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合同訓練も特に何事もなく終わり、俺達一行は『協会』の戦闘員さんに警護されながら『ダンジョン』の外を目指して移動を開始した。
要人警護の訓練だとかで『ダンジョン』の外に出るまで一度もモンスターに遭遇しなかったのは、戦闘員の方々の能力の高さの証拠だろう。
モンスターが出現しない『ダンジョン』なんて何もない洞窟であり、道中があまりにも暇すぎてそれはそれで退屈なものではあったがそれは贅沢な悩みでもある。そんな移動にだけ体力を使う時間を数日過ごし、本当に何事もなく『ダンジョン』の外にまでたどり着いてしまった。
「ご苦労だったな。君たちに対する報酬は、『研究所』の職員を通して支払われるよう手をまわしておいた」
「ありがとうございます」
「何、こちらも実りある訓練をさせてもらった。君たちには本当に感謝しているよ」
そう言って、俺の肩をポンポンと叩き竹ノ内さんは部下を連れて『ダンジョン協会』の支部に引き上げていった。颯爽と去っていく後姿がカッコいいな、羨ましい。訓練と言うなら俺もそれなりに積ませてもらったし、有益な情報を提供してもらった。こちらの方が感謝しているぐらいだ。
依頼を無事に終わらせたので俺達も帰ることにした。さすがにこれだけの日にちが経過していれば、ドワーフの親善大使の方々も国に帰っているだろう。俺も安心して帰ることが出来るというものだ。
エルフ2人とドワーフを車に乗せエンジンをかける。車のラジオからドワーフという種族に関する情報と、親善大使が訪れてきたという内容の放送が流れていた。そしてその親善大使はすでに国に帰ったとも報じている。
ラジオをぼんやりと聞きながら運転をし、暇つぶし兼眠気覚ましに同乗者から話を聞くことにした。
「私に同行したのがそれなりの強さの人たちだったからね、初めから連携はかなり上手くいっていたと思うよ」
「…同じく。あと、魔法の使い方のコツとかも聞かれた」
とのことだ。両名とも俺と同じように充実した訓練を積めたようであり、コミュニケーションなんかも戦闘員の人達が色々と気を配ってくれたらしく、円滑にすることが出来たらしい。
「ライラさんはどうだった?」
「わ、私の場合は、アウラさん達とちょっと違うような…」
否定的な言葉ではあったが、そこに悪い感情と言うものは感じられない。
「何か、不都合な事でもあったのか?」
「不都合と言うか、何と言うか……み、皆さん、私を子ども扱いして来て、そこはちょっとだけ嫌だったなぁって…」
まぁ、ライラさんの見た目はどう見ても年端のいかない少女のものだ。彼女を子ども扱いしてしまう気持ちも分からないでもない。ただ、確実に言えることは、彼女を子ども扱いした人達の多くは彼女よりも年下であるという事だ。
「ち、ちゃんと、私の年齢とかも教えたんですよ?それでも、待遇が変わらなかったというか…」
ちゃんと前衛としての仕事も任されてはいたらしいが、ちょっとしたことでもケガが無かったとか大層周りから心配され、あまりにも気を遣われたことで却って気疲れてしまったのだとか。
ただ、その代償?としてか、別れ際、知り合いになった戦闘員の人から餞別としてたくさんのお菓子やらお土産を貰ったのだとか。そんな感じで最後までライラさんに対する子ども扱いは変わることは無かったらしい。
「檀上さんはどうだったの?」
「俺か?俺は…まぁ、ボチボチ、かな?終始俺のスキルに合った役割を任されたし、近接戦闘のコツなんかも教わった。勿論、藤原さんからも色々と教わってはいたけど、集団戦闘の自分の役割をどのようにこなすのが班全体の戦力向上に繋がるのかは、実戦で相手がいる状態で確かめた方が分かりやすかったな。ホント、実りある訓練を積むことが出来て良かったよ」
「ふ~ん。じゃ、仮に今後強力なモンスターと大勢で戦う機会があったとしても、準備は万端ってことだよね?」
「おいおい、縁起でもないこというなよw」
そんな和気あいあいと雑談を交えながらの運転は思ったよりも時間の経過が早く、あっという間に車窓からは見慣れた風景が見え始めていた。




