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「それで、どうする?」
とりあえず当事者らに意見を聞くことにした。
「私は別に、どっちでもいいかな?」
「…同じく」
「わ、私もどちらでも構いませんが…」
どちらかと言えば、肯定的な意見が出そろった。しかし共同で訓練をするにしても気になることがある。まずは、彼女らの雇い主である俺がその辺りについてしっかりと確認しておかなければ。
「彼女らはああ言っていますので、共同訓練することに問題は無いかと思われます。ですが、私たちは支援物資を届けた後はすぐに帰ることになっていました。帰るのが遅くなれば、心配させてしまい方々に迷惑をかけかねないのではないでしょうか?」
「うむ、当然の意見だな。ダンジョンの外にいる協会の関係者に、君たちが我々と訓練をしているということを人を使わして報せることにしよう」
「ありがとうございます」
「なに、礼など不要だ。こちらが頼んだことなのだからな。それと、今回の訓練に付き合ってもらうことに際して、きちんと報酬が出るように手を回しておこう。無論、檀上君。君にも出るようにしておこう」
報酬と言う言葉に、俺の後ろに控えていた女性陣が非常に喜んでいる気配を感じた。現金なものだ。それにしても、まさか俺にもちゃんと報酬を用意してくれるとはな。かなり太っ腹なおじさんだ。
「今日はもう遅い。本格的な訓練は明日からにさせてもらおうか。君たちも、今日はゆっくり休んでくれたまえ」
とのことで、セーフティポイントに設置された宿泊場所に案内された。まぁ、宿泊場所と言っても、簡易的な寝具が置いてあるだけの簡素なものではあったが。
それでも、周りを『協会』に所属している戦闘員に囲まれているという環境はそれなりに頼もしいものがあり、安心することが出来る。ここ数日は常に気を張った状態で眠っていたため、その安心感もあって横になるとすぐに眠ってしまっていた。
「おはようございます。昨日はよく眠っていたようですね」
寝ぼけ眼でぼんやりとしていると、『協会』の戦闘員の人にそう声をかけられた。「ん……あぁ、はい」そんな気のない返事を返すと、お腹が『ぐ~』と鳴ってしまった。非常に恥ずかしい。よく考えたら、昨日は夕食を取る前に眠ってしまい、そのまま朝を迎えてしまったようだ。
「朝食の用意が出来ていますので、まずは食事にしましょうか」
先程のお腹の音をさらっと聞き流してくれた上に、食事まで勧めてくれた。ありがたいことこの上ない。恥ずかしさもあってそそくさと移動する。
案内された場所ではすでに朝食の用意を終えており、幾人かの戦闘員の方々が朝食を摂っていた。そこに加わり俺も朝食を頂く。塩おにぎりに具だくさんの豚汁というありふれた朝食であったが、空腹と言う最高のスパイスも加わることでかなり美味しかった。
その食事の最中に本日の予定を聞かされた。どうやら昨日のうちに、眠ってしまっていた俺を除く他の皆にはその予定を知らされていたみたいだが、昨夜は俺がいつの間にか熟睡していたので、気を遣って起こされなかったらしい。
そんな大事な告知があったにもかかわらず、それに一切気が付かず熟睡していたとは…ここ数日は、自分が思う以上に気を張り疲労していたのかもしれない。
「流れとしては、数日かけて各班1度はエルフかドワーフを組み込んでのモンスター討伐に出てもらう予定です。檀上さんが加わる班では、緊急時などで即席パーティーを組んだ時でも、即座に連携を取れるための対応力の向上を目的に訓練を積んでもらう予定です」
との事らしい。俺としても異論はないので了承の意を伝える。食後は戦闘の準備を整えて、念のため武器などの確認をしておく。
ほどなくしてカイゼル髭が似合いそうなおじさん、竹ノ内さんが出発の挨拶をして、それぞれがそれぞれも持ち場に赴くことになった。
「今日は1日、よろしくお願いします」
共に行動することになった『協会』の戦闘員の人たちに挨拶をして回る。その中には、今朝俺に朝食を勧めてくれた人がいた。ありがたいことに色々と気を配ってくれたのだろう。そう言った心遣いが非常に嬉しいと感じた。




