報酬
もう少し前フリが続きます。
2020/8/20 改稿
「何でも?」
「そう、何でも!富でも!名声でも!世界でもっ!そして、誰かを生き返らせること、でもね」
男は大袈裟に両手を広げ歌う様に高らかに言う。
そこで一旦言葉を切った男は、今度は声を抑えると「ただし」と付け加えた。
「例え外の世界から送り込むとしても勇者そのものを送り込むことは出来ないんだ。だから、君には勇者候補としてあちらの世界に行ってもらいたい」
「勇者候補?向こうで鍛えて本物の勇者になれってことか?」
格闘技や武術の経験がない人間にそれはハードルが高いのではないだろうか?すると男は首を横に振った。
「もちろん鍛えてもらうことにもなるとは思うけど、それとはまた別のことなんだ。
君はあの神社でメダルを拾ったよね?」
メダル?あの猫が咥えてたやつか?
「あのメダルは“勇者の欠片”と言って、まあ勇者の種みたいなものなんだ。僕は“勇者の欠片”を君を含めて13人のこちらの世界の人間に渡した。これはそうしないとあちらの世界が勇者を受け入れられないからだ。
そして―魔王を倒すためにはこの13の勇者の欠片を合わせる必要がある」
「つまりその13人の勇者候補って人たちと協力しろってことか?」
俺がそう言うと自称神は少し困ったような顔をした。
「うーん、それでもいいんだけど、僕が願いを叶えられるのは一人だけなんだよね」
えっ、それって…
「つまり13人で協力して魔王を倒しても願いを叶えてもらえるのはその中のたった一人ってことか!?」
「まあ、そうだね」
また困った顔でそう頷いた自称“神”だが、なぜかその顔は少し作り物めいて見えた。
空想としてはそれなりに作り込んだ設定だと思うが、話としては13人の勇者が協力したほうが英雄譚っぽいのではないだろうか。それともこういうのが最近の流行りなのか?
しかし、どちらにしても一人しか願いが叶わないのなら協力なんて出来ないだろう。そこのところを男に聞いてみると、男はさも当然のように「譲渡してもらうか奪えばいい」と言った。そして、こう付け加えたのだ。
「ああ、奪うって言うのは当然“殺す”ってことだよ?」




