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ホモ・サピエンスは邯鄲の夢を見る 〜コールドスリープから目覚めたら人類絶滅??人類最後の生き残りは医学と内政で成り上がる〜  作者: 自分にだけ都合の良い世界と書いて異世界と読むのは間違っていると思いませんか?
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第九話「農民か商人か、はたまた医師か」

 扉が開いて人が入ってくる度、暗がりの中行燈の光が優しく揺れる。


 この村には定期的に夜に集まって、集会を開く習慣がある。

 一家の中から一人以上必ず参加し、農作物の蓄えや税の取り立てなど、様々な報告を皆で共有する意図があるらしい。


「なっ!?長!もう動いて大丈夫なのか!?」


 続々と上社に集まってくる村人達が、メイさんがピンピンしている姿を見て驚く。

 中には涙を流す人もいる。

 メイさんは巫女で薬師だと聞いていたが、以前はそれに加えてこの村の正式な村長も兼ねていたらしい。

 これまでは体調が優れないという事で隠居状態。

 実質的な村長は代理でヴァンさんが勤めていたという訳だ。


 今回は回復祝いのお披露目的な意味合いがあるのかもな。

 こういうの見ると…メタモライザが効いてくれて、ほんと良かったなぁと思う。


 やがて皆が一通り集まったようで、メイさんが喋り始めた。


「皆さん、ご心配をお掛けしました。私はもうこの通り。病気の方は大丈夫です。」

「長、本当にもういいのか?これまでだって色んな奴に見てもらったけどよ…。あの詐欺師共、薬とか言って金を取るだけ取って、まるで効果なしだったじゃねぇか」

「そんな悪く言ってはダメですよ。…とは言え、私自身厳しいかなと思ってたんですが、なんとかなったみたいです。」


 村人達がザワザワと何か盛り上がっている。

 でも、総じて皆の表情が明るい。メイさん、余程人望あるんだなぁ。


 対して医療提供側の信頼の無さよ…

 こりゃ俺が医者だって事は何も言わない方がいいかもな。


 ヴァンさんがもっともらしく咳払いをすると、皆が静かになった。


「じゃあ、長、早速なんだが、今日の報告から始めていいか?」

「ええ、お願いします。」


 メイさんの隣に座っている俺にチラと視線が向けられるも、特に何か言うこともなくヴァンさんは集会をスタートさせた。


「今年もまた幾つかの畑が痩せてダメになっちまったみたいだ。四つの畑からは収穫がほとんど見込めねぇ。あの感じだと、別の作物植えたところで厳しそうだ。…新しく森を開拓しなきゃなんねぇ。」

「…またですか」

「ったく、ここんとこ作ってはダメになって、作ってはダメになっての繰り返しだ。やんなっちまう。」

「仕方ないですね。今年はその収穫は諦めて、来年また頑張って開拓しましょう。」

「それなんだがな…他にも結構痩せ細ってる土地が多くて…この分だと結構大掛かりな開拓になるかも知れねぇ。」

「そうですか…」


 …土地が痩せてダメになったと。

 まあそれ自体はよくある事だろう。

 植物の病気じゃないなら、単に土地の栄養を吸い尽くしてしまっただけの事だ。

 所謂連作障害なんて言われて、昔から色々と対策を考えられている。


 しかし…連作障害が出たからそこは捨てて開墾とは…

 流石にもったいない…というかあまりに非効率じゃ無いか?

 輪作や肥料で土壌改良、或いは労力こそ掛かるが、水田にする転作なんてのも一考の余地ありだと思うんだが…

 流石の麗奈もそこまで手は回らなかったか。


「皆さん、来年もまた大変な年になりそうですが…頑張りましょう。」


 メイさんがそう言うと、皆仕方ない、という顔をしながらオーと賛同の反応をした。



 少し言いにくい雰囲気はあるが、俺はこれからこの村にお世話になる身だ。

 ここで空気を読むよりも、皆の為になる事を一つ提案しておくのも恩返しのうちだろう。


「あの…」


 おずおずと手をあげると、俺が居るのがメイさんの隣なだけあってめちゃくちゃ目立つ。

 皆の視線が一挙に集まり、シーンと静まり返った。


 コイツ誰だ、みたいな冷ややかな視線。

 言いにくいったらねぇな。

 まぁ、言うんだけど。


「なんだ、エーリ。」


 ヴァンさんが俺に尋ねるも、その声には少し圧を感じる。

 ヴァンさん見た目厳ついからな。正直結構怖い。

 まぁ、研究所の所長の圧にも耐えてきた俺だ。こんな若造の圧に怯むわけにはいかん。

 俺はめげずに言った。


「何も開拓までしなくてもいいと思うんです。きっとあの畑は、まだ使えますよ。」

「「…」」


 空気が死んでる。所謂寒い空気って奴か。

 わかってるよ。水を差すなって事だろ?


