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物資運搬の指名依頼を見事に成功させ、追加の報酬でちょっとした贅沢を楽しんでいた。いつもよりちょっとお高い緑茶とカステラを楽しんでいると、島津さんから『時間があるときに来てくれ』と連絡が入る。


当然ながら時間を持て余していたのでそそくさと彼女のいる部屋へと向かうと、そこには俺と違い、相も変わらず忙しそうにしている島津さん達がいた。


「呼び出したのは私だが……随分と来るのが早いな?」


「大きな仕事を成し遂げた後なんで、少しばかり暇をしていましたからね」


正直暇をしていたのはいつものことではあったが、忙しそうにしている彼女にバカ正直に伝える必要はない。そしてこのタイミングで呼ばれたという事は、間違いなくドワーフに関連する事柄だろうと当たりを付けるのはそう難しい事ではなかった。俺個人としても強い関心があったので即座に行動に移したというわけだ。


島津さんも一息入れたかったのだろう。すぐに俺が座らされた来客用ソファーの対面に座り、話し始めた。


「今日は……ハヤトはいないんだな」


きょろきょろと俺の足元を見まわした後、少しばかり残念そうな口ぶりでそう話した。どうやら彼女の()()目当ては俺ではなくハヤトの方だったか。


「すみません、ちょっと前からお昼寝を始めちゃいまして。起こすのも可哀そうだったので置いてきちゃったんです。今度からはハヤトが起きているときに来るようにしますね」


「ん……!べ、別にハヤトがいないことが悲しとか、寂しいとか、そう言うわけでは…い、いや。何でもない…」


あせって取り繕おうとしていたが、最後の方は尻すぼみになっていた。彼女に預けていた数日の間、大分仲良くやっていたらしい。そして、そこをツッコまないのが大人の対応だ。話題を変えてあげよう、それがデキる大人というやつだ、多分。


「それで、今回はどういったご用件だったんですか?やっぱり、ドワーフ関連の事ですかね?」


「まぁ、な。…おっと、その前に。このダンジョンに出店する酒屋や居酒屋なんかの店の建築が早ければ来週にも着工する予定だ。今週中に責任者が一度君に会いに来るだろう、予定を空けておいてくれ」


空けるも何も初めから予定などない。問題が無いことを即座に伝える。


「それとドワーフの大使館の建築に関しても、君の意向通り、土地の譲渡は無償で構わないと先達に伝えておいた」


「ありがとうございます。それで、反応はどうでしたか?」


「大層驚いていたが、それ以上に恐縮といった雰囲気だったな。……『協会』の人間である私が聞くのもアレだが、エルフの時といい本当に無償で良かったのか?」


「まぁ、エルフの時も無償で土地を提供しましたからね。ドワーフからだけ対価を得るのも、ちょっと違うんじゃないかなぁって」


ただ、俺にもそれなりの旨味があったのも事実であった。土地を提供したことに対する対価は貰ってはいなかったが、エルフの大使館が出来てからは、この辺りに来るエルフの数はそれなりに多くなっていた。やはりそういった建物があれば、ある程度は信頼され安心してこちら側に来ることが出来るという事なのだろう。


そしてそのことを客商売をする店は当然喜んでいたし、増えたエルフが持ってきたエルフの国の品々などに関しては人間側の企業なんかはその希少性も相まって喜んで買取りをしていた。エルフは手に入れた『日本円』を使って、日本の様々な物品を購入して自国へと持ち帰る。そして、持ち帰られた日本の品々を見て、それを羨んだ他のエルフの商人がここにやって来る。そんなエルフを相手に日本側の企業が~といった流れが出来ていた。


その余波として『ダンジョン』に訪れる人も増えていったので、当然ながら俺の実入りも増えたのだ。そんなわけで土地を無償譲渡したことに関して思うところは一切なかったわけだが、エルフ側がそれを『借り』ととらえたのだろう。数週間後、トゥクルス共和国の王都にある一軒家の権利を俺に譲り渡してきた。


話を持ってきたのが俺とも親交のあるアルベルトさんと言う事もあり、断ることが難しいと判断してこれを素直に受け取ることにした。


しかし異世界にある建物の管理などどのようにしたらいいのかさっぱり分からない。と、言うことで、今回も『協会』に泣きついてその管理を任せていた。現在はトゥクルス共和国に商売に行っている日本の商社の企業戦士なんかに拠点として貸し出すことで、毎月の賃料を受け取っている。


実物をこの目で見ていないので実感があまり湧いてこないが、機会があれば俺もトゥクルス共和国へと行き、俺に譲られたという建物を見に行きたいと思っていた。

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