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はじまりのお伽噺

 箱庭の中、小さな小さな世界の中で錬金術師は空を見上げました。青くてきれいな空と白くてふわふわとした雲の向こうには神さまが住んでおられるそうです。神さまなんて見たことがない、そんなもの、きっと昔のひとが作り出したまぼろしだ。だれもがそう思っていましたし、錬金術師だって同じように思っていました。ある日、澄んだ空から天のみ使いが降ってくるまでは。


 雲を突っ切って、傷ついた翼を持った白くてきれいな天のみ使いは落ちて、錬金術師の目の前に。とっさに錬金術師が伸ばした腕の中には、いつのまにか少女の姿の天のみ使いが。


 錬金術師は天のみ使いを大事にしました。たいせつに、たいせつに、天へかえってしまわないように黄金の鎖で天のみ使いの手も足もかたい地面に縛り付けました。


 やがて美しい天のみ使いを連れた錬金術師は小さな箱庭の王さまになりました。錬金術という奇跡を人びとに請われて、たくさんの願いを叶えてきたからです。きれいな羽の生えた生きものを連れているのだから、この人は特別な人にちがいないと人びとが考えたからです。


 望まれて、そして望んで王さまになった錬金術師は、白亜の城をつくって、高い尖塔をつくりました。きれいな天のみ使いを人びとに見せて、あがめるように言づてしたあとに、王さまはこのせかいで一番天に近い塔のてっぺんに天のみ使いをとじこめました。だれにも──神さまにも取られてしまわないように。


 ほんとうのことはわからないけれど、たぶん王さまは天のみ使いを愛していたのです。きれいで無垢な天のみ使いの、金剛石の瞳に恋をしたのです。王さまは毎日塔に登りました。血のような紅玉、深い海のような藍方石、月が流した涙のような月長石。たくさんたくさん宝石や物語をあつめて、王さまは天のみ使いを微笑ませようとがんばりました。けれど、彼女はぼろぼろの翼を抱いて空を恋い、鈴蘭の声で泣くばかり。


 そして、ある朝、天のみ使いは死にました。なきがらの代わりに硝子の花が咲きました。虹色にかがやくきれいな花は決して枯れることはありません。それなのに、愚かな王さまは天のみ使いを生き返らせようと硝子の花をこなごなに砕きました。硝子の粉とその羽をまぜてひとを形づくります。そうしてつくった天のみ使いは、金剛石の瞳をした白くてきれいな少女の姿をしていました。けれど、けれど、けれど。その天のみ使いもどきには声がなかったのです。翼も半分しかありません。


 失敗だ。


 深く絶望した王さまは短剣で胸をひとつきして死にました。目を覚ましたばかりの天のみ使いもどきの目の前で。


 あわれに思われた神さまはうまれ落ちたばかりの天のみ使いを眠らせました。王さましか入ることのできない塔の上で、いつかおわりの王さまが訪れるその日まで。


 ──これがはじまりのお伽噺(つみのうた)

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