プロローグという名の制作動機
私は閻魔である。名前は少し前に出来た。マヤという。
今日も今日とていろんな世界の死者たちが送られてくるこの冥界の裁判所、その裁判官の一人である。
そんな私にはちょっと前に我らが大王から我ら閻魔一人一人に課せられた宿題があった。
それは「新たな地獄」を作るというもの。
今までの針山とか極寒のようなものとは一線を画すようなものを作ろうという大王の思い付きから始まったワケである。それを生み出す力も人脈も与えらえれ、後はどのようなものをするか・・・というところまで計画は進んでいた。
しかし私には全くアイデアが浮かばずに日々を費やしていた。
・・・あの日までは・・・。
あの日も私は淡々と仕事をこなしていた。
「ハイ。次の者」
そう私が言うと、秘書のようなモノが次に裁くべき魂のどのような生き方をしたか、どんな死に方をしたかなどなど書かれたプロフィールらしきものを渡してくる。
私はそれに目を通し幾つかの質問を行い判決を下す。
これの繰り返しである。
その流れ作業を続けていると、流れが一つの魂で詰まった。
不審に思い顔を上げると、その魂は魂であるに関わらず・・・私を見て興奮していた!
もちろん他のモノには魂は松明の炎のようにしか見えない。なので興奮していると判断できるのはその魂の真実を映す鏡を持つ閻魔たる私だけだ。
恐れられることはあっても、興奮されることは滅多に・・・いやほぼない私にとってそれは新鮮に映ってしまいその魂を一旦列から外し、個別に時間をかけての尋問することにした。
「おい。お前何故私を見て興奮しておるのか?」
ノルマを終えての最終の魂に再び興奮していた魂を連れてこさせて、この裁判所始まって以来あまり聞いたことのない個別面談がはじまる。個別面談では私の裁量でその場でその魂を消滅させることもできるし、その逆でこの場限定で魂を死ぬ前の状態に戻すこともできる。
ひとまず仮の肉体を与え面談をはじめる。魂の名・・・つまるところ生前の名前は浩之。いまの私のパートナーであり新たな地獄づくりにアイデアをもたらして実践をしてくれている奴である。
浩之が言うには生前思い描いていた通りの姿(私)がいたことで生死を忘れて興奮してしまったということだ。私はその言葉に不審を抱いた。なにせ地球の人間が思い描く閻魔というのはおっかない顔の親父という認識でとても興奮を覚えるようなものではないと記憶していた。しかもだ。その姿は所詮は人が思い浮かべている姿であり実際には魂と同じような姿なのだが・・・。しかし念のため持ってきていた真実を映す鏡に嘘とは出ない。どのような姿なのかと私は浩之が見ている姿を私自身に投影してみることに。
姿見を出現させてその姿を見ると・・・なんとナイスバディな人間・・・いや人間にしては均整が取れすぎているな。出るところは出、締まるところは締まる理想の体型。誰もが憧れを抱くような顔。おおよそ人間界にいたとは思えない、つまるところ二次元に存在するような人物がそこにいた。
その姿に戸惑う私に浩之は我を忘れたかのように私が実体化したのをいいことにルパンダイブを決行。しかし閻魔と仮の肉体を与えているとはいえ一魂。その目論見を一蹴しとりあえず閻魔を襲うとは何事かと、とりあえず説教しておいた。
落ち着くのを待って面談再開。簡単なまとめプロフィールでは分からんところまで色々聞くことになった。
この浩之。生前は知力体力ともに平均点か平均より少し上という平凡能力でありながら大層なオタクであったらしい。ギャルゲーや美少女ゲーを主戦場とし、オトしたキャラは数十万という筋金入り。同人ゲームにも造詣が深く、ゆえに擬人化という文化にも明るく、ゆえに私を前にして興奮していたというわけである。
普段ならここらで私の疑問、なぜ興奮したのかが分かったのだから他の魂同様に判決を下すところなのだが、私に(性的に)襲い掛かってくるなんていう猛者の出現に私も少し混乱していたのだろう。そしてまだかまだかと大王にせっつかれている宿題の件もあり、ついポロリと「どんな地獄にいきたいか」と聞いてしまった。地獄は当然なのだ。なぜなら私に襲い掛かって来たんだからな。
「そうでござるなぁ~・・・ギャルゲーの世界に行きたいでござるな!」
・・・私は耳を疑ったね。「どんな地獄」と聞いたのに「どんな世界」と帰ってくるのは質問と回答が違いすぎる。冷ややかな目で見ている私に向かい浩之はこう続けてきた。
「いやね。拙者たちが長い生涯での遊戯として彼女たちの日常の一コマを覗いて影響を良くも悪くも与えて行くのと違い、その世界で生きていく主人公やらヒロインやらには定められたそのゲーム内でしか、もっと言えば定められた期間しか生がないわけでござろう?ある意味人生の同じ場所を何度も何度も繰り返すだけのつまらない人生。そんな永遠が続くわけでござる。続編が出ても大抵主人公は変更されるわけでござるし。それを地獄と呼ばずになんと呼ぶでござろう!?」
・・・こじつけだが、妙に説得力があった。目からうろこ。言われてみればそうだな、と思ってしまった。後々冷静に考えればそうプログラムされているのだから当然のことだったのに・・・。
思ってしまった私の行動は迅速だった。その日のうちに私は浩之を自分の配下として雇うことを決め(その時に浩之から「閻魔は職業だ」ということでマヤという名前を授けられた。どうやらモンスター娘系ゲームに出てくる閻魔大王のキャラクター名らしいが別にいいかということでそうなった)、細かいところまで二人で相談(ほぼ一方的に浩之が提案して、私がそれまとめてい企画書を仕上げていく)し、大王および関係各所にプレゼンして新たな地獄が出来上がった。
『恋愛地獄』通称『恋獄』
これが私の地獄である。
当然大王やら関係各所からは「こいつ大丈夫か?」みたいな反応も頂いたが、いままでにない地獄ということで認められてしまった。今はまだ攻略キャラが少ないので単純なつくりなのだが、これからもっと難易度はあがり攻略キャラも増えていく予定である。なお刑期(過ぎていく年数)は同じなので今のうちに来た方が攻略(全ヒロイン攻略で来世を迎える)は楽。
主に恋愛関係で何かしらの問題やトラウマを持って死んでしまった魂が行くことになるこの地獄は設定的には高校三年生に相当する学園生だけを送ることになる。そこでどう生活を送るかはそいつ次第。だがあまりにも何回もループする(恋愛をしない)・あまりにも同じヒロインばかりを狙う(数回は見逃してもここは地獄。それでは好きな子と永遠を楽しむことになりかねないため)・関係のない犯罪を犯す(問答無用)などこちらの意図したものを大きく外れた場合は、強制的に別の地獄に行ってもらうこともある。誰かと結ばれた場合はそこまでしか描かれないこの地獄では初日に戻る、つまり二週目開始ということになる。なかには結ばれたヒロインに振られる等バッドエンドまでがセットの場合もあるが、関門突破ということで二週目が始まる場合もある。二週目はそのヒロインとの思い出だけが継承されながら(デジャブ的な記憶として残る)、他の経験・学力・体力・人間関係・好感度なんかはすべて没収。それらは地獄運営のための貴重な財産になるとかでスポンサーの方々が買い取ってくれることになっている。
テストプレイヤーは浩之。浩之には悪いが彼に来世は訪れない。なぜなら浩之の案無くしてこの地獄の完成も発展もないからな。本人にそのことを伝えると「となると・・・いつまでもマヤ殿と一緒でござるか!しかも新作のギャルゲーを永遠に一番乗り!ありがとうございます!!」となぜか泣いてよろこばれたのだが、来世がないことを喜ばれるのはちょっと私の理解を超えているな。ちなみに浩之にはペナルティはない(途中で最後を迎えても私の所に戻ってくる)が、その他は他と同じように没収だ。そしてそのテストは実際にプレイした浩之が他の者に見やすいように動画として編集したものを私がチェックして採用・不採用を決めるのだ。
その動画は浩之曰く、「『同〇生』や『と〇メモ』を意識した作りにして楽しめるように頑張ったでござるよ!」とのこと。元々プレイヤーとしての才能はあったが制作側のスキルは持っていなかった浩之だが私の配下にする際に話し合いその力を与えておいたのだ。私だけではちょっと意味が分からないものだったがスポンサーの一人に手伝ってもらって一会社が作るような作品を一人で作れるようにしてある。そのぐらいの力はあるのだ。なにせ私は閻魔だからな(?)
そしてその動画を見るのがいつしか私の楽しみになっている。
本日分のノルマを終えて自室に戻り、一息ついていると扉をノックするする音。このプライベートタイムにこの部屋に来るのはまず一人しかいない。扉が開かれると達成感を滲ませた浩之がハァハァいいながら部屋に入ってくる。
「マヤ殿!行って纏めて参りましたぞ!」
さてどのような報告をくれるのか。浩之が来るのが待ち遠しい今日この頃だ。