 でもな、俺にはこの村に…というよりウイとメイさんに恩義がある。

 その恩義に報いる為にも、ここは一つ、食い下がるわけにはいかないんだ。

 …空気読めない野郎になってもな。


 隣にいるウイが心配そうな目で俺を見ていた。


「あのなぁ。いいか?この村じゃ代々このやり方でやって来たんだ。他所もんが口挟むんじゃねぇよ。」

「…だって、枯れてしまった畑をなんとか再利用出来るなら、その方が皆さんも良くないですか?」


 ヴァンさんがこめかみを抑えながら、少し声を荒げた。


「現人神様がこの村にいらっしゃった頃から、この村じゃこのやり方なんだ。お前、現人神様のお言葉が間違ってるって言いてぇのかよ?ああ?」

「…そうは言いませんが…他の方法を試してからでも遅くはないと思います。」


 チッと露骨な舌打ちが飛んでくる。

 ヴァンさんは一度手を振り上げるも、溜息を吐いてドサっと座り込んだ。


「もういい。これはもう決まった事だ。他所もんのお前にどうこう言われる筋合いはねぇよ。」


 …俺が怪我人だから抑えたみたいだな。

 そう。この人は直情的だが、そこまで悪い人じゃないんだ。


 でも残念だな。俺の意見はまったく持って響かなかった。


 やはりここ地上でも「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が大切らしい。


 俺は所詮は他所者。村の決定に意見を唱える権利は鼻からなかったというわけだ。




 ☆




「ふんっ!!」


 暇だったので、連作障害で使い物にならなくなったために放置されている畑を俺の力でなんとかしてやろうと、勝手に土壌改良をはじめてみた。


 この前ヴァンさんに散々言われて、あの時はじゃあ勝手にしてくれって思ったけど…

 やっぱり出来ることくらいはやってもいいかなっておもったのだ。


 ゴツゴツした土の塊に思いっきり木製のクワを振り下ろす。

 クワの先に少しだけ鉄があしらってあるので土程度なら容易に粉砕…出来るはずだったんだが…


「うわっ」


 遠心力で身体ごとぶれて、全然関係ない所に振り下ろしてしまった。

 しかもかなり深く刺さったせいでクワを引き抜けなくなってしまう。


「ふんっ…ふんっ…」

「……ぷっ」


 一生懸命引き抜こうと力を込めていると、いつのまにか俺の様子を見ていた村の子供が吹き出すように笑い始めた。


 コイツの名前は…確かゼーレ。

 ゼアロとかいう似非神官の教会で育てられている孤児の一人だ。

 体がでかく、村のガキ大将みたいな立ち位置なので、将来はヴァンさんみたく村のまとめ役候補とか言われてる。


「ちょ、あんたさ。大人のくせして、まさかそんな軽いのも扱えないの?」

「…そんなことないぞ。ちょっとミスっただけさ。」

「いや、いや。ミスるも何も、そんなの子供でもらくしょー。朝飯前だよ?大人のくせに、なっさけないなぁ。」

「ほっとけ」

「へへっ。村のみんなに言ってやろーっと」


 ゼーレは面白い話のタネが見つかったとばかりにニシシと笑い、そのまま走って何処かへ行ってしまった。

 …たく。とんだ生意気坊主だ。

 ま、否定しようもない事実なんだけどさ。


 どうやら俺には畑仕事…というか力仕事全般が向かないらしい。

 まだ怪我の痛みが残ってるってものあるし、昔と比べてガリガリに痩せ細ってるってのもある。

 でもそれ以上に、種族的な力の差もあるような気がする。

 俺が今擬態している烏人族よりも、鼠人族の方がフィジカルが強いのだ。


 …とは言え流石にこんな事でメタモライザ使うわけにいかないしなぁ。


 俺は開始早々に無理だと察し、やる気を無くした。

 まさかこんな事が原因で躓くとは…


 ふぃー、と近くの切り株に腰を下ろし、竹を切って作られた水筒から水をごくごくと飲む。


「ぷはぁ…意外とうまくいかないな」


