図書館にいる無口少女(2人目)
図書館に行くといつもいる少女。
読書に集中する目立たない彼女はこっちが何を言っても基本は何も言ってこない。
なんとなく気になって毎日図書館に通い、一方的に話しかける俺。
何度も何度も話しかける俺にようやく少女は言葉を返してくれた。
「・・・わたしもこの本のような恋愛がしてみたいなぁ」
少女のその言葉をかなえてあげるべく、その日俺は初めてその少女と一緒に下校することになるのだった。
◇ ◇ ◇
「・・・これはまだ途中なのではないか」
「そうでござるが、ここからはいわゆる普通の展開でござるよ?それでも見るでござるか?」
「なんだ?その普通の展開というのは」
「普通の恋人未満の状態が続き、その本に書いてある通りの行動を主人公とするでござる。読んでいる本はシリーズ化している小説でして、遊園地行ったり花火大会行ったりで普通に恋心を育んでいき・・・最後には主人公と永遠の口づけを交わしいつまでも一緒に暮らしましたで完結する王道の恋愛小説でござる。その本を主人公が読むスピードに合わせて二人の親密度も変わっていくのでござるよ」
「本の通りって・・・十分ヤバイやつではないか!?その本にもし『私を守るために人を殺して』とかあったらやるのかい?」
「・・・考えてなかったでござるな。そもそもそれは拙者が知っているギャルゲにはあまり無いでござるな」
「そうなのか」
「あくまで恋に恋する少女のバイブルとして本という小道具を使ったにすぎないわけでござる。その『恋に恋する』を本の通りに動きつつ主人公が卒業させるところに意味があるのでござるよ。そんな猟奇的な彼女はちょっとジャンルが違うでござるよ」
それはそうか。あくまで恋獄の作成なのだ。そんな猟奇的なものは必要ではないか。
「マヤ殿が入れた方が良いというのなら会話シーンにて別の本を薦めるシーンを作って、そういうバッドエンドルートっぽいこともできるでござるが・・・」
「いや、いい。余計なことを言ったな」
「いえいえ。拙者としても他人の意見もあるほうが嬉しいでござる。で、どうするでござるか?一応拙者は最後までプレイしているので完全版として作ることも可能でござるが」
「・・・浩之とヒロインのキスシーンまでか?」
「残念ながらキス未遂でござったな。テストプレイという制限だからかなのか寸止めまででござるよ。さあこれからというところで冥界にある自分の部屋に戻されましてな」
「そうなのか?なんならその制限は外してやろうか?」
「ありがたい申し出ではござるが結構でござる。拙者に地獄の中の休息所は必要ないでござるからな。あくまでここに戻れない魂たちのためのものでござる」
浩之、こういうところやけに真面目なんだよなぁ。報酬がほぼない仕事なんだからそういうご褒美はもらっておけばいいのに。
「スポンサーの数少ない意見を見てみればいずれ必要になるかもとは思うでござるが、それまでは今のままでいいでござる。拙者の上司がマヤ殿であるかぎり、マヤ殿のおそばに居られることこそが褒美でござるからな!」
いかに理想の姿形をしているとはいえその忠義はなんなんだろうな。ちょっと怖い。
あ、記録用の動画は完全版をお願いしておいた。普通の展開を知らない私には十分な教材だからな。あとでしっかり学習しておこう。