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ホモ・サピエンスは邯鄲の夢を見る 〜コールドスリープから目覚めたら人類絶滅??人類最後の生き残りは医学と内政で成り上がる〜  作者: 自分にだけ都合の良い世界と書いて異世界と読むのは間違っていると思いませんか?
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第十三話「毒は低い方へと流れる」

 

「それで、主様は様々な獣に知恵と力を授けたのです…」

「…なるほど」

「大変だァ!!長!!」


 今日も今日とてメイさんの宗教教育…もとい俺や麗奈にとっちゃ昔話を聞いていた時だった。

 突然乱暴に扉が開いて、ヴァンさんが上社に飛び込んできた。


「…何事ですか?」


 メイさんはこれまでの朗らかな表情とは打って変わってキリッとした目つきになった。


 昨日のメイさんの言葉がフラッシュバックする。死のイメージ、それも複数。

 所詮占いとは言え昨日の今日だ。俺も不安な気持ちを抱えながらヴァンさんの言葉を待った。


 ヴァンさんはゼェゼェと荒い息を吐きながら、大声で言った。


「…隣のカニス村の犬供が…大勢で押しかけて来やがった!!」

「…そうですか。」


 メイさんはあくまで静かに、目を瞑った。

 カニス村…聞いたこともない村だが…

 犬供って事は、犬人族が住んでる村って事なんだろうな。


「長、どうする?今ウチの男達が睨みを効かせてるが…彼方さんもかなり気が立ってて、いつ喧嘩になってもおかしくねぇ。」

「とにかくいってみましょうか。ヴァンさん、案内してくれますね?」


 ヴァンさんがこっちだ、と走り出す。


 俺がどうしようかとオドオドしていると、ウイが行きますよ、と俺の脇を抱えた。

 俺が走れないのを知っているので、どうやらまた空を飛んでくらしい。


 何だかなぁ。

 緊迫した状況だと言うのに情けなくてため息がでてしまった。




「ネズミ風情が俺らの言うこと聞けねぇってのか!?」

「ネズミにだってな!譲れねぇもんがあんだよ!」


 ヴァンさんの案内の元たどり着いた先には、ウチの村の狩りのメンバーが何やら見たことないグループと揉めていた。

 垂れた耳とフサフサの尻尾。鼠人よりも鼻も高いな。あれが犬人ってわけか。

 犬人の方が全体的に体格が大きい。みんなヴァンさんレベルのムキムキの男ばかりだ。


 グルグルと喉を鳴らして…威嚇してるんだろうか。

 何にせよかなりの威圧感を感じるな。


「皆さん、落ち着いて下さい。」


 メイさんが空から降り立つ。広げたら3メートルはある漆黒の羽。僅かに犬人達が怯んだ。

 メイさんの一言でウチの村の男達が渋々引き下がる。


 犬人達はその様子を見てペッと唾を吐いた。

 鼠人族を格下と侮ってるのか。

 …それにしてもマナー悪いなぁ。


「…一体何事ですか。」

「メイ。生きていたのか。」


 犬人の中のリーダーらしき人が前に出る。

 地面を震わせるような低くて渋い声。ヴァンさんと身体の大きさは同じくらいだが、片目に切り裂かれたような古傷があり歴然の猛者って感じがする。

 他の犬人よりも大分落ち着いた雰囲気で、特に怒りや敵意と言ったものは感じられない。


 メイさんは猛者に話しかけた。


「セツナ。この状況、説明してくれますね?」

「…お前が居るならば、初めからこんな手荒な真似はしなくて済んだかもな。」

「…とにかく、まずはその物騒なものを下ろすよう、指示してもらえますか?」


 犬人達は血気盛んで、鼠人に鉄製の槍のようなものをむけている。

 しかしこのリーダー、セツナというらしいが、こいつが手をあげるた途端に、犬人達がみんな後ろに下がって頭を下げた。

 物凄い統率力だな。流石は犬と言った所か。

 メイさんが頷く。


「…良いでしょう。では状況説明と要件をどうぞ。」

「ふむ。では要件から端的に。…この村の冬の蓄えを奪いに来た。」


 その一言でウチの男達がふざけるな!と再度騒ぎ始める。

 冬の蓄え…というと、食料のことかな。

 まだ1ヶ月そこそこしか住んでいない俺でも、村における食料の大切さはわかる。

 なんせみんな、毎日のほとんどを食料集めに費やしてるようなもんなんだからな。

 毎日生きるため必死に頑張った結果が冬の蓄えだ。

 それを奪うと言われて良いよと言えるはずもない。


「…何故貴方が居ながら、そのような賊紛いの手段に訴えたのです。」

「…俺は仲間を守るためなら何だってやる。賊と謗られようと、それで腹が満たされるなら安いものだ。」


 悪びれもせず開き直ったような態度がよりみんなの怒りを高める。

 しかしメイさんは違う所に目をつけたようだ。


「つまりは冬の備蓄が無い…という事ですか?」

「…」

「何があったのです。話して下さい。」


 セツナという犬人曰く、先日の日中の間に村の子供が数人と、村で飼っていた牛が全滅したらしい。

 匂いと痕跡からして獣害だと言うが、犬人の嗅覚を持ってしてもその獣を追い詰める事は出来なかったという。


「貴重な食料である牛が全滅した。俺達は肉しか食えん。このままでは冬を越せず、餓死者が続出するだろう。」

「…それで、困ったら私達から奪うのですか。」

「そうだ。家族の命がかかっている。迷う余地はない。」


 話は終わりだとばかりに犬人族達が吠え、刀を構える。


 …食べる物がないから他から奪うと。

 飢餓と貧困は戦争の発端となりやすいと以前本で読んだ事がある。

 正にそれが目の前で起ころうとしているのか。


 この村は、身寄りのない俺を受け入れてくれた。

 最初は話もろくに聞いてくれなかったが、今ではみんな俺に意見を求めてくれるようになった。

 そんな村が今、未曾有の危機に瀕している。


 俺は居てもたってもいられなくなって、メイさんの前に出て、セツナに対峙した。


「なんだお前は。今俺はアイツと…」

「貴方達が僕達から食料を奪ったとしましょう。では、来年以降はどうするんですか。」

「…邪魔だ。関係ないやつは引っ込んでいろ」

「質問に答えて下さい。家畜が一年で蘇るのですか?」


 セツナがメイさんへと視線を投げた。

 メイさんが頷き、そして彼は俺へと視線を戻す。

 どうやら相手をしてくれるみたいだ。


「簡単なこと。…来年もまたお前達から奪うだけの話だ。」

「奪われるとわかっていて一生懸命狩りをするバカは居ませんよ。」

「…」

「今年は良くても来年は共倒れです。それだけは…覚悟して下さいね。」


 少しだけ熱くなって挑発的な言い方になってしまったせいか、後ろにいる犬人族達が「何を!!」といきりたつ。


 しかしセツナはそれを手で制し、あくまで静かに問いかけた。


「…では、どうすればいい。お前達から奪わなければ、俺達の家族は今年すらも超えられない。」

「…わかりません。が、この方法が考えうる手段の中で最悪なのは間違い無いと思います。」


 セツナの鋭い目が俺を見下ろす。

 俺も背が低い訳ではないのだが、10センチ以上の身長差がありそうだ。圧が凄い。


 その圧に負けじと、あくまでも強気に言い切る。

 交渉の肝は、強い言葉で断言して相手に飲ませる事だ。


 セツナと見つめ合ったまま、少しの間沈黙が流れる。

 ちょうどこの空気が辛くなってきた時、メイさんが間に入ってくれた。


「…とにかく事情はわかりました。此処で無駄に争ってお互い消耗するのは働き手を失う最悪の選択です。一端この件で私達も話し合ってみますから、一度お引き取り願えますか?」

「…昔馴染みのお前に免じて、一度だけ撤退しよう。だが、俺たちの考えは変わらない。…次会う時敵にならないよう、賢明な判断を期待している。」


 あくまでも好戦的だなぁ。俺の話聞いてたんだろうか。


 セツナが帰るぞ、と一言言うと、あれだけ唸っていた犬人達はみな矛を収めて帰っていった。


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