第十二話「愚者に説法、釈迦に念仏」
ミロクさんが大変だった次の日の朝、メイさんが村人に招集をかけた。
それにしても…なんでかさっきからチラチラと視線を感じる。
ヴァンさんも俺に心配そうな視線を向けていた。
「エーリ…あれからミロクの親父の容態はどうだ?」
「ああ、今は落ち着いていますよ。まだ油断は出来ませんが…」
俺の言葉で皆が良かった良かったと笑い合っている。
そんな皆の様子を見て、上座に座っているメイさんが優しく微笑んで言った。
「何を隠そう、エーリさんは凄腕の薬師…医師ですからね。この私を助けてくれたのも彼ですし。」
「「え!?」」
その言葉で、部屋のザワザワが更に盛り上がる。
ああ、そう言えば、メイさんを直したのが俺だってことも、まだ皆んなには言ってなかったっけか。
…しかし複雑だなぁ。
無責任な治療がたまたまハマっただけだし。
これじゃいつぞやの胡散臭い宣教師の事批判出来ないや。
俺が少し浮かない顔をしていると、ヴァンさんに目敏く発見された。
「おい兄弟!主役がそんな浮かねぇ顔しててどーすんだ!」
満面の笑みを浮かべたヴァンさんにガッと強引に肩を組まれる。
イテテ。ウイと言いヴァンさんと言い、ほんとここの人達力強過ぎ…
「ヴァンさん、僕はたまたま…」
俺の必死の抗議も、集まって来た村人達にかき消される。
「あーわかったわかった!そのたまたまも、積もり積もれば必然ってわけよ!」
「エーリは謙虚すぎるのが玉に傷だな!俺だったら自慢しまくるぜ!」
「もっと男らしく胸を張りな!兄貴はそれだけの事したんだからよ!」
「エーリさんてば、最初はヒョロヒョロで頼りないと思ってたけど、案外いい男じゃないのよ。」
バンバンと背中を叩かれて咳が出る。
いかん。普通に痛い。マジで治りかけの怪我が悪化するレベルだ。
「むぅ…。みんなーっ!!エーリさんは病み上がりなんだから!ベタベタしないで!」
もみくちゃにされている俺を気遣ってか、ウイがみんなを剥がしてくれた。
いやはやありがたい。礼を述べておく。
「ウイ…ありがとう。」
「あっ…いえ…」
何故か下を向くウイ。
メイさんが口元を手で隠して笑っているが…一体どうしたんだろうな。
………
……
…
ミロクさんの事で皆明るいムードでワイワイ盛り上がっていると、突然上社の扉がガタン!と大きな音を立てて開かれた。
「朝から騒がしいと思えば…また邪教徒による集会ですか?」
「ぜ、ゼアロの…親父…」
特に大きいというわけではないのに、何故かよく響く声。
皆が一瞬にして静かになった。
まるで怖い教師が教室に入ってきた時の様な雰囲気だ。
何事かと思って人混みの奥を覗くと、そこには以前メイさんを強姦しようとしていた犯罪者、もとい似非神官が立っていた。
似非神官はゆっくりと、いやねっとりとこの上社の部屋中をぐるっと見渡した。
「全く嘆かわしい。良かれと思って、こうやって集会を開いているのでしょうねぇ…。その度に、洗脳が深まっているとも知らずに…。」
「…」
「貴方達は偽りの神を崇め、真実から目を背けている。その歪みに…陰謀に気がつこうともしないで。」
コイツは突然何を言い出すんだ…。
というか、こんな犯罪者がのうのうと村を歩いてていいのか。
言いたい放題の神官に、堪えきれなくなったヴァンさんが前に出た。
「ゼアロの親父!聞いてくれ!これは神とか陰謀とか、そんなんじゃねぇ。ミロクの親父が助かった。ただその喜びを分かち合ってるだけなんだ。」
神官はハァ…とわざとらしく大きな溜息を吐いた。
「貴方達は何も…何もわかっていない。そもそも助かるはずがないのですよ。貴方達が悪魔の教えに縋る以上、神は決して奇跡を下さらない。仮に治った様に見えたなら、それこそ悪魔の偽り、洗脳なのです。
どうしてそんな簡単な事にすら気が付けないのか…」
たいそう心を痛めている、という様に痛ましい顔をしている。
そして…
「ああ、いや。それも含めて、洗脳によるものでしたね。」
