舞台は移り変わる
今回ちょっとばかり駆け足です。
2020/8/23 改稿
港で船を出してくれそうな商会を聞いた俺たちは、教えてもらった『カディオ商会』を目指して大通りから路地へと入った。
裏路地、というほどではないが大通りに比べると少々寂しい通りを進んで行くと、片隅に目的の建物が見えてきた。
「ここですね」
「ああ、聞いた住所とも一致している」
そこは裏通りの奥にある小ぢんまりとした木造の建物だった。
一応手入れはされている様だが、元々白く塗られていたであろう壁は所々禿げており、掛けられた看板も文字が掠れている上に微妙に傾いていた。
「……………」
「……………」
「と、とにかく中に入ってみませんか?」
顔を見合わせて微妙な顔をする俺とスギミヤさんに、エリーゼちゃんが慌てて中に入ることを提案する。
「そ、そうですね!中はきちんとしてるかもしれませんし!」
「そ、そうだな!」
その提案に俺たちも何とか気を取り直して扉の前に立った。「ギッ、ギッ」と音を立てる立て付けの悪い扉を開ける。
「っ!? ゴホッ!ゴホッ!」
扉を開けた瞬間、中から埃っぽい空気が出てきて咳き込む。慌てて腕で鼻と口を覆って後ろを見ると、スギミヤさんも同じようにしており、エリーゼちゃんに至っては涙目になっている。
埃っぽさが少しマシになるのを待って中の様子を窺うが薄暗くて人の気配がない。
再度後ろの2人を見るが、スギミヤさんはもちろん、さすがのエリーゼちゃんも困惑した表情を浮かべている。
正直に言えば既に帰りたい気持ちでいっぱいなのだが、そういう訳にもいかない。
「す、すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」
仕方なく先頭で中に入りつつ、恐る恐る呼び掛けてみる。
しーんとした店内(?)は正面にカウンターはあるものの商品などは全く見当たらない。
「すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかーっ!」
反応がないので今度は大きな声で奥に呼び掛けてみた。
やはり反応がない。仕方がないので出直そうとしたところ、
「へっ!?お客さんですかっ!?ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!すぐにっ!すぐに行きますからっ!!」
奥から女性のような高い慌てた声が聞こえた。俺たちは顔を見合わせてその場で少し待つことにする。
「わっ!」「えっ!?ちょっ…」「どうしてここにこんな…」等、ドカドカという音とともに奥からはそんな声が聞こえてくる。
暫くするとトタトタという足音が聞こえ、奥から小さな影が出てきた。
「大変お待たせしました!カディオ商会へようこそ!本日はどういったご用件でしょうか?」
そう言ってぺこりと頭を下げたのは灰色の髪をした少年だった。
歳はエリーゼちゃんより少し下くらいだろうか?
ふわふわとした灰色の髪と同じ灰色の瞳をしている。顔立ちもあどけなさが残っており、パッと見は少女に見えるかもしれない。
年齢的には声変わりしていてもおかしくはないが、その声はまだ子ども特有の高さがあり、より彼を幼く感じさせた。身長も恐らく140cmくらいで同年代だと少し小柄だろうか?
