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ホモ・サピエンスは邯鄲の夢を見る 〜コールドスリープから目覚めたら人類絶滅??人類最後の生き残りは医学と内政で成り上がる〜  作者: 自分にだけ都合の良い世界と書いて異世界と読むのは間違っていると思いませんか?
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第二十九話「敵を知れば百戦危うからず」

 

「おかえり!!その様子じゃ無事だったんだね!」

「流石だぜ!兄貴!」

「エーリしか勝たん!」

「結婚して!」


 ヤタ村での皆の歓迎っぷりは凄かった。

 村の皆が総出で入り口付近で待機しており、拍手や口笛と共に口々に喜びと祝いの言葉を口にする。

 さながら魔王を倒した勇者の帰還のようだ。


 ここ最近村人を恐怖に突き落としていたマルトルードの悪魔。

 その脅威が無くなったのだ。喜ばない人など居ない。


 俺たち討伐隊の後に続いてイロハ率いる義賊軍団が続く。

 ここら辺ではほぼ見ない兎人族で、かつ全員が年若い女の子ばかりなので、村の皆があちこちで生唾を飲み込む音が響く。

 兎人族は総じて色白で足が長く、とにかく器量良しが多い。

 ついつい目で追ってしまうのは男なら仕方のない反応だ。

 だから女達よ…男をボコボコにするのはやめてあげてくれ。


 そこまで大人数でもないので列はまもなく途切れ、徐々に「首は?」という疑問の声が上がり始める。

 そりゃそうだ。討伐に成功したなら首やらなんやらが出てきて然るべきだよな。


 しかし当然のことながら、悪魔の首なんて持っているはずがない。

 ロロは、今俺の隣に居るんだからな。

 集会の時にでも話そうかと思っていたが…いい機会だし、コイツのこともちゃんと話しておくか。


 そう思い、ふとロロの方を見ると目があった。

 頭を俺の腹に擦り付けてきたので、頭を撫でてやる。

 これで伝説の悪魔とか誰も信じないだろ…


「皆さん、お話があります!」


 祝賀の歓声の中にあったので思うように響かない。

 が、近くの男達が声を張り上げて伝えてくれる。


「エーリの兄貴からありがたいお言葉があるみたいだぞ!」


 なんだなんだ、と皆が近くに集まってくる。

 首はどうしたのか、もしかして殺り損ねたのか。

 そんな不安げな顔がいくつも見て取れる。


 静寂に包まれた場の中で、俺は粛々と言った。


「初めに言っておきます。悪魔マルトルードの討伐は…ある意味成功し、ある意味失敗しました。」


 皆がざわつく。

 ある意味とは一体どう言うことか。もうあの恐怖は取り除かれたのでは無かったのか。

 その真相を知りたいのか、俺が手を挙げると皆すぐに静かになった。


「悪魔の首を皆さんに見せて安心させたかったのですが、残念ながらそのようなものはここにはありません。ただ、今後一切、悪魔マルトルードが我々ヤタの民を襲う事は無い。

 この僕が保証します。」


 安心させるために言った言葉なんだが、逆に皆の不安を煽ってしまったらしい。

 動揺が伝わっていき、ザワザワと収集がつかなくなってしまう。


 そこにミロクさんが出てきて一喝する。


「静かにしろ!話はまだ終わってねぇだろ!」


 流石は村の父親。彼の一喝で皆が静まった。

 俺は隣でキョロキョロしているぼろぼろぶかぶかの白衣を纏った幼女の脇を抱え、上に持ち上げた。


「この子は…その悪魔マルトルードだったものです。」


 掲げられた可愛らしい犬人族の幼女に視線が集まる。


 みんなポカンとしてるな。

 ま、そりゃそうか。


 百聞は一見にしかず。

 大抵のことはごちゃごちゃいうより一見する方が早いもんな。


「これからこの子が狼の姿に戻ります。ですが安心して下さい。絶対に暴れたりしませんから。」

「…エーリ。流石にこんな大事な時に冗談は…」


 ミロクさんの言葉は最後まで言い終わる事は無かった。

 ロロが俺の合図と同時に巨大化し、大人を一飲みできる巨大な化け物の姿へと変貌したからだ。


 グルルルル…


 小さな家ほどの高さがある巨大な体。そのするどい眼光は見るもの全てを萎縮させてしまう。

 祝賀ムードだった村に突如強く重圧がのしかかった。


 生物は、自分の命を脅かしうる存在が近くにいると本能的に恐怖を感じずにはいられない。

 …例えロロにその気がなくても。


 ロロは動かない。

 村人達も動かない。

 ただ、誰かが少しでも動けばそのギリギリの均衡は崩れてしまいそうだった。


 その時、その均衡に一石を投じる奴が現れた。


「…と、とうとう本性を表したな!この悪魔の手先がっ!!!」


 …村の宣教師、ゼアロだ。

 奴は俺の方を指差して、大声で叫ぶ。


「化け物を使って我々を脅すつもりだったのだな!皆!早くここから逃げろ!殺されるぞ!」


「「う、うわあああああ!!!」」


 ゼアロの言葉を信じたのか…それともただ恐怖心に駆られての行動だったのか…

 ともかく奴の言葉を皮切りに、村人はパニックに陥った。


 悪魔マルトルードを退治する目的で出発したはずの一行が、まさかその悪魔そのものを連れて帰ってくるなどと、一体だれが予想できただろうか。

 いや、予想できるはずがない。


 前もって言っておいたとは言え、流石に怖いもんは怖いよな。

 というかそもそも、ヤタ村のみんなはこの狼を見るの初めての人ばかりだったか。


「皆さん、落ち着いて!!」


 俺も必死に声をあげるが、どうも焼け石に水のような気がする。

 ロロもどうしたらいいのかわからないのか、困ったようにクルクルと唸って心なしか小さくなっている。


 ゼアロがにやけ顔で俺の方を見ていた。

 してやったぞとばかりの顔だ。


 アイツの思い通りになるのは癪だが…こうなってしまったらもうどうしようもない。

 別に今すぐ統率を取り戻さなくてはならないわけでもないし、ロロが無害であることくらいいずれは伝わることだ。

 今日のところはここらで解散にするか。


 そう思ったのだが…


 ビシッ


 ロロの身体に何かがぶつかっておちた。


「化け物っ!この村から出ていって!!」


 なんだ?

 俺はその投じられたものの出所を探った。


 ゼアロは驚いている。

 コイツじゃない。


 その後ろに控えているゼアロの取り巻きの信者が石を投げたのか。


「「出ていけ!!化け物!!」」


 ビュンビュンと石の礫がロロの体にぶつかっては落ちる。


「や、やめろ、お前達…」


 ゼアロがどういうわけか蚊の鳴くような声で信者たちを止めようとするが、信者達の勢いは激しく、聞く耳は持ってない様子。


 奴の顔には怯えの色が出ていた。

 どうやら石なんてぶつけてロロに反撃されるのが怖いらしいな。

 どこまでも小物なやつだ。


 ロロは並の剣ですら傷一つつかない体なので石如き別にどうということはないが…

 拒絶されていることがわかるのか、悲しげな表情で俺の方に体を寄せてきた。


 クウーン…


 ロロは俺の白衣の中に頭を突っ込んで震えている。

 俺に流れてきた記憶からすれば、この子は狼の状態だと男の人格がメインになるはずなのだが…

 今は長い年月眠っていた分、少女の人格の方が強くなっているみたいだ。

 可哀想に。


 ゼアロはロロが萎縮して怖がっている様子を見て増長したのか、信者達を止めるのをやめ、再びニヤニヤと下品な笑みを浮かべ出した。

 優位に立ったと思ったのか、声高らかにお決まりの文言を口にする。


「出ていけ!悪魔!異教の神の使いよ!!」


 石は罵倒と共に、依然としてロロの胴体狙っていくつも飛んでくる。

 ロロは反撃どころか萎縮しっぱなしなので、場の空気も先程と比べて随分と変わっていた。

 恐ろしい悪魔としての威厳や風貌は最早見る影も無く、村人達も困惑しているみたいだ。


 どうやって場を収めようか考えていると、いくつかの人影が俺たちと信者達の間に割って入ってきた。

 ゼーレを始めとする、村の子供達だ。


 彼らはゼアロとその信者達の方を向いて吐き捨てるように言った。


「あのさぁ。はっきし言って、みっともねえょ、あんたら。」

「そーだよ。この子、怖がってんじゃん。やめてやれよな。」

「あーあ、こんな大人にだけはなりたくねーな。」

「…ワンちゃんかわいそう。」


 子供たちに散々言われて流石のゼアロも少し怯んだみたいで、慌てて弁解を始める。


「お…お前達…!?いいか、コイツは悪魔であってだな…」


 ゼーレ含む何人かは教会の孤児だ。ゼアロの説教など普段から聞き飽きているのだろう。

 子供達は「あーあー、聞こえなーい」と耳を塞ぐ。クソガキムーブ全開だ。


 ゼアロのこめかみからピキピキと音がしたような気がした。


「お前達ィ!!一体どっちの味方なんだ!!誰に育てて貰ったのか忘れたのか!あん!?」

「んなこと言ってもよぉ…」


 子供達はお互いに顔を見合わせてから、ニカッと笑った。


「「俺ら、エーリと友達だからさ。」」


 おお、嬉しいこと言ってくれるね。

 やっぱり一緒に土いじりをした仲だからな。

 知らぬ間に作物だけじゃなくて友情も育んでたってことか。


 と、思いきや…


「「それに、その子かわいーしな!!」」

「そっちが本音かよ…」


 幼女姿のロロが可愛かったからってか…。

 ま、確かに愛らしい風貌ではあるが…。

 子供は現金って、それ一番言われてるからなぁ。




 子供達に便乗する形で村のみんなもゼアロ達に批判的な声を上げたので、奴らは居心地が悪くなって逃げていった。

 石を投げられても怯えるだけだったロロを見てたからか、悪魔だ危険だと叫ぶ奴はあいつらの他にはいなかったようだ。


 そんな感じで思いがけない形で皆を納得させることができたのだった。




 ☆




 あれからロロは人間体が可愛らしいのも相まって村人達にすぐに受け入れられ、今では村のマスコット的な立ち位置に落ち着いたようだ。

 村の子供達とも仲良くできているみたいだし、本当に良かった。

 俺に懐いているためか、俺の娘みたいな認識になっているようだが…まぁそれも悪くないかと思っている。



 さて、ここ数日の場況を少し整理しようと思う。


 相変わらずカニス村との同盟の復旧はできていないが、かなり場況は整ってきた。

 ヤタ、カニス村合わせた戦闘員は80人。このまま同盟が復旧できなければ40人ってとこか。

 エフォ、ヤロク村の男衆は約100人。


 加えてホクト、トトウ、ナンリ、セイラの四村の協力も得られそうだし、イロハの話によれば兎人族の仲間をヤタ村に集めて協力してくれるそうだ。


 ホクト、トトウ、ナンリ、セイラ四村はほぼ鼠人族で構成されていて人口も多いので、恐らくそれだけで250人は集まるだろう。

 イロハ率いる兎人族の義賊集団も全部で150人を超えるらしく、うまくいけばもう間もなく600人近い兵士がこの村に集まりそうだ。


 北の森にある騎馬兵の武具防具500個の回収も可能になったし、なんといっても戦車レベルの化け物であるロロが仲間に加わったのはデカい。


 出来ることはやってるつもりだが…

 今の状態でどこまで戦えるのか全然見当もつかない。


 敵を知り、己を知れば百戦危うからず…という有名な言葉があるように、結局一番の問題点はマクベスの兵力が未知数な事だ…

 でも、こればっかりはスパイでも忍び込ませない限りどうやっても知り得ない情報だよなぁ。


「はぁ…」


 問題は山積みだ。

 俺が溜息を吐いていると、ウイが声をかけてきた。


「お疲れ様です、エーリさん」


 俺が疲れて集中が切れた頃を見計らってお茶を淹れてくれたのか。

 ウイは本当にできた娘だ。


「ウイと結婚する人は幸せだな」

「え、ええっ!?それはどういう…あっ」


 心からでた言葉だが、ちょっとキモかったかな。

 反省。


 ウイが慌ててお茶を少しこぼしてしまった。


「す、すまんな。変なこと言って。」

「い、いえ…」


 ウイがいそいそと床に溢れたお茶を拭いている。

 俺も懐にあった手ぬぐいを使って一緒に拭いた。俺のせいだしな。


 拭くのに集中していると、ついついウイの顔とぶつかりそうになる。


「あっ」

「おっと、悪い」

「え、エーリさんはずるいですよ…」

「ん?何が?」

「そう言うところがですっ」


 彼女はより力を入れてゴシゴシと床を拭いている。

 そこまで力を入れる必要は無いんだが…怒ってんのかな?


 そう思ったのだが、間もなくふんふんと機嫌良さそうな鼻歌が聞こえてきた。

 黒い翼もリズムに乗ってパサパサと軽く羽ばたいているのを見るに、どうやら怒っているわけではなさそうだ。

 良かった。


 床を拭き終わってお茶を頂いていると、ウイが少しそわそわした感じで話しかけてきた。


「そうだ、エーリさん」

「ん?どした」

「こ、この後用事が無ければ…二人で広場の方に行きません?ほらっ、今丁度行商人の人が来てるみたいでなんで!休憩がてら、迷惑じゃなければですが!」


 なんでそんな保険をかけるような言い方をするのかわからんが…

 俺としてはウイと一緒だと気分が安らぐからいつでも大歓迎だ。

 こんな状況じゃなければ、いつでも毎日のように付き合ったんだけどな…


「丁度外に出て気分転換したかったんだ。誘ってくれてありがとな。」


 俺が最近忙しそうにしてるから、こう言うちょっとした誘いにも気を使わせてしまってるのかも知れない。

 思えばウイには随分迷惑をかけてるなぁ。


「はいっ!!」


 花が咲いたような満面の笑み。

 こんな些細なことでこんな喜んでくれるなんて…全く、危うく勘違いしてしまいそうになるな。

 中学生じゃあるまいし、流石にこんなことで痛い勘違いはしないけどね。



 そんなこんなで、俺はウイと二人で村の広場の方へ向かったのだった。


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