餌付けがきいてしまった空腹少女(6人目)
ある日の昼休み、一人の女生徒がフラフラしていた。気になって声をかけるとどうやら購買戦争に負けて空腹なのだそうだ。
仕方なく俺は自作のおにぎりを渡してやったんだが、それが気に入ったのかそれから毎日俺の弁当を狙ってくるようになってしまった。涎をたらされながら見られているのでは落ち着けるわけもなく、しかたなく今日も彼女におにぎりを渡すのだった。
「えへへ・・・。これからもずっと君の握ったおにぎりが食べたいなぁ」
うれしそうに頬張る彼女を見ると、もはやなにも言えない俺なのだ。
◇ ◇ ◇
「このヒロインは捨て犬か何かか?」
「獣人とかいう線も捨てがたいでござるが人間でござる」
「人間というのはこんなふうに食べ物で彼女になったりするものではなかったハズでは?」
「まあ、そうでござるな。空腹であっていつもよりおいしく感じる状況でどおいしいおにぎりだったからこそこうなったでござる」
「こうなった?浩之にとっても予想外だったということか」
「そうでござる。これはこの地獄に入る際に生前の記憶を持って入ることが原因でござるな。ほら、拙者生前一人暮らしだったでござるし、ギャルゲやコミケのために節制もしていたでござる。当然その一環で自炊もお手の物でござる。それがウン十年続いていたでござるからそれなりに美味しいものが作れるようになっていた、そしてその味が彼女の口にベストマッチしてしまったというワケでござるな」
「な、なるほど」
「このままだと彼女のルートは出会いこそ皆同じように空腹でござるが、プレイヤーの料理の腕が一定数ないとフラグが折れるでござるな。ファーストインパクトで料理を気に入られなければ、校内で見かける程度のことはあっても話しかけられることはないし、あの時は助かりましたぐらいの話しかしない友達未満ぐらいで終わるでござるかな。まったく・・・本来はそのあの時は助かりましたから交友を深めていく手筈だったのでござるが」
「いつからこの地獄はグルメ地獄になったのであろうな」
「まったくでござるな。まあ設定値を下げる程度のことはしておくでござる。ものの本によると現代人は皆が皆ごはんを作れるわけではなさそうでござるからな」
「ちなみにだが何を作ったんだ?映像からは大きいおにぎりということしかわからんが」
「いつぞやテレビでやっていたおかずを全部おにぎりの具にするやつでござるな。いわゆる山賊むすびや海賊むすびの亜種みたいな。あの時はたしか甘めの卵焼きと唐揚げ、きんぴられんこんでござったかな。旨いうえにボリューム満点、一つで大満足でござる」
もはや私は地獄の内容云々よりも浩之の料理のほうが気になってしまっていた。次の日作ってくれといってみたら快く作ってくれた。ギャルゲのルートを変えたかもしれないそのおにぎりは大変美味だったと記しておこう。