俯いたまま、誰も反応しない。
こんな奴のいう事聞く必要無いと思うんだが…まぁここの村の人は神官に逆らえない事情でもあるのかもな。
ここにきてまだ日が浅い俺にはよくわからん。
ゼアロという似非神父はやれやれとばかりに頭を振ると、カツカツと床を踏み鳴らしながら移動して、隣の部屋の襖を勢いよく開けた。
そこは昨日治療のためにミロクさんを運び込んだ部屋であり、中央には彼が横たわって眠っていた。
ゼアロの視線がその身体を射抜く。
嫌な予感がした。
「ちょ、ちょっと…その部屋は…」
「ん?なんですか…この変な管は?」
ミロクさんはかなりの出血があったので、昨日寝ずに点滴含め治療を行った。
その為に彼に擬似的なチューブを繋いだのだが…またいつ血圧が下がってショックになるのかわからなかったので、そのまま刺さったままにしておいたのだ。
様子が急変したら、直ぐに昇圧薬を入れられる様に。
それなのに…
「こんな怪しげな器具を身体に埋め込むなんて…やはり貴方達のやる事は狂ってる。」
ゼアロはあろうことか、そのわざわざ繋いでおいたチューブをガッと掴み、引き抜こうとした。
「なっ!?お、おい!何してんだ!!」
当然、焦る。ミロクさんに関しては別に今すぐどうこうなるわけじゃないが、その管は今のところ替えがない。
強く引っ張り千切れてしまえばもう静脈から補液することも薬を入れる事もできないのだ。
そうなれば…何か起きたとして、俺がミロクさんにできる事は何もなくなってしまう。
俺は咄嗟にゼアロに駆け寄り、その手を掴んだ。
しかしその手の力は思いの外強く、俺の貧弱な腕でどうこうできる様子はない。
俺は叫んだ。
「やめろ!!何するつもりだ!!」
「何って、助けるんですよ。悪魔の手から、この哀れな犠牲者を。」
「馬鹿野郎ッ!!殺す気かッ!!」
俺はとにかく止めなければという一心で、ゼアロに体当たりした。
全力でぶち当たったせいで肋骨が痛むが…ともかくミロクさんからゼアロを引き剥がす事に成功する。
ミロクさんに駆け寄り、様子を確認する。
アイツが無理に引き抜こうとしたせいで、ミロクさんの腕の針を刺した部分が紫色に変色している。
…これは、強く動かしたせいで針が血管を貫通して、反対側に血が漏れてるな。
とは言え後でもう一度刺し直せば大丈夫そうだ。
幸い管の方も問題ない。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
それと同時に、この無茶苦茶な詐欺師に対してふつふつと怒りが湧いてくる。
ゼアロは立ち上がると憎々しげに俺を見つめ、そして言った。
「誰かと思えば…そうですか…。この前の貴方でしたか。こんな恐ろしい事をしたのは。」
「……それが何か問題でも?」
「見えますか?この腕の色。貴方のせいで可哀想に…こんな紫色になってしまって…。もうまともな人の腕とは思えない。」
「…」
…何と言ったらいいかわからない。
とにかく、怒りに任せて口を開けば止まらなくなりそうだったので、言葉と一緒に唾を飲み込む。
まずは冷静にならなきゃ。
ゼアロはそんな俺の様子を見て満足げにニチャアと笑った。
そして俺に…否、俺とゼアロの様子を周りで見ている沢山の村人達に向けて、雄弁家らしく明朗と語った。
「私はねぇ。許せないんですよ。こうやって身体の中に毒を流し込んでおいて、さも治療しているかの様に人を欺く、貴方みたいな偽善者が!」
「…あんたがやったんでしょうが。」
「ほら見たことか!!都合が悪い事があるとこうやって人に擦りつけることしかしない。皆さん見ましたか?これが、悪魔のやり口です。完全に洗脳されてしまった者の末路なんです!」
コイツ…言わせておけば適当言いやがって…
「いいですか、皆さん。人には皆、メンエキケイというものが備わっているんです。自分の傷は自分で直せるように、神が与えたもうた身体には自己治癒能力が備えられているのです!