 うまくいく算段はある。でもその為には何とかして複数人の協力が必要だ。

 でも、この村における俺の発言力じゃ誰もついてきてくれないし…


 どうしようか。


 何か別のアプローチは無いか考えていると、どこかからガラガラ、ガタガタと奇妙な音が聞こえてきた。


「…何の音だ?」


 音は次第に近づいてくるようで、それはまるで水車のような、歯車が回るような音だった。

 目を凝らして視界の先に見えてきたのは馬、そしてそれが引く山ほどの荷物だ。


 やがてそれは畑と畑の間の悪い道を進んで俺の方までやってきて、荷台から男がヒョイと顔を出した。


「これは、これは。こんにちは。」

「ああ、どうも。」


 男の格好はここらじゃ見ないような洒落た感じで、帽子の横にピンと飛び出た耳、目つき、顔つきからどことなく猫っぽさを感じる。

 初めて見たけど、これが猫ベースの亜人…猫人族ってやつなんだろうな。


 猫人族の男は荷台からダンッと高く飛び上がると、いつのまにか俺の目の前でお辞儀していた。


「…初めまして、ですかね?」

「ええ、最近この村でお世話になってる者で。」

「それはそれは。私はこの辺りで駆け出しの行商人をやっております、猫人族のケダマ、と言います。お見知り置きを。」

「丁寧にどうも。僕はエーリです。」

「…エーリさん、ですか。いや、なかなか大胆なお名前でいらっしゃる。結構結構。」


 皮肉なのか言葉通りなのか微妙だが、常に目が細められていて表情が読めないな。


「それで、僕に何か用ですか?」

「いえ、貴方には特にこれといって。」


 キョトンとした俺の顔がおかしかったのか、男は少し口元を隠して目を伏せた。


「行商人の相棒は馬です。敵は暴落と山賊、そして人寂しさ。

 ベテラン行商人なら暴落や山賊はある程度避けられますが、孤独感だけは如何ともし難い。長年付き添った馬が女に変身して結婚するなんてお話が出回るくらいですからね。

 私はそんな寂しい人生にならないよう、行く先々で知り合いを増やす努力は欠かさないのです。

 そこから何か行商のヒントが得られる事もありますしね。」

「へぇ、そんなものですか。」

「そんなものです。」


 失礼、といって手ぬぐいを取り出した男は、横を向いてゴホゴホと咳をした。

 風邪かな。最近寒いし、行商ってことは野営もあるだろうから大変なんだろうな。


 咳払いして何事もなかったかのように取り繕うと、男は腰につけた袋を指さした。


「実は今回、とっておきの薬を入手致しましてね。ヤタ村の村長様に是非にと思ってお持ちしたのです。」

「村長…メイさんの事ですか?」

「ええ。以前から難病を患っているのは存じておりますので、私も手を尽くして、方々から取り寄せてはお持ちさせていただいているのです。残念ながら、これまでのはどれもあまり効果は無いようですが…今回は自信があるんです!」


 ホクホクと人懐っこい笑みを浮かべて上機嫌に語るケダマ。

 だが、生憎それはもう必要ないんだよなぁ。

 言いにくいけど…まぁ、いずれわかる事だ。今伝えておこう。


「…あーえっと。それなんですがね。つい先日、メイさんの病気治ったんですよ。」


 男はえっ、と驚いて、すぐに笑顔を繕った。

 …僅かに口角がひくついていたが。


「なんと、それはめでたい。のちにお祝いに伺うとしましょう。」

「…うまく笑えてないですけど。」

「エーリさん、それは言わない約束ですよ」


 俺が表情を指摘するとガックリと肩を落とし、そのまま膝に手をついた。

 そしてやってられないとばかりに頭を掻きむしり…

 ああ!!商売上がったりだ!と人が変わったように喚き始める。


「ねぇ、エーリさん、聞いてくださいよ!!

 最近都で砂糖菓子が流行ってるのを知ってます?それなら絶対売れると踏んで、新作をこんな山と仕入れたのに、まるで、ちっとも、これっぽっちも売れないんです!

