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ホモ・サピエンスは邯鄲の夢を見る 〜コールドスリープから目覚めたら人類絶滅??人類最後の生き残りは医学と内政で成り上がる〜  作者: 自分にだけ都合の良い世界と書いて異世界と読むのは間違っていると思いませんか?
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第二十話「傲慢強欲のその先には」

 

 薄暗い部屋。

 巨大な強化ガラスを隔てて、少女は外を見ていた。

 暖かい水の中でふわふわと浮かびながら、目の前で何かを話している生命体をぼんやりと眺める。


 私と似た身体をしている。仲間だろうか。


 時たま現れて私の身体を眺め、何やら記録して、帰っていく。


 それにしても退屈な毎日だ。


 彼らのように、少女も外に出たいと思った。

 その願いは直ぐにも叶えられることとなる。



 水嵩(みずかさ)が減って、ガラスの扉がガチャっと音を立てて開いた。


 身体が重い。それになんだか肌寒い。


 彼女はブルッと体を震わせた。

 何もかもが新しかった。息をするという感覚も、自分の脚で立ち上がるという感覚も。


「チッ…また失敗作か。」


 空気が振動する…音。この音に何か意味がある事を、少女は理解した。


「まあ良い。出ろ」


 白い服を着た生命体が、初めて少女の目を見て話した。

 意味まではわからなかったが、自分にかけられたものだということは理解できた。

 それが少女には無性に嬉しく感じられ、文字通り尻尾を振って付いて行く。


 付いて行った先で少女を待っていたのは、燃えるように赤い鉄の焼印。

 生まれて初めての痛みに悶える少女を前に、白い服の生命体らは面倒くさそうに言い放った。


「暴れるな。お前は今日から…」


 No.066。


 少女の生まれて初めての記憶である。




 ☆




「あの…此方にエーリさんと言う方がいらっしゃると聞いたのですが…」

「ああ、はい。エーリは僕ですが。」


 またか。これでもう何件目だろう。

 なんだか知らんが、最近俺に病を見て欲しいと言って、ここカニスに訪れる人が跡を絶たない。

 聞けばそれなりに遠くの村から来てる人もいるみたいなんだが…

 なんで態々俺の所に来るんかね。

 別に何も特別な薬を処方してるわけじゃないんだけどな。


 調合の方はウイに手伝って貰ってるが、それでも忙しい日は朝から晩まで診察だ。

 …地下暮らしの時を思い出すなぁ。

 あの頃はこんな生活を毎日してた訳だが…今じゃあんな休みない生活やってられないね。


 俺には農業技術を伝える義務が…と言ってサボりたい所だが、実のところもうみんなノウハウがわかってきたみたいで、俺は既に邪魔者扱い。


 地下から出てきた時よりはマシになったが、それでも俺は未だにガリガリの部類で、農業みたいな力仕事はやっぱり無理っぽかった。

 試しにクワを持って振ってみたら、逆に俺の顔が地面に埋もれてめちゃくちゃ笑われた事もある。

「エーリさんはもっと身体鍛えた方がいいっすよー」とか言われたが…俺だって昔はもっといい身体してたんだぞ。


 それはともかく…


「なぁウイ。なんで突然こんな忙しくなったんだろ。」


 患者を返してから少し間が空いたので、ウイと話をする。


「エーリさん、以前ウチに立ち寄った行商人を見てあげたじゃないですか。きっとあれで周辺の村々に噂が広まってるんですよ。」

「ん?ああ、ケダマの事か。そういやそんな事もあったっけ。」


 あの心の中が見えない猫人族の商人の事を思い出す。

 思えばアイツのお陰でヤタ村の子供達と仲良くなって、だんだんと認められるようになってきたんだよなぁ。

 心の中で感謝しておくか。


 ウイは手で口を隠してクスクス笑いながら言った。


「きっと…そう言う利益で見ない人柄が、患者さんに人気なんですよ。」

「そんなんじゃないさ。俺はただ、めんどくさがりなだけだ。」

「ふふ。そう言う所です。」


 ウイは何故か、忙しくなってから特に機嫌が良い。

 仕事が好きなんだろうか…

 俺としては、もう少しゆったりとした生活がしたいところなんだけど。

 これからは金取ろうかな…いや、それは流石にわざわざ来てくれた人が可哀想か。


「そう言えば、聞きましたか?例の獣の噂。」

「ん?ああ、確かあの騎兵隊が討伐しに行ったよな。上手くいったのか?」

「いえ、それが全くの失敗みたいで…。なんでもラッパを鳴らしながら馬に跨って森に入り、一晩で500人もの被害を出した上、無傷で逃げられたらしいです。」


 500人!?

 そりゃまた悲惨な結果だなぁ。

 なんとなく失敗するような気はしてたけど…まさか一晩でそんなに殺られるとは…

 予想以上の正真正銘の化け物みたいだな。


 森の中に馬で入るのも愚かだし、なんで態々ラッパなんか吹く必要があるのか理解は出来ないが…

 可哀想なのは指揮官に恵まれなかった一般の騎馬兵達だ。


「…それは流石に…あの場で止めるべきだったか。」

「エーリさんが気にやむ事じゃ無いですよ。アレは…自業自得です。」

「お、おう。そう…かな。」

「そうですよ。」


 ウイってたまに笑顔で怖い事言うよなぁ。

 なんていうか、身近な人以外はどうでもいいと言うか…

 まぁ、人間誰しもそういうところはあるんだけどな。俺もそうだし。


 そんな事より。


「てことは…あの化け物はまた次の満月でここを襲いにきてもおかしくないって事になるな」

「そうですね…。ここだけじゃ無い…私達の村だって…」

「そうか…ヤタ村だって全然例外じゃないよな。」


 なんとかならないものか…。

 一月毎に人が死ぬなんて、とてもじゃないけど呑気に暮らしてられないぞ。


 そんな事を考えている時だった。

 勢いよく扉が開かれて、一段と元気の良いスーが入ってきた。


「エーリ!話が!…って何よ、その子もいたの。」

「当然です。私とエーリさんは家族なんですから。」

「なっ!?」


 なんで近頃のコイツらはいつも言い争ってんだ…

 この前の二の舞になるのは嫌なので、早々に話を元に戻す。


「スー。何か僕に話があってきたんですよね。」

「そうだけど…」


 何か言いたげに俺のウイを交互に見比べるスー。

 ウイが豊かな胸をそらして言った。


「あなたは敬語。私はタメ語。つまりそう言う事です。」

「こ、このぅ…」


 …ハァ。なんでこうなっちまうんだろ。


「エーリ!これからは私と話す時、敬語は禁止よ!!」

「いや…流石に身分違いっていうか…」

「命令なんだから!」

「…わかりました。…わかったよ。流石に公の場では無理だからな?」


 頬に手をあててもじもじするスー。

 なにこれ。帰っていい?


「ふ、二人の時だけでも良いわ。は、破壊力が…」

「なに言ってんだか。ほら、なんの話だっけ?」


 何故かチラチラとしかこっちを見ないが…藪蛇だ。

 それについてはもう何も言うまい。


「その…あの噂は聞いてる?」

「あの噂?もしかして、例の騎馬兵が敗走したって言う?」


 コクリ、と首肯したスーは、気持ちを入れ替えるように頬をパチパチと叩いた。

 彼女はわざとらしく難しそうな顔をして、話を進めた。


「つまり、あの獣はまだ生きてるって事。だから私達も、このまま次の襲撃を何もしないで迎える事は出来ないわ。」

「そうだな。何か対策を取るべきだ。俺も丁度今、それについて考えてた所なんだが。」


 パッと顔が明るくなる。


「やっぱりエーリは、私達の事一番に考えてくれてるのよねっ!」

「いいえ。これも仕事のうちです。エーリさんは責任感が強いので、仕事を中途半端に投げ出したりしないのです。」


 ウイが割り込んでくる。

 …話がちっとも進まん。


「それで…スーは何か思いついたの?」

「私は…とりあえずみんなの訓練を始めたらどうかと思うわ」


 訓練か…でもなぁ。

 村で一番強いセツナが怪我で寝ている以上、誰が指導するんだって話だ。


 ちなみに俺は自慢じゃないが、刀を持ち上げる事すらできなかった。

 あれ意外と重いんだよなぁ。あんなの振り回すとか、相当なマッチョじゃなきゃ不可能だ。


「犬人族は、個々の力は既に強い。それにも関わらず、あの獣に対しては無力だったんだ。なんせ、あのセツナですら勝てない相手だ。

 やらないよりは絶対良いだろうが…訓練が思うような結果を残すかは怪しい所だと思う。」

「そうです。ちょっと考えたらわかる事です。」


 ウイに追い討ちをかけられ、ぐぬぬと歯軋りをするスー。


「それなら、あなたには何かいい案でもあるの?」

「あります。」


 ウイは僅かに羽を膨らませて、得意げに語り始めた。


「罠を仕掛けるんですよ。あの獣、前回のがっつき方からしてかなり飢えていると思います。肉を餌にして落とし穴でも仕掛けておけば…」

「いや、それも厳しそうだな。」


 罠に関しては俺も考えた。しかし、それは現実的じゃないという結論に至ってしまった。


「肉に真っ先に食いつくならまず残っている家畜か、蔵に向かっていただろう。にも関わらず、アイツは全く関係ない家から襲った。

 だから俺は、アイツにとって食事は二の次で、目的は人を襲うところにあるんじゃないかと思ってる。…何処から襲いにくるかわからない以上、罠をかける場所も絞れない。」

「そうですか…」


 ウイが落胆し、肩を落とす。


「エーリには…何か良い案はないの?」


 まぁ、二人の案をバッサリ切ったんだから、俺もなんか言わないとな。

 でも…


「二人の案を却下しておいて何だが、俺にもさっぱり…」


 いや、待てよ…?


 アイツの目的が本当に人を襲う事なら、人を一か所に集めておけば的は絞れる。

 勿論それは被害がとんでもなく出るリスクもあるので、諸刃の剣だと前は思ったが…

 一人一人の戦闘技術を訓練するのではなく、中心を守る為の組織だった動きを訓練するのはどうだろうか。

 何処から攻めてくるのかは分からないから落とし穴は非現実的。

 だが、木で作った杭を使って動物用の罠を地面に仕掛け、戦いに慣れない人にも槍を持たせて擬似的な密集陣形を作れれば…或いは犠牲者を出さずに撃退も可能か…?


 俺は二人に今思いついた内容を話してみた。


「…どうだろうか」

「「…」」


「めちゃめちゃ良いじゃない!流石はエーリ!」

「エーリさん、天才です。」


 どうやら採用っぽいな。

 イェーイとばかりにハイタッチを決めるウイとスー。

 やった後で気恥ずかしくなったのか、二人して反対向いてるが…


 …コイツら本当は仲良くやれるだろ。


「そうと決まれば早速訓練開始よ!皆を集めるわ!」

「スー。ちょっとまってくれ。セツナが居ないってのに、一体誰がそんな指揮を…」

「何を今更。エーリに決まってるじゃない。ねぇ?」

「そうです。エーリさん以外居ません。」


 …なんてこった。

 こんな思いつきの案が速攻で通ってしまうなんて…

 大丈夫だろうな…ちょっと後でセツナの所行って色々相談しよっと…


 そんなこんなで、俺の思いつき作戦は村のみんなの知るところとなり、早速その日からスタートしたのだった。




 ☆




 俺の適当作戦は思いの外順調だ。


 今取り組んでいる事は主に三つ。

 一つ。女子供老人含めて、戦えない人にも槍の訓練をする。

 二つ。木材を切り出し、先端を尖らせた巨大な杭を沢山作り、芋のツタで作った縄で簡易バリケードを作る。

 三つ。行商人に丈夫な革を工面してもらい、戦闘員の革装備を作る。


 戦闘員には本当は騎馬兵みたいな金属装備を用意したかったが、そんな金があるはずもない。

 金属は大抵農具や刀に使われており、それだって村で用意した供用のものだ。

 やはりそう易々と手に入るものではないらしい。


 本当は…森で死んだという500人の騎馬兵の死体から、金属装備だけ拝借したい所なんだが…。

 これに関しては倫理的に問題があるので、最終手段とさせてもらおう。

 そんなん使ったとバレちゃ帝とやらに目をつけられるかもしれんしな。


 それらしい顔で後方腕組みをきめてサボっていると、組の男が近づいてきた。


「エーリさん。屋敷にエーリさんにお会いしたいという人が」

「ああ、はい。わかりました。」


 また患者かな。

 俺は屋敷の方に向かった。




 屋敷で待っていたのは深々と薄汚れたフードを被った、見るからに怪しげな男。

 俺の姿を見るや否やその口元が三日月状に吊り上がった。


「ほう。貴方がエーリさんですか。」

「そうです…えっと、どこか悪いのですか?」


 なんか怖いしあんまり関わりたくないけど、患者なら放っておくわけにもいかない。


「ああ、いえいえ。私は特に、どこか患っているというわけではありませんで…ただ、貴方に会ってみたくて来たのですよ。」


 なんだよ、違うのか。

 忙しいと言って帰らしてもいいんだが…

 なんとなく興味が湧いたので少しお話してみる。


「…?それはまた…どうしてですか?」

「ここ最近、貴方はここらで有名なんですよ。私も一度、今のうちに貴方の為人を見ておかねばと思いましてね。」

「…僕が…有名ですか。変な噂じゃないといいんですけどね。」

「いえいえ、どれも好意的なものばかりでして。どんな時間でも見てくれる、話をよく聞いてくれる、腕が確か、不治の病も治す、死の瀬戸際から呼び戻す薬師…などなど。」

「なんですかそれ」


 最初はともかく、後半はあまりに荒唐無稽で笑ってしまった。

 不治の病は治せないから不治の病なんだっての…それに死の瀬戸際からとか…そんな力あったら欲しいわ。

 やっぱり噂ってのは変に大きくなって収集つかなくなるもんなんだなぁ。


 ケラケラ笑っていると、男はより深くフードを被り、目元まで隠した。

 そして…より低いトーンで、彼はボソッと呟く。


「他にも…狗鳴組を統べ、軍事訓練をし、人を集めている…なんてのもありますがね。」


 …ん?

 軍事訓練…人を集めている…なんだか戦いの準備をしてるかのような言われようだな。

 いやまぁ、あの獣に対して戦う準備をしてるってのは間違ってないんだけどさ。


「…やけにきな臭そうですね、僕。」

「ええ。事実か否かはさて置き、そのような噂もあるようで。」


 眼前のフードの奥の瞳と目があった気がした。

 …なるほどね。

 言いたい事はわかった。

 俺の動きは見る人が見れば不審だから注意しろ…と。


 なら、目の前のコイツは何者だ。

 態々俺の目の前に現れて、如何にも怪しげな風貌でそれを注意してくるコイツは。


 …いや、あまり深く考えるのはやめよう。


 とりあえず注意してくれたんだ。見た目が怪しいからって色々邪智するのは頂けない。


「忠告ありがとうございます。とは言え今はあのマルトルードの悪魔をなんとかしなければならない状況ですからね…自分の身は自分で守らねばなりませんから。」

「…そうですか。」


 話は終わったとばかりにガタンと椅子から立ち上がった彼は、それ以上何も言わず、深々とお辞儀をして帰っていった。



 …マジでなんだったんだろ。

 少しの間ポカーンとしていると、さっき俺を呼びに来た組の男が焦った様子で部屋に入ってきた。


「エーリさん!なんでこんな所にいるんですか!患者さん部屋で待ってますよ!」

「…は?」


 なんだって?

 いや、俺に会いたいってヤツなら今さっき…


「いや、そんなはずは…だったらアイツは…?いや、ん?」


 困惑する俺を見て、組の男は少し困った顔をして言った。


「エーリさん、疲れすぎてるんすよ。最近色々頑張りすぎて。軍事訓練も農業も俺らちゃんとやっとくんで、エーリさんは患者見た後休んでてください。」

「え、ああ…そう…なんですかね…?」


 いや、あの男は確かに…

 ふに落ちないまま、俺は患者の元へ向かうのだった。



 ☆



「ええい!忌々しい!!」


 目の前に用意されたるは品数数十を超える豪勢な食事。それを膳ごと全てひっくり返して、叫ぶ太った男。

 オリワ地方を統べる豪族、マクベスである。


 マクベスは至って不機嫌であった。

 正体不明の獣害事件が自分の領地で相次ぎ、その対応を帝、キルワ・ノアに丸投げしたとして周辺の豪族からは散々な言われようである。

 加えて件の獣害事件のせいで村々の秋の税収が低迷しており、このままでは例年の半分程度にしかならない計算である。


 そのおかげで、50を超える品数がたったの30に減ってしまった。

 これは彼にとって許しがたい事なのである。


「ミカワで一番の大豪族であるこの吾輩が!何故このような豚の餌を食わねばならんのだ!!」

「た、大変申し訳ございませんマクベス様!!」


 床に散らばった豪華な食事を、色鮮やかで綺麗な着物を着た女官達が焦って回収する。

 マクベスはその様子を鼻息荒く見下した。

 イラついた時は下賤の民を可愛がる。それがマクベスにとっての日課であった。


「おい、卑しい女共。そこの床の飯、吾輩の前で食って見せよ。」

「は…今なんと…」

「それを食えと言ったのだ!卑しい豚にとっては又と無い褒美であろう!」

「は、はい!ありがとうございます!」


 強張った笑顔で床の食事を頬張る女官。

 マクベスはそれをみて自虐的な笑みを浮かべた。


 床の一品を足で踏みつけ、それを女官へ放った。


「この吾輩の体に触れたものだ。よく噛んで食べるのだぞ」

「ありがとう…ございます…」


 他の女官はこの男と目を合わせぬよう、ひたすらに床の掃除に徹する。

 運悪くこうして彼の目についてしまった者は、大抵その次の日の朝まで付き合わされ、泣いても癒えない心の傷を負う。

 これがこの城での日常であった。


「…マクベス様」

「…今楽しんでおるのがわからんのか。あとにせよ。」

「…いえ、取り急ぎお伝えしたい事がございまして」


 女官に馬乗りになっていたマクベスは、忌々しげに声の先にその細い目を向けた。

 そこには汚らしいフードを被った男が立っている。


「…お前はイズの…チッ。手早く済ませよ。」


 乱れた衣服を戻す事すらせず、マクベスは王座へと戻った。




「…なんと。カニス村にそのような者が?」

「はい。あの村に突如現れたエーリという烏人族の男。あの者は着々と軍備増強を進めている様子。ゆくゆくはこの城を狙っていると見て間違いはございません。」


 男から話を聞いたマクベスの頬は怒りでピクピクと痙攣し、その手に握った漆器のコップは粉粉に砕け散った。

 女官達の中にははその怒りに恐れるあまり泣き出す者までいる始末である。


「下郎如きでこの吾輩に楯突こうとは…愚か極まりない。吾輩が自ら村へと出向き、思い上がった根性をこの手で叩き潰してくれようぞ。」

「流石はマクベス様。後にミカワの帝となられるお方。英断にございます。」


 女官達がこっそりと部屋から退出しようとしているのを、彼は見逃さなかった。


「どこへ行くというのだ。」


 マクベスはいきり勃つその下の刀を持って近くの女官へと切り掛かった。


「お、お許し下さい!マクベス様!」

「さて、どうしてくれようか。」


 ニヤリと歪んだ彼の目が捉えたものは目の前の女官では無く、その先、カニス村にあるのだった。


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