ。ドワーフ製の、高性能で素晴らしい武器を所持していればより安全になるだろう」
「はい………って、え?いま、何と…」
「……?聞こえなかったのか。君も上級探索者になるのだから、その上でドワーフ製の武器も持っていれば侮られることはないと言ったんだが」
「い、いや。聞こえてはいたんですが、ね。でも、何でいきなり上級探索者に昇格することになっているんですか、俺?」
聞いた話だと、上級探索者の資格を得るためには並々ならぬ試験を通過しなければならないと聞く。試験も何も受けていないのに、昇格するとはこれ如何に。
「上級探索者に昇格するには本来なら相応の試験を受けてもらわなくてはならないが、君の場合は特例中の特例だな。『エクストラスキル』の習得までの期間の短さから察するに、君にはまだまだ伸びしろがあるというのが上の考えだ。上級探索者とすれば実力は少しばかり足りないが……ま、立場が人を成長させるとも言う。少し早いが、君に上級探索者の資格を授与しておこうというわけだ」
中級探索者の時といい、『協会』は俺の立場をより強固なものにしてくれようと色々と融通してくれているのだろう。気を使ってもらって悪い気はしないが、どうも裏がありそうでちょっとだけ怖い。
「このことに関しては、ドワーフとの交流にも関係してくることだ」
俺が訝しんでいる表情をしているのを見て、言葉を続けてくれた。下手に隠されるよりも、こうしてちゃんと説明してくれるのは信用されている気がして嬉しい。
「ドワーフとの関係と言いますと?」
「簡単に説明すれば、エルフに続いてドワーフと言う種族とも交流を持つことによってこの場所の価値は更に数倍に膨れ上がったと言ってもいい。そんな場所に、たとえ不正な手段を用いたとしても己の利益のみを追求し、利権に深く食い込みたいと思う愚者は現れるものだ」
「…つまり、俺を脅してでも利益を得たいと思う人や企業が来るかもしれないってことですか?」
「『かも』ではなく、『すでに来ていた』がより正確な表現だな。君に色々と借りのある協会が今までは色々と裏から手を回してそう言った行為に事前に対処してきたが、協会もエルフやらドワーフの対応で人手が足りない状況だからな」
「つまり俺が上級探索者、それなりの実力者であると周囲が認識すれば、俺にちょっかいをかけようとする人達を少しは牽制できるし、出鼻をくじくことが出来る。それが協会の負担を減らすことに繋がる、と言うわけですね」
「そういうことだ」
今まで順調に物事が進んでいたのは、そういった裏で動いてくれた人のおかげなのだろう。改めて『協会』には頭が下がる思いがした。