 しかもこの薬も売れないっていうじゃないですか!わざわざここまで足伸ばしてきたのに!この薬、めちゃくちゃ高かったのに!!泣きっ面に蜂!破産寸前、大損もいいとこだ!」

「は、はぁ。残念ですねぇ。」


 …なんでこんなとこで都で流行りの高級菓子なんて売り歩いてんだ。

 田舎の村でそんなもん売れるわけないだろ。


「こうなったら、少しでも懐の被害を抑える為に、この高級菓子を安値で売り捌くしかないですよ!ね、エーリさんもそう思うでしょう!?」


 大袈裟に終わりだ!と喚くケダマ。


 うーん…

 なんだろ…どっか演技っぽいっていうか、胡散臭いんだよなぁ。

 どこまでが本気でどこまでが本音なのか全然わからん。

 でも、一応釘はさしておく。


「いや、それは…やめたほうがいいんじゃないですか?」


 はて、とキョトンとするケダマ。最早それすら白白しく見えてくるが…


「都で流行らせる予定の高級菓子なんでしょう?叩き売りなんてしたらそれこそブランド力が下がって今後売れなくなると思いますけど。というか、メーカー…菓子職人の方はそれを許してくれますかね?」

「…」


 ケダマはポカンとした表情から突然真顔になって、俺の目をみた。

 そしてニィ、と口角を引き上げる。


「へぇ…貴方、それに気がつきますか。」

「そりゃ…まぁ。」

「いやぁ、驚きました。貴方、農民にしちゃ随分と頭が回りますね。それとも、そっちの経験がおありで?」

「いや、僕はただの医者ですよ。生憎商売の経験なんてありません。」

「…ほほう…こんな辺境の寒村に、寄りにもよって医者とは…。しかし、それならその頭の回転にも納得だ。医者って言ったら、都でも指折りの優秀な薬師に与えられる特別な称号ですからね。」


 へぇ。医者ってここじゃそんな扱いなんだな。

 まぁ薬師ってのが薬剤師と医師の中間みたいなもんらしいから、そういうこともあるのか。


 ケダマはいや失礼、と咳払いした。


「…思うに貴方からはどこか…底の見えない感じがします。」

「なんですかそれ。何を根拠に。」

「いえ、いえ、お気になさらず。これは…そう。商人のカンって奴です。」

「…それを人はカン違いというんですよ。」


 ケダマは何が楽しいのか知らんが、これはこれは!と楽しそうに手を叩いて笑い始める。

 ひとしきり笑うと、目尻についた涙の滴をハンカチで拭いつつ、俺に問いかけた。


「ところで、貴方ならこの山の菓子。どうやって捌きますか?」


 そんな期待の籠った目でどうって言われても…

 少しいい方法を考えてみるが、これといって革新的なものは出てこない。


 何にも言わないのもアレなので、とりあえず思いついたところだけ伝えておいた。


「…シンプルに売る地域と量を間違えなければそれなりに売れるんじゃないですか?高級菓子を欲しがる支配階級や子供持ちの富裕層にターゲットを絞って、希少価値を付けて売り出すんです。

 その点では、流通量が多いと逆に富裕層の競争意識を煽れないので難しい所ですけど。」

「…成る程、いい考えです。やはり、貴方は私の思った通りの逸材だ。」


 誰でも思いつく事だと思うが、こんなんでもいいらしい。


 というか、コイツ絶対演技だろ…

 猫人族ってみんなこんな腹の中見せない感じなんかな。

 だとしたらちょっと絡みづらい。


「私には、貴方の腹の底が見えませんよ…。試すような事はやめて欲しいんですけど…」

「はて、何のことやら。私にはさっぱり。」


 不気味な笑みがより深くなったのをみるに、一応シラを切ってはいるようだが…

 特に本心を隠している事実そのものを隠す気はないらしい。


 ケダマはさて、と手を叩いた。


「この対価を何か支払わなければなりません。エーリさんは、私に何を求めますか?」

「いや、何もしてないのに支払いも何もないでしょう。」

「商人は書面に無い貸し借りを嫌うんです。後に何を要求されるか分かりませんから。

 …ああいや、貴方をそういう人だというわけではありませんが。

 とにかく、これも商人の習性だと思ってください。流石にここまで有意義な情報をタダで、なんて虫の良い甘い話は普通ありませんから。」


 逆に貸しを作るみたいでやなんだが…まぁ向こうがこれでチャラというならなんか貰っとくか。


 …そうだ。いい事を思いついたぞ。


「…じゃあ、要らなくなる菓子をもらってもいいですか?流通量減らすなら、余りの菓子が出てくるはずですよね。」

「…確かに流通は絞ります。でも、エーリさんが他の場所で流通させてしまったら本末転倒じゃないですか。」

「ああ、いや、ご心配無く。村の子供達に菓子でもばら撒こうかと思っただけで。決して値を付けて売り出したりなんてしませんよ。」


 村に居たら甘い菓子なんて食べる機会は少ない。

 稀に森に自生している果物を食べるくらいで、それも渋かったり酸っぱかったりで質がいいとはお世辞にも言えないからな。

 まぁそんなものでも皆喜んでるみたいだけど…だからこそ逆にこういうものは貴重だろう。


 …上手くいけば俺の頼みを聞いてくれるかも。


「…なんて欲のない人だ。…いや、寧ろその方がやりにくいし、恐ろしい。」

「…いや、その」

「いいでしょう。私としてはまぁ、かなりの出費ではありますが。貴方という未来の逸材とコネが出来たと思えば安いものです。」


 酷く打算的な事を考えてたせいで、欲がないとか言われると何も言えん。

 ま、なんか買い被られたお陰で上手くいくならの所だけどな。


 ケダマは少し不安そうに俺に言った。


「一応、菓子を配った事はあまり言いふらさないで下さいね?ただで配ったとあっちゃ、叩き売りより価値が下がってしまう。」

「大丈夫ですよ。名もない砂糖菓子ってだけじゃなんの話か分かりっこないですから。」

「それもそうですね。」


 彼は一礼して、身軽に空中でバク転ジャンプし、馬車の御者台に飛び乗った。


「では、私はそろそろ村長の所へ向かいます。また後でお会いしましょう。エーリさん。」

「それなら上社まで馬車に乗せて下さい。僕もそこに住んでるんで。」


 結局、上社に着いたケダマはメイさんと世間話をして帰っていった。


 ついでに、風邪に腰痛に尿閉塞感…色々と身体にガタが来てるみたいだったんで、不調を診て軽く薬出したらとても感謝された。

 噂の方は広めときますね、とか言ってたが…


 それがきっかけになっていろんな場所から患者が集まってくるのは、また後の話である。



 ☆



 後日…


 思いつき通りケダマから貰った菓子をゼーレを始めとする村の子供達に適当にばら撒いたら、めちゃくちゃ懐かれた。


「おいエーリ!まーた一人で畑いじりしてんのか!」

「あたし達が手伝ってあげてもいいよ!」

「エーリってばいつも大人からハブられてて寂しそうだからな!」

「そーそー。可哀想だから友達になってやるぜ!」


 好き勝手言って俺の周りを走り回ってるのは同じだが、なんていうかこう見ると可愛いもんだな。

 言ってる事は生意気だけど…。

 思わず笑みが溢れる。


「お前ら、ありがとな。」


「「良いってことよ!」」


 ちょっと仲良くなれたらいいなと思っての行動だったんだが、まさか意図せず何十人と労働力が手に入ってしまうとは…驚きだ。


 そんなこんなで、俺の畑再利用計画はスタートした。


 連作障害で使えなくなった畑だが、雑草を狩り、家畜の糞や灰など様々な肥料を混ぜて入念に耕すなどを行った。

 子供達はう◯こう◯こ!とか言って騒いでたが…失礼な。これも立派な農業だ。


 これでうまくいくかは植えてみないと何とも言えんが…失敗したら水路を引いて水田にするのがいいだろうな。


 俺が子供達とワイワイやってる姿を、大人はちゃんと見てたらしい。

 作業を進めていくにつれ、どうやら俺が適当な事を言ってた訳じゃないとわかってくれる人が増えてきた。

 今では大人たちも徐々に子供達に混ざり始め、俺の指示を聞いて一緒になって作業を手伝ってくれる人も結構居る。


 これだけ頑張ったんだ。きっと来年にはまた現役の畑として頑張ってくれるだろう。


 何よりも、畑仕事を通して俺が村のみんなに受け入れられ始めたのを感じる。

 それがやっぱり、一番嬉しかった。

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