「仕事を頼みたいんですが、どなたかいらっしゃいませんか?」
「申し訳ありません。生憎今は僕しかおりません。」
お手伝いらしき少年は申し訳無さそう眉をハノ字しながら答える。
「留守にされているんですか?それなら戻ってくるまで待たせてもらってもいいですか?」
「いえ、待たれても…」
「今日は戻ってこないのですか?でしたら、また日を改めますのでお戻りの予定を教えてください」
「いえ、そういった訳でもなくてですね…」
「えっと…営業されてないって訳ではないですよね?」
「もちろんです!今は戦争で少し縮小してますがちゃんと営業してますよ!」
不安になって営業してるのか聞いてみたが、ちゃんと営業はしているらしい。
「えっと…では大人の方はいつ頃お戻りなんでしょうか?」
「???」
直接的に大人はいつ戻るか聞いてみたが、何故か不思議な顔をされた。
「いや、ですから君はお手伝いだよね?商人さんか責任者の人はいつ戻るの?」
会話が噛み合わないため、俺は敬語を使うのを止めて子供に言い聞かせるように言った。
「当商会には現在、僕以外の商人はおりませんが?」
「はい?」
少年の言葉の意味が分からず首を傾げる。隣ではスギミヤさんも首を傾げ、エリーゼちゃんは頭の上にはてなマークを浮かべている。
「申し遅れました。僕はカディオ商会代表のレオナール・カディオと申します」
「「「はあ…えぇぇぇぇっ!」」」
少年の一言を理解した瞬間、店内に俺たちの叫び後か響いた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「落ち着かれましたか?」
「ええ、ご迷惑をお掛けしました…」
少年―レオナールくんに促されて座ったソファで俺は出されたお茶を飲みながら答えた。
「いえ、僕のほうこそきちんと事情を話せば良かったんです」
そう言うと彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「えっと、君が代表だというのは分かったけど、なぜ君のような少年が代表なんだい?」
「亡くなった祖父から継いだんです。それと…僕23歳なんですけど…」
「「「えっ!?えぇぇぇぇぇぇぇっ!」」」
彼の衝撃的な発言に本日二度目の、先程よりも大きな俺たちの絶叫が再び店内に響いた。
「2、23歳ですかっ!?冗談、ですよね?」
「皆さんそう仰るんですけど、これでも学術都市のアカデミーを卒業してる正真正銘の23歳なんですよ!」
そう言ってレオナールくん、いや、レオナールさんは頬を膨らませる。その仕草は容姿と相俟って子供にしか見えない。
「……合法ショ「そこまでです!」」
俺が思わず口走りそうになった言葉をレオナールさんが遮る。
「コホン!それで皆さんは当商会にどういったご用件でしょうか?」
若干頬を赤らめながら一つ咳払いをすると、レオナールさんは改めて用件を聞いてきた。
「し、失礼しました。俺はノブヒト・ニシダと言います。こちらはレイジ・スギミヤさんとエリーゼちゃんです」
俺は慌てて自己紹介をして、隣に座る2人を紹介する。2人も慌てた様子で頭を下げる。
「俺たちはアーリシア大陸へ渡りたくて、港でこちらの商会が船を出していると聞いた訪ねてきたんです」
俺は事情を説明するとレオナールさんは難しい顔をした。
「アーリシア大陸ですか…確かにうちで船を出してはいますが今は難しいです…」
レオナールさんが申し訳さそうに言う。
「やはり大移動の影響ですか?」
「それもあるんですが、水は魔道具でなんとかなるんですが国内の物価が上がってまして航海の物資の調達が難しいんです…」
なるほど。食料など消耗品の用意が難しいのか。
「その物資というのは森などで直接確保することは出来ますか?」
「ある程度のランクの冒険者なら直接調達することは可能だと思いますが、今はどこも物資不足で冒険者にも依頼が殺到してまして…」
「実は俺とスギミヤさんはパールの冒険者でして、一応エメラルドへの昇格資格も持ってますので俺たちで物資を確保する、というのはどうでしょう?」
「ほ、本当ですかっ!?」
俺の提案にレオナールはテーブルに身を乗り出してきた。
「え、ええ。必要な物資の量と準備に必要な期間を教えていただければ」
俺は若干体を引きつつ必要な数と期間を確認する。
「船はすぐにでも用意出来ます。本当に物資の用意だけなんです」
「それでは必要な物資の量を教えてください。すぐに用意を始めますので!」
そこから数日、俺たちは森や海岸で食料になるクリーチャーを狩りまくり、1週間ほどで必要数を用意することが出来た。
「こんな短期間でこれだけの量を用意出来るとは…」
レオナールさんが絶句していた。
「それでは出港します!」
今、俺たちは船の上にいる。
いよいよアーリシア大陸へ向けて出発するのだ。アーリシア大陸までは約2週間、向こうでもカディオ商会に狩った物を買い取ってもらうことになっている。
「いよいよですね…」
エリーゼちゃんが緊張と決意の綯い交ぜになった様な顔をしている。
船がゆっくりと港を離れていく。
俺たちの期待と不安を乗せて船はフェルガント大陸を離れていった。
最後は少し駆け足となりましたが、これにて第2章は終了です。幕間を1話挟んで第3章となります。
よろしければ評価をポチポチっと頂けると作者の励みになります。
それでは第3章もよろしくお願いします!