風邪をひいた時、皆さんは何をしますか?栄養を取って暖かくして体を休めるでしょう。そうすれば身体は自分で元気になるからです。
…それなのに、この男はこんな恐ろしい毒を身体に流し込もうとしていた。それを証拠に、ほら!こんな毒々しい色になってしまいました。
こうやって弱った人を更に毒で弱らせて、薬と称して更に金を巻き上げる。
これを悪魔の所業と言わずして何と呼びますか!?」
村人達に向けて演説じみた口調で語るゼアロ。
村人達がそれに呼応したように、ザワザワと何かを喋り始めた。皆が此方を見ている。
…少しでも病気について知ってる人にとっては馬鹿馬鹿しい話だ。免疫で全て片付くなら病気なんて存在しない。
ほっといて治らないものを何とかするのが医療なのだから。
だが…何も知らない人にはもっともらしく響いてしまう事もある。
実際、過去にこう言った話を鵜呑みにして、あらゆる治療を拒んで手遅れになってしまう人をこの目で何人も見てきた。
…そうなる前に、早く説明をしなければ。
「…毒なんて入れてない。これは…」
「言い訳か戯言か。ともかく悪魔の言うことには耳を傾ける価値もないですよ、皆さん。」
「お前…ッ」
俺の弁明に言葉を被せてくるゼアロ。
憎たらしい顔は勝利を確信したのか、その口角は吊り上がっていた。
「ならね、ハイかいいえで答えてくださいよ。ミロクさんは絶対に助かるんですよね?治療、したんですもんね?」
「絶対なんてのは…」
「ハイか、いいえか!どちらかで答えて下さい。」
「…」
医療には絶対なんて無い。俺は手を尽くしたが、及ばない事だってある。
俺は言い淀んだ。
すかさずゼアロが捲し立てる。
「ほーら見たことか。はぐらかすばっかりで、真実には答えられないんですよ。はなから助ける気がなかったのがバレバレです!」
ザワザワと場が湧き始める。
中には俺を疑い始めるような言葉も混じっていた様な気がする。
…そう。医療を魔法みたいに思ってる奴は一定数居る。
手を尽くしても助けられなかった時、そう言う奴らは決まって医療ミスだと叫ぶ。
患者の命の責任は、全て医師に降りかかってくる。
勿論それを覚悟の上で治療をしているが…
今回もそうなのか。
「…は、はは。」
この場の空気を取り返せる気がしなくなり、俺は半ば諦めを込めて自虐的に笑った。
その時…
「もう、やめてっ!」
騒がしくなっていた場に烏の一声が響く。
ザワザワとまとまりがなかった場が静まり返り、何事かと皆の視線がウイに集まった。
彼女は意を決したように口を開く。
「…私…ずっと隣で見てました。一晩中、寒いのに汗水垂らして看病するエーリさんの姿を。だから…私、わかるんです。エーリさんがどんな気持ちでミロクさんの命と向き合ってたか…」
彼女の拳は強く握られ、僅かに震えていた。
ウイは静かに怒っているようだった。
「絶対なんてありません。だからこそ…エーリさんはミロクさんの命に責任を持って、助けようとしてた。失敗したら、責められる覚悟もしてた。黙ってみてることしか出来ない私達の代わりに、エーリさんがその全責任を負ってくれてた。
だから…だから…」
熱くなって言葉に詰まる。そして…
「何も知らないくせに…エーリさんにひどい事言わないで…!」
彼女はゼアロを睨みつけ、そう言い放つ。
感極まったのか、彼女の下瞼に大粒の雫が溢れ、床に落ちた。
誰も何も言わない。
ただ皆が唾を飲む音だけが場を支配した。
ウイはそんな皆に向けて、僅かに上擦った声で続けた。
「せめて私に…私達にできる事は、エーリさんの心の重みを分かち合う事じゃないですか…。」
彼女の訴えを、皆が俯いて聞いていた。
真っ白な視点でものを見ている彼女の一言だからこそ、響くものがあるのだろう。
それよりも…俺はただ、嬉しかった。
ウイが俺の為に怒ってくれたって事が。
暫く呆気に取られていたゼアロが今更慌てはじめる。
「…馬鹿な事を。ウイさん、何も知らないのは貴方の方だ。それこそが悪魔のやり口だとあれ程…」
「いいや、全く、ウイの言う通りだ。」
ヴァンさんがゼアロに言葉を被せ、ずいっと前に出てくる。
「エーリの覚悟、俺にも伝わってたぜ。命掛ける、男の覚悟だった。」
「ヴァン。貴方…」
「ゼアロの親父。あんたにゃ随分世話になったが…。あんたがそれを悪魔だ洗脳だって言うんなら…悪魔の教えも案外悪かねぇなと思ったぜ。」
「…貴方までも、邪教に魂を売ったのですね。…子供同然に思っていたのに。」
ヴァンさんは寂しげな顔をしてゼアロを見た。
対してゼアロはもうヴァンさんの方を見てはいない。
彼はただ、ここから巻き返すチャンスを狙っているかの様に見えた。
しかし…
人混みからメイさんが出てきて、ゼアロの前に立った。
「…ゼアロさん。」
「ばっ!?メイさん…!?何故…病気は…」
「彼が治してくれました。」
「そんなはずは無い!!これまで誰一人助かってない難病だぞ!?
