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ここにきている戦闘員の方々の主たる目的は、中級探索者に満たない戦闘員に強敵(中級探索者から見れば)と戦わせ『格』を上げる事だ。RPGで例えると本人のレベルよりも、『推奨レベル』が高いエリアでレベリングさせる行為に近いだろう。
俺の目の前では熟練の戦闘員によって弱体化させられた大型の人型モンスター『アイアン・ゴーレム』を相手に、額に汗を流しながら必死に鋼鉄製のハンマーを叩きこんでいる新人っぽい戦闘員の様子を観察する。
「流石に、アイアン・ゴーレムはかなり固いみたいですね」
「ですが防御力が高い分、機動力はかなり低いですからね。新人に自分よりも強いモンスターを倒させるには、多少時間がかかろうともこういった相手を倒させる方が安全かつ確実ですからね」
この班のリーダーである葉山さんと雑談をしながら周囲を警戒していると、新しいモンスターの反応があった。時間をかけすぎたためか、戦闘音を聞きつけたためか。確実にこちらを目指して接近中であった。
すると葉山さんが『どうします?』と言った表情で、こちらの様子を窺ってくる。『アイアン・ゴーレム』の物理防御力はかなり高いが、魔法防御力はそれほどでもない。俺の〈魔法〉で倒さないか?と聞いているのだろう。
相性も悪くないし、今の俺の実力からしても手間取るような相手でもない。つまるところ、異論はないというわけだ。新人君の戦闘の邪魔にならないよう、距離をとるために俺は1人接近してくる『アイアン・ゴーレム』の方に向かう。
聞いた話だと人型のモンスターは比較的人間と同じような身体構造をしているのだとか。『アイアン・ゴーレム』に関しては、頭部は他の箇所よりも防御力が高いが、逆にそこを破壊すると即座に倒すことが出来るらしい。
手足の関節部などに関してはそこを破壊しても致命傷にはなりえないが、動きを大きく制限することが出来る。つまり関節部などを先に攻撃して無力化すれば、今新人っぽい彼が戦っているような、弱体化した状態に簡単に持っていくことが出来るというわけだ。
そんな事を考えていると、鈍重な動きを見せる『アイアン・ゴーレム』がようやくその姿を現した。
「〈ファイヤー・バレット〉!」
複数の炎の弾丸を『アイアン・ゴーレム』の足の関節部に向けて射出する。1発1発の威力こそ大したものでもないが、連続して同じ個所にぶつけることで着実にダメージを積み重ねていく。
ダメージが蓄積し、ほどなくして自重を支えられなくなった『アイアン・ゴーレム』がその場に倒れ伏す。とは言っても致命傷には程遠いため更なる追撃を加える。
「〈ファイヤー・ジャベリン〉!」
人間で言うところの首と肩の境い目の、僧帽筋の上部に当たる部分に貫通力の高い〈魔法〉による一撃を加える。
やはり人間と同様、頭部に近い個所に大きなダメージを負うと他の箇所よりも効果は高いらしく、俺と敵対した『アイアン・ゴーレム』は光の粒子と化した。ドロップアイテムを回収し葉山さん達のいる場所まで戻る。
「お疲れ様です。ちょうど良いタイミングだったみたいですね」
そう言って、葉山さんが戦闘中であった新人の方を指さす。ほどなくして『アイアン・ゴーレム』が光の粒子となって消えた。なるほど、ちょうど良いとはそう言う意味か。
新人君も疲労困憊といった顔をしながらもドロップアイテムを回収し、こちらに戻って来る。すると新人君が俺の方を見た瞬間、驚いたような表情を見せた。多分、俺が手に『アイアン・ゴーレム』のドロップアイテムを持っていたことを驚いての事だろう。
かつて剣持さん達に同行してもらったとき、俺も今の彼と似たようなことを思ったのだと思うと、不思議と笑みがこぼれてしまう。あれから約1年、俺も随分と強くなったものだ。
近くには『協会』に所属する戦闘員が多くいる事、そしてこの辺りには俺との相性が良いモンスターが多い事もあって今回はかなり積極的に戦闘に参加していた。何度目かの戦闘の後、今までにない感覚と言うか何と言うか…とりあえず今まで以上に、どこか自分の体が『ダンジョン』という環境に適応したような不思議な感覚を覚えた。
もしかしたら、何か新しい『スキル』を習得したのかもしれない。期待を抱きつつ自分の『スキル』の確認に入る。
【 種 族 】 人間
【 名 前 】 壇上 歩
【エクストラスキル】 ≪探索者≫
【 スキル 】 ≪上級剣術Lv1≫ ≪肉体超強化Lv1≫
〈回避Lv5〉 〈剛力Lv3〉
〈鑑定Lv8〉 〈索敵Lv6〉 〈忍足Lv5〉 〈調教Lv1〉
〈火魔法Lv9〉 〈支援魔法Lv4〉
………見慣れた『スキル』に初めて見た『スキル』。そして以前あった〈剣術〉と〈肉体強化〉が消え、≪上級剣術Lv1≫≪肉体超強化Lv1≫という『スキル』を習得していた。
そして何よりも疑問に思ったのは【エクストラスキル】と言うものだ。………ま、分からないことは素直に人に聞くことにしよう。都合がよいことに、近くには頼りになりそうな人がたくさんいるからな。こういった幸運も俺の日頃の行いの良さに違いない。




