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セーフティポイントには俺たち以外にも『探索者』はいたが、これと言って絡まれることもなく、何事もなく夜を明かすことが出来た。
翌日の朝食は昨夜のパンの余りとフリーズドライのちょっとお高いスープを添えて、食後のデザートにエルフ産のドライフルーツを食した。
外国からの輸入品?と言う事もあり、エルフ産のドライフルーツは結構いい値段がするが、かなり美味しいので常食している。いわゆるプチ贅沢と言う奴なのか?ま、収入はそこそこあるし、このぐらいの贅沢は許されるだろう。
昨日と同じ陣形でダンジョンの奥地を目指す。変わったことがあるとすれば、ポップするモンスターが強くなっていることが上げられるが、同行しているメンバーが実力者と言う事もあり危険を感じることなく進むことが出来ていた。
「前方にモンスターの反応6!約40秒後に接敵するよ!」
アウラさんの警告により戦闘態勢をとる。その10数秒後に俺の〈索敵〉でも感知することが出来た。この反応からすると、先程戦ったモンスターと同じ種である『グレーウルフ』だろう。
モニカさんが盾を構えたので、俺は彼女の影に隠れるように、そしていつでも援護できる位置取りをする。アウラさんは弓を構えたままライラさんの傍により、彼女が〈魔法〉を放つタイミングで邪魔をされないよう援護できる位置に移動した。
アウラさんが警告したタイミングとほとんど同じタイミングで6匹の『グレーウルフ』が目の前に現れ、躊躇することなくこちらに襲い掛かって来た。
先頭にいた1匹をモニカさんが盾で殴り飛ばし後方にいた『グレーウルフ』にぶつけ、これによって前衛と後衛を大きく分断させる。その隙に彼女の両脇から後衛に抜けようとした2匹がいたが、〈挑発〉を発動させたモニカさんに吸い込まれるようにターゲットを移し彼女に攻撃を加える。
盾と手斧を使ってこれをうまくいなしている隙に俺がその『グレーウルフ』を後ろから攻撃し、後方にいる『グレーウルフ』に注意を払いつつ1匹ずつ確実に仕留めていく。
俺が先行した2匹の『グレーウルフ』を倒し終える頃には、後方にいた『グレーウルフ』をアウラさんが弓によって、ライラさんが魔法によって2匹ずつ仕留め終わっていた。
戦闘後は念のために〈索敵〉を発動し、隠れ潜んでいるモンスターがいないかを確認。異常がないことを確かめた後ようやく一息入れた。
「……ふぅ。お疲れ様。モニカさん、怪我はないか?」
「だ、大丈夫、です。ダンジョウさんの方こそ、大丈夫ですか?」
「『優秀な』タンクのおかげで何ともないよ」
さり気なくヨイショしておく。向こうも褒められて悪い気はしないだろうし、こういった相手に対する心遣いがパーティーの連携をよりよい物にできるきっかけの一つになるというのが俺の考えだ。
そそくさとドロップアイテムを回収し、再び移動を開始する。
「そういえばなんだけどさ、今回みたいにダンジョン協会の戦闘員の人がダンジョンで戦闘訓練をするってのはよくある事なの?」
「ん~、どうなんだろ。俺も協会の関係者ってわけじゃないから詳しい事は知らないんだけど、今回のは戦闘訓練ってよりはレベリング…『格』をあげることだけに注力しているらしい」
「でも、『格』だけ上げても、スキルレベルが伴っていないんじゃ戦士としては二流以下なんじゃない?」
「それを補うための俺のダンジョンってわけだ」
「あ、ナルホド」
と、アウラさんが納得したように、いざとなれば俺の『ダンジョン』を『スキルレベル』を上げるための場所にする前提で、この訓練を決行しているらしい。そんなわけで、現在この『ダンジョン』に潜っている『協会』に所属する戦闘員はその3割ほどが中級探索者以下の実力しか持たない、比較的未熟な者達で占められており、それ以外の実力者が全面的にバックアップすることで急速な『格』を上げるための作業に入っているのだとか。
どうしてそのような方法を取っているのかと言うと、どうやら『俺』という存在が少なからず関与しているらしい。何せ1年ほどで上級探索者に近いだけの強さを手に入れることが出来たのだから、それにあやかろうとしているわけだ。
勿論、俺の適正率の高さもあるだろうが、実力に見合ったモンスターとの戦闘で強さを高めるのと、とりあえず『格』を上げてから戦闘技術を磨くのとで、どちらがより効率が良く成長できるのかの実験でもあるのだろう。
『協会』という巨大な組織に影響を与えたことに対する誇らしい気持ちもあるが、もしこの試みが失敗しても俺のせいにはされないよな?という、一抹の不安もあった。