そ、そうだ!適当に誤魔化して一時的に回復したように見せてるんだ!そうに違いない!」
その慌てぶりは最早完全に説得力に欠いていたのだが、それに気がつかないのがいっそ哀れだった。
ウイのお陰でもうこの場に俺を疑う声は無く、ゼアロの声は誰にも響かない。
メイさんはとどめを刺すかのように静かに言った。
「彼はもう、私達の家族なんです。彼を馬鹿にするなら…私も黙ってませんよ。」
「なっ…!?」
周囲をキョロキョロと忙しなく見回し、よろよろと後ずさる。
その目には不信感や反感と言ったマイナスの感情が込められている事に流石のゼアロも気が付いたらしい。
「どれ程…どれ程愚かなのですか…。まだわかりませんか。邪教に生き残る道は無いということが。私達ユナレストに楯突く事がどう言うことか…」
吐き捨てるようにそう言うと、ゼアロはそのまま逃げるように走って上社を出て行ったのだった。
………
……
…
昼前には皆帰っていった。
なんだかドッと疲れたので、メイさんとウイ、俺はお茶を飲みながら一息ついていた。
そこで、少し気になっていた事をメイさんに聞いてみる。
「あの神官…ユナレストって言ってましたね。あれってなんの事なんです?」
「……そうですね。エーリさんは何も知らないようですから、ここでキチンと説明しておきましょうか。この辺りで生きていくには必要な事ですし。」
メイさんは姿勢を正し、湯呑みを床に置いた。
どうやら宗教の事になると俄然やる気が出るらしい。
流石は巫女だな。
彼女はいつにも増して饒舌に話始めた。
「まず、ユナレストと名乗る彼らは、遥か遠く、教国の第一天子だった”レーナ”という存在を唯一神として崇めて居ます。ユナレストは教国は勿論、このミカワ国含め多くの国で強い力を持っていて、最も一般的な派閥と言えますね。
対して私達…彼らは私達を邪教徒、エレティックと呼びますが…私達が崇めているのは創造主たる主様。その名を”エーリ”と言います。
そうそう…貴方は畏れ多くも主様と同じ名前なのですから、ゆめゆめ感謝を忘れてはなりませんよ。」
はは…と愛想笑いしたつもりが乾いた笑いになってしまう。
正直驚いた。
ウイの反応なんか見てて、もしやと思う事はこれまでにも無かったわけではないが…。
レーナとエーリか…。
偶然にしちゃあまりにも出来すぎてるっていうか…流石にここまで来てたまたまで通すのは無理があるよな。
多分、間違いない。
どういうわけか知らないが、俺と麗奈は亜人達に神として神格化されてるっぽい。
…人ごとじゃなくなった以上、ここはもう少し話を聞いておきたい所だ。
俺はもう少し切り込んでみる。
メイさんは話が逸れました、と咳払いをした。
「崇める神が違うから、手を取り合う事は出来ない…という事ですか?」
「私達は何も、レーナという存在を否定したりはしません。寧ろその逆で、主様と対になる存在として、二番目に格の高い現人神として彼女を崇めています。
実際、この村に残る伝説でも、私達亜人に様々な知識と技術を授けてくださったとありますからね。
…ただ、ユナレストは唯一神として彼女を崇めています。彼方からすれば私達のやっている事は半端に見えるのでしょう。」
一神教と多神教だから、それ故にすれ違いもある…と。
成る程な。
メイさんは悲しそうに続ける。
「私達としても、彼らと手を取り合うのは難しいんです。
彼らユナレストはあろうことか、主様を最悪の…悪魔と認定していますからね。同じく対になると言ったって、扱いは私達のそれとは天と地程の差があるのです。
流石に色々と寛容な私達でも、主様を悪魔呼ばわりされるのを許容する事は出来ませんし。」
「…どうしてその…主様とやらはユナレストに嫌われているんです?」
「彼らユナレストの信条の根幹とも呼べるものに、ニンゲンに心を開いてはならないと言うものがあるのです。
そして…伝説によれば、主様はそのニンゲンという特別な存在だったとあります。」
