黒騎士
ゲリラ更新
森の中で勇者候補と思われる少年が使役するクリーチャーに襲われた俺は、危ういところに現れた謎の黒い全身鎧の人物に助けられた。
いきなりのことで頭が追い付かない。
呆然とする俺に黒い鎧の人物が近付いてきた。
「大丈夫か?」
男の声で話し掛けられ、改めて黒い鎧の人物を見る。
兜で髪色は分からないが、キリッとした眉に切れ長の涼し気な目元に黒い瞳、鼻筋はスっと伸び、薄い唇をしたイケメンだった。
身長は俺より少し高い180cmくらいだろうか?
全身鎧のためはっきりとは分からないが、ガッチリというよりは引き締まった身体をしているようだ。
「え、ええ。痛っ!」
何とか答えたところで、右足の痛みを思い出し顔を顰める。
「これを使え。」
そう言って男性がポーションを渡してくれた。
「ありがとうございます。後でお返しします。」
「気にするな。」
俺は礼を言ってポーションを受け取り、後で返すと伝えると男性はそう答える。
有り難く受け取ったポーションを飲み干すと、足の痛みが引いた。
その様子を見て男性が話し掛けてくる。
「襲われていたようだから助けに入ったのだが、どういう状況だったんだ?」
そう男性に聞かれ、森の中で少年を見掛けたため、声を掛けたがよく分からないまま襲われたことを説明した。
もちろん勇者候補のことは伏せてある。
「そうか。」
と言ったきり男性は何事かと考え込んでいたが、俺が見ているのに気付いたのか、一旦考え事を切り上げた様子で自己紹介してきた。
「済まない。自己紹介がまだだったな。俺はレイジ・スギミヤ。連れと一緒に南のクロギア大陸からアーリシア大陸へ渡るためにやってきた。」
俺は男性の名前を聞いて驚いて思わず問いかけた。
「スギミヤさんは勇者候補ですか?」
俺の問い掛けにレイジ・スギミヤと名乗った彼は固まった。
「済まない。いきなりで驚いてしまった。その話はとりあえず街に戻ってからにしないか?」
固まっていたスギミヤさんがそう言ってきた。
確かにかなり日が傾いてきたので、このまま森の中にいるのは危険だ。
俺はその提案に頷く。
「じゃあ行こうか。えっと…」
俺は名乗っていないことに気付く。
「あっ、俺はノブヒト、ノブヒト・ニシダと言います。」
「ニシダだな。じゃあニシダ、とりあえず森を抜けよう。」
そう言って先に歩き出したスギミヤさんに続いて俺も歩き出した。
それから2時間ほど、辺りが薄暗くなる頃に俺たちは森を抜けた。
そのまま街に向け薄暗い道を会話もなく歩く。
恐らく2人目の勇者候補にして、始めてまともに話が通じそうな相手だ。
なんとかこちらの考えを理解してもらって協力してもらいたい。
先程の動き、全身鎧であれ程の動きが出来るのだ。この人はかなり強い。正直まともに戦って勝てるか分からないし、勝てたとしてもこちらもそれなりのダメージを覚悟する必要がある。
出来れば共闘、それが出来なくてもとりあえずお互いに不干渉というところには話を持っていきたい。
そんなことを考えながら俺たちはフォートブルクの街に戻ってきた。
フォートブルクの街は人口1万ほどの小さな街だ。
とは言え、大河の森に近い街ではあるので、それなりに冒険者がいる。
ウィルゲイド王国のウィーレストまでは馬車で5日程と近いが、森の生態系が多少異なり、こちらの森でしかいないクリーチャーもいるため、それなりに盛況だ。
街に入った俺たちはスギミヤさんの連れも一緒にということで、彼が泊まっている宿へ向かった。
そこは街の入口からほど近い宿でグレードの割に安全な宿だった。
宿に入ると少し待つように言われ、俺はカウンター脇の邪魔にならないところに立ち止まり、階段を上がっていくスギミヤさんの背中を目で追った。
姿が見えなくなったので、宿の中を見回す。
入口を入って左側が部屋に続く階段になっており、右側は食堂のようだ。
さすがに夕食時なので、人が多いようで騒がしい。
(ここで話をするのは難しそうだ)と騒がしい食堂の音を聞きながら、彼が降りてくるのを待つ。
しばらく待つと階段のほうから足音が聞こえてきた。
そう言えば先程は気付かなかったが、あれだけの全身鎧を身に付けていながら、彼が移動するときには殆ど金属が擦れる音がしない。
余程身のこなしが優れているのか、それとも鎧が優れているののかまでは判別出来ないが…。
そうