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.12 追跡者と生存者

 テントへの来訪者は、吹雪と共に一晩中テントを攻撃し続けた。

 四人のうち、客人のふたりは観念した様子だったが、頑丈な極北クジラの骨組みと死しても弾力に富む六角浜アザラシの革は、シェルターとしての役目をやってのけた。


 吹雪が去り、テントの隙間から光が射すのと同時に、オオカミ女と耳長たちが一時の安心を語った。


「だが、奴はいずれまた来るはずだ。俺を追ってな」

 長髪の男が身を起こし、弓を掴んだ。


「無理よ、ロッサ」

 押し留めるローシャ。

「俺たちがここに居ると、迷惑が掛かる」


「殊勝なことを言うようになったわね」

 ステラは鼻を鳴らした。

「でも、死ぬと分かってて、あなたたちと別れることはできないわ。でしょ? ヴィア」


「有効な武装が少ないから、策を練る必要がある」

 ヴィアはコーヒーを沸かしながらリュックの中身を漁る。


 魔動力によって蒸気を噴射する自衛用の棒、魔動力式蒸気棒(スチーム・バトン)

 これは雪や氷を溶かしたり、敵対生物を威嚇するのに使用されるものだが、豪熊が相手では役に立たないだろう。

 ナイフ。ただのナイフだ。帯魔した翡翠の矢尻すら通らなかったのに、これが役に立つはずがない。

 サーベル。偉そうな意匠の施された、指揮官からの贈呈品。

 魔導拳銃。魔力を切っ掛けに弾丸を射出する回転式ピストル。しかも型落ち品。これも人間の頭蓋すら貫通しない。


「……」


 武器らしい武器はこれだけ。あとは鉤付きのザイルやピッケルなどだが、巨大熊の背に登るくらいにしか使えないだろう。

 いくらヴィアが自身よりも重いリュックを背負う男でも、ロープで搦めとることも不可能だ。

 モルス・ウルシ未満のクマですら、彼の十倍の体重を持ちうる。


「地形を見てくる。おまえたちは出るな」

「無茶はしないでね」

 拳銃とバトン、サーベルを腰のベルトに装着し、テントを出るヴィア。ステラの視線に頷きだけを返した。


「おまえは行かないのか?」

 ロッサが問う。

「誰があんたを守るっていうの?」

「ここに引き籠っていれば平気じゃないのか?」

「骨組みを見て。こんなこと、初めてなのよ」


 極北クジラ製のフレームのひとつに、ひびが入っていた。


「ロッサ」

 ローシャが兄を見る。


「行くがいい。やつの耳になってやれ」

 兄は妹へ自身の狩猟道具を渡した。


「意外ね。妹さんは絶対にあなたのそばから動かないと思ったけど」

「俺も少し驚いてる。見知らぬ男と歩くことは絶対にしないやつだ。世話になってた部族の男とですら、ふたりきりになりたがらん」

「そういう言いかたをされると、心配になってくるわね」

「ローシャはそんな女ではない」

「ヴィアのほうが心配なの」


「手が早いのか!?」

 ロッサは身を起こした。 


「まさか。でも、ある意味で浮気されっぱなしなのよ」

「どういうことだ?」

「普段はね、トーテムポールみたいに口を利かないのよ。でも、見知らぬ人とは随分と楽しそうに話すの」

「おまえにはそうじゃないのか?」


「大体はこっちが一方的に話すばかりね。趣味の話になると逆転するけど、その眼はわたしを見ていないのよ。昨日、あんたにタラン・ドラスを追い掛ける理由を話してたでしょ?」


 ステラは大きく息をついた。


「道がどうの、ってやつか」

「あの話も、初めて聞いたのよ」

「おまえたちは恋人同士じゃないのか?」

「親しい仲なのは確かよ。お互いに産まれたときから知ってるし。わたしから見て、ヴィアが恋人っていうのも間違いない」

「ふたりで旅をしてるんじゃないのか? あいつだって男だろうに。旅で子が出来るのを気にしてるなら、ローシャに薬を煎じて貰え」


「あんた、大事なこと抜けてるんじゃない!?」

 声を荒げるステラ。耳長の男が首を縮めた。

「わたしは人狼よ。この身体は穢れてるの」


「穢れ……か。おまえは何者なんだ?」

「元はただの人間よ。本物の魔狼ルプス・ディモに噛まれてこうなったの」

「噛まれて? つまり、うつるのか? あいつも?」

「そうなったら、嫌。人狼の血が入ってから、満月の夜になると昂るのよ。色々な意味で襲いたくなる」

「おまえを殺して食わなくて良かったよ」

「ホントに食べる気だったの?」

「獲物への礼儀だ」

「それを言う狩人は多いけど、ちょっと引くわ。死んだときにこっちの姿だったとしても食べるわけ?」


 ステラは自身の胸に手を当てて問う。ロッサは「無理だな」と鼻で笑った。


「じつを言うと、人の姿をした者を射たのも初めてだった。ローシャが殺されると思ってな」

「ヴィアがローシャにナイフを向けたのも、わたしのため。あの人は人殺しなんかじゃない」

「おまえはどうなんだ?」

「今のところは、獣と魔物だけ」



 ――でも、もしヴィアの身が危なくなったら。



「……似たもの同士と言うわけか。だから余計に不思議に思うんだ。ローシャがあいつについて行くなんて」

 ステラは鼻を鳴らした。ロッサの体臭から、心配性の妹に類似したものを感じ取れた。


「雪崩だな。遠くで雪崩の音がする」


 耳長の男が言った。



***



 いっぽう、ヴィアとローシャはモルス・ウルシに追い掛けられていた。

 昨晩と違い、青空の覗く天候で、吹き降ろす風も方角の安定したものとなっていた。


 豪熊はこの地の利をよく理解していたらしく、風下の雪の中で音を立てずにじっとしていた。

 ゆえにふたりは、クマの背に登るまでその存在に気付けなかった。


「あ、あの、本当に大丈夫なんですか!?」


 ヴィアの背に負ぶさったローシャが訊ねる。

 胸が悪い彼女はクマから逃げるには体力が足りなかった。


「しっかり掴まっていろ」


 ヴィアは短く答えるとザイルを投げ、ほぼ壁といえる角度の凍り付いた急斜面の上を目指す。

 ステラやリュックよりも軽い娘だ。彼は背中の娘を支えながら、片手でロープを手繰って斜面を登った。


「凄く力持ちですね……」

「足腰は鍛えている」


 支えが要らないほどに強く掴まれる。両手が使えれば登るのは一瞬だ。

 しかし、下を見れば、クマもまた壁にアタックを仕掛けていた。



 ――腕が三本?



 クマは二本の前脚のほかに、背中にやや小さな別の腕を持っていた。

 よじ登ろうと身体を揺するたびに、その腕は力無く揺れている。

 ヴィアはその珍しい個体を通常の設定で写真に収め、次は魔力視の絞りを上げてシャッターを切った。


「あんな腕、あったかしら?」

「先天性の異常だ。恐らく、親の胎に居た頃から瘴気の影響を受けていたんだろう」

 二枚目の写真の豪熊は青白い光を薄く纏っている。

 

「こんなところで瘴気が?」

「劣化した魔力燃料の投棄や、古代アーティファクトが源泉の可能性が高いが」

「そうなんですか。……そっちを使うんですか?」


 ローシャの切り揃えられた黒髪が傾く。

 壁登りに専念するクマは無防備だが、ヴィアはサーベルを抜いていた。


「銃は弓矢とは勝手が違う。この位置では使えない」


 ヴィアは続く斜面を見上げる。昨晩に降り積もった新雪が朝の陽ざしを受けて目を焼くようだ。


「時間稼ぎをして、もっと上へ登るぞ」

 サーベルを下に向かって投げた。あわよくば失明を狙いたかったが、サーベルはクマの眉間をチクリとやって斜面の下に転がった。

 クマも驚いたのか、爪を引っ掛け損ねて斜面を腹で滑っていった。


「上へ逃げ続けても、追い詰められるだけじゃ? きゃっ!」


 娘を無遠慮に担いだヴィアは、雪を掻き分けて長い斜面を進んだ。

 ローシャは彼の触れている箇所が気に入らなかったらしく、非難を続けた。

 トーテムポール男は目的の位置まで応答せず、着くなり下ろして、魔動力式蒸気棒(スチーム・バトン)を押し付けた。


「魔技興製のバトンだ。手に魔力を集中して、この出っ張りを押すだけでいい」

「これでどうしろとおっしゃるんですか?」


 ローシャはバトンのスイッチを押した。

 すると、バトンの先に開いた穴の列から、熱い蒸気が勢い良く噴出した。


「まだ押すな。これを雪に突き刺してから起動して、向こうから向こうまで走ってくれ」

 ヴィアの手袋の指が白い斜面をなぞって線を描く。

「どうなるんですか? もう登って来てますよ」

 ローシャは不安げな表情で訊ね、長い耳を引くつかせた。


「説明は省く。ただ、自分が引いたラインから下へは絶対に行くな」

「省くって、してる暇くらいあるような」


 ヴィアは魔導拳銃を斜面の下に向かって構えながら集中した。


 旧型の回転式拳銃だ。彼はこれを知っていた。

 魔導式起動銃としては第二世代で、連発銃において、従来の火薬式から魔動力式に切り替えた最初のモデルだ。

 起動の問題は改善されていたが、拳銃として命中精度が悪く、回転不良を良く起こす型で、暴発事故で新聞を飾ったこともある。

 だが、意匠に人気があり、いまだに褒賞や美術品としてやり取りのされている一丁だ。


「できましたよ!」

 遠くで声を上げるローシャ。彼女は肩で息をしていたが、その息を思わず吸い込んだようだ。



 ――間に合うか!?



 想定以上の俊足。

 役立たずの腕を背中にくっ付けたモルス・ウルシはすでに、斜面の上を取っていたヴィアが見上げなければならないほどの距離にまで迫っていた。


 手のひらに魔力を集中し、引き金を引く。

 破裂音はすれども、追跡者は微動だにせず。弾が毛皮に吸い込まれたのか、出なかったのかすら区別がつかない。


「効いてませんよ!」

 視界の隅でローシャが弓を手に取った。


 豪熊が攻撃態勢へ入り、右の前脚を持ち上げた。

 構わず連射。


 高き青天と続く白の世界に破裂音が駆け抜ける。

 一発、二発、三発……地響きのような轟音。



 ――上手くいった。



 モルス・ウルシのナイフを並べたような爪が空振り、ヴィアの毛皮の防寒具を僅か切り裂く。


「クマが滑ってる! それにこの音!」

 ローシャは忙しなく耳を引くつかせながら、あっちこっちに顔を向けた。

「雪崩を狙ったんですね! 見てください、クマが小さくなっていきますよ!」


 モルス・ウルシは雪の流れの中に所在無さげに座り込み、くるくると回転しながら斜面の下へと流れていった。


「あの下には崖があったはずだ」

「ありましたね。落ちたら、ひとたまりもないはずです!」

 駆け寄ってきた娘は満面の笑顔だ。


 つと、彼女は表情をこわばらせて斜面を見上げた。


 新雪と発砲音が雪崩の合唱を起こし、その音色は山々を反響し続けている。

 起こすところまでは意図できたとて、その連鎖を止めるすべは無し。


 ヴィアはすでにザイルで娘と身体を結び付けており、再び担ぎ上げて、あらかじめ目星をつけていた岩の陰へと駆けた。

 上方からの第二波は短く、情報屋の目論見通りにやり過ごされた。


「治まったな。同じルートを戻るのはリスクが大きい」

 ヴィアはそう告げると、雪の中を歩き始めた。下方を見るも雪崩の影響か、ガスで白んで様子が分からなくなっている。



 ――返事が無いな。



 振り返るも、ローシャはしっかりと雪を踏みしめてついて来ていた。

 彼女の体力に合わせて歩調も落としている。

 視線が合う。娘は慌てた様子で下方に視線を逃がした。ふと、ステラを強く叱った幼き日のことを思い出す。


「兄が心配か? テントを張った“風よけの断崖”は地図に残り続けるほどのポイントだ。雪崩に巻き込まれる心配はない」


 また返事が無い。彼女は代わりに耳を済ませたり、ちらとこちらを見たりしている。



 ――よく分からんやつだな。



 ヴィアは首を傾げた。



 しばらく進むと、雪が少なく岩肌の露出した場所へ出た。

 平坦な広場で、ここだけ風も弱く、突き出た岩が屋根の役目も果たしていた。

 標高こそはやや高いが、ビバークをした地点と同種の地形だ。



 ――安全地帯だったはず、なんだな。



 ヴィアの灰の瞳に映ったのは、オオカミの毛皮と、赤黒い肉を残した人骨。

 力のありそうな年齢の男ばかりが十人ほど、食い殺されていた。


「酷い……」

 ローシャが口を手で覆う。


「オオカミの毛皮を被っている。アサマ族のキャンプ地だったんだ」

 彼らは狩りの際はオオカミの力を借りるために、その毛皮を纏い、頭部で作ったフードを頭に被るのだ。


「でも、シカの痕跡は見かけてません。遺体は、それほど古くない」

「それもあのクマのせいだろう」


「アサマ族のかたには、兄と一緒にお世話になったことがあります。二年前の夏だった……」


 ローシャは凍り付いた現場に近付くと、比較的に原型を留めた頭部のひとつを見つけ、もう一度口を覆った。

 若い娘の顔が上気し、雫がひとつ零れる。


「あまり見るな。まつ毛が凍り付いてしまう」

「狩るか狩られるかの世界なのは、分かっています。ロッサにも殺し過ぎる癖はありましたが、これはあんまりです」


 ローシャは遺骸の散らばる広場の真ん中で跪き、おもむろに背中の筒から翡翠の矢尻の付いた矢を一本手に取り、両手で握り込んだ。

 矢を握った両腕が天に掲げられると、風も無いのに彼女の黒髪が揺れ、身体からは赤く激しい光が滲み出し始めた。


「何をする気だ?」


「全力でやります。敵討ちです」


 血のような魔力の渦が、娘の身体から翡翠の矢尻へ向かって吸い込まれてゆく。

 儀式めいた魔力注入のあいだ中、ローシャの長耳はずっと痙攣し続けていた。


「モルス・ウルシか? 生きていたにしても、早過ぎる!」


 ヴィアは咄嗟にバトンを握り、振り返った。

 叩きつけるような足音と、汽車の蒸気を彷彿とさせる呼吸音。


「少し時間を稼いでください! 私が仕留めます!」


 振り返らずとも地面が赤い光に染まっているのが分かる。凄まじい魔力だ。

 地下遺構で“(たなごころ)”の老女が見せたものよりも、もっと激しい。



 ――無茶な注文をする!



 ヴィアは飛び込んできた豪熊を、雪崩から逃げるが如く、直角にかわす。

 回避というよりは、もはや全力疾走。

 クマがローシャのほうへ向かう可能性に身震いをしたが、彼女は静かに瞳を閉じ、矢に魔力を集め続けている。


「こっちだ!」


 巨大過ぎて、足なのか尻なのかも区別がつかないが、バトンを押し付けて起動すると、クマは呻き、こちらを振り返ろうと身をよじった。

 攻撃や直線移動は素早くとも、旋回には限界がある。



 ――大物の相手は地下遺構でやってきたばかりだ。



 完全に見失わせない程度に、角度を利用して逃げ続ければ、しばらくは持つはずだ。



 持つはずだった。

 しくじり。距離を見誤った。



 豪熊の身体の一部が肩をかすめただけで、彼は転がされた。



 迫る。

 立ち上がらなくとも、立ち上がった大熊ほどの体躯。

 軽く踏みつけるだけで骨まで砕けるであろう、岩の柱のような前脚。

 クマはわざわざ、その暴力を高く振り上げた。



 刹那、風切る音色が駆け抜ける。



 そして、モルス・ウルシは天を仰ぎ、バトンのように口から白い蒸気を吐いた。

 クマの頭部を赤い光の残滓が横切っており、左側面からは桃色の脳が露出していた。巨体がぐらりと揺れ、伐られた木の如く横倒しになった。

 


「助かった。ロッサより弓が上手いのか?」



 ローシャは広場の中央で矢を放ったままの姿勢で瞳を閉じ、立ち尽くしている。

 近づくと彼女は瞳を開き、その場にへたり込んだ。


「魔力矢だけは自信があるんです。男性の狩りについていける体力もありませんし、当てるのも下手で。どっちに当たるか分からなかった」

 射手は胸に手を当てて深いため息をついている。その手足は酷く震えていた。


「……狩りはしないのか?」

 距離はそれほど開いていない、かつ的は巨大。頭の位置だって高かったはずである。


「おまえは弓を持つなって、ロッサが。昔、ウサギを射ようとして、私の後ろで見ていた彼の背中を射ったことがあるんです」

 こちらを見上げ、はにかむ娘。



 ――背中?



 ヴィアも背筋に矢尻を押しあてられたように感じた。


「あの、腰が抜けてしまったので、またお願いできますか?」

 ローシャはそう言いながらザイルをベルトに引っ掛けた。


「あ、ああ……」

 なんとなく地に足が付かない気がするも、ヴィアは綱を結び直した。


「本当は拾い集めて、村に返してあげたいんですけど……」

 表情を落とし周囲を見回すローシャ。


「モルス・ウルシと共に写真に収めておこう。国軍がのちに回収してくれるはずだ」

 魔像機を構え、無念の残骸と、動かなくなった巨熊を画角に収める。



 ――思ったより小さいな。



 戦いの緊張と恐怖が大きく見せていたのだろう。

 こういう荒事には向いていないなと少し笑う。



 ――……背中の腕が無い!



 モルス・ウルシの背にくっ付いていた先天異常の腕が見当たらない。


 振り返れば、気の抜けた黒髪の娘はすでに影に覆われていた。

 ザイルを力任せに引っ張り、彼女を自身の背後へと転がす。

 

 やれることは、これしかなかった。

 娘を背に、両腕を広げて立ちはだかるのみ。



 ――やっぱり、こっちのほうがデカかったな。つがいか? 親子だろうか?



 どうでも良いことが頭をよぎった。


 次の瞬間、ヴィアの瞳にはクマの首根っこに、何か別の模様が入り込んだのが見えた。


 それはクマの茶色とは違う、朽葉(くちば)藍鼠(あいねず)の……。



 まばたきを終えると、この豪熊もまた、天を仰いでいた。

 ただし、首から上を逆さにする形で。



「心配して来てみて良かったわ」

 良く通る女の声がすると、毛玉がするりとクマの首から降りてきた。


 それは牙を剥いたオオカミだった。



「ムカつく」



 二本足で立つオオカミはそう言うと、立ちはだかったままの男を軽く突き飛ばし、雪山の大切な命綱を力任せに引き千切った。


***

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