「ニンゲンに…心を開いてはならない、ですか。」
「はい。とは言え私も、ユナレストの神官も、ニンゲンという存在がどういうものなのか、ほとんど知らないんですけどね。」
見たこともないですし、と言って笑うメイさん。
目の前に居ますよーってな。
いや、流石に笑えねぇわ。
ここまでの話からすると、人間敵視のユナレストが大きな勢力を持ってる以上、俺の正体はあんまり大っぴらにするべきじゃ無さそうだな…。
つくづく、メタモライザがあってよかった…。
俺は居心地が悪くなって、さり気なく背中の翼がちゃんと付いている事を確認する。
そんな俺の様子を見ていたのか、唯一事情を知っているっぽいウイが隣でクスッと笑った。
「伝説によれば、主様とレーナ様はかつて夫婦だったと言います。それなのにレーナ様は、常々ニンゲンには気をつけろと仰っていたそうです。
一説によれば、ニンゲンである主様がレーナ様の逆鱗に触れたのだと言われてますね。それが別れの原因になったと。」
「いやぁ…そんな事はないと思いますけど。」
「…?どうしてですか?」
「ああ、いや、なんでもないです。」
まぁ…なんでそんな事になってるのかわからんでもない。
アイツの事だ。
大方亜人が人間に支配される未来を危惧してそんなことを言い聞かせてたんだろう。
麗奈曰く、亜人は人間に絶対服従らしいからな。
んで、俺もその敵対対象に含まれてしまったと。
仕方ないとは言え…ちょっと悲しいな。
一通り宗教対立について色々と聞けた所で、メイさんが話を変えた。
「エーリさん、貴方は村のみんなから信頼厚く、子供達からも男衆からも好かれていますよね。」
「え?あ、えっと、そうなんですか?」
「ええ。ここ最近特に評判が良いですよ。人格者で博学、見た目に反して男気もあると。
…私は勿論、ウイも憎からず思っている様ですし。今後このヤタ村を任せても良いくらいには思ってます。」
「い、いや、そんな…買い被り過ぎですよ…」
急にどうしたんだろう。
こんな手放しで褒められると流石に照れるというか…
見た目に反しては余計だけど。
居た堪れなくなってチラッと隣を見ると、ウイが少し赤くなりながらぶんぶんと首を縦に振っていた。
メイさんはそんなウイを見て微笑んだ後、真面目な顔をして俺の目を見た。
「そんな貴方だからこそ、この話をしておこうかと思います。」
…今のは前振りって訳か。成る程な。
なんだか深刻っぽい雰囲気だけど、メイさんとウイに恩返し出来るチャンスだ。
俺にできる事ならなんでもやるさ。
そう意気込んで話を聞くと…
「今朝、不吉な神託を賜りました。」
メイさんは悲しそうな顔でそんな事を口走った。
ついポカンとしてしまう。
なんだそりゃ。
たかが占いだろ?
そう思ったんだが…メイさんは勿論、ウイにも神妙な空気感が流れていた。
メイさんは続ける。
「私は生まれてからこれまで、数えきれない程何度も占って来ました。ですが今回は…」
言葉を選んでいるような仕草。
彼女は逡巡したように見えたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「…今回は…死のイメージです。それも一人ではない…きっと大勢でしょう。」
複数人が死ぬという事か?
…占いとはいえ、確かに不吉だなぁ。
「それはいつ?誰が?」
「ごめんなさい…そこまでは…」
メイさんが俯いた。
「ただ、私の神託はこれまでほとんど外れたことがありません。ですから…エーリさん。もしものことがあったら、その時は…」
メイさんはいつも以上に強い視線を向けて、俺とウイを交互に見た。
「この村の事。それからウイの事。よろしくお願いします。」
外れたことがない…神託…だと…?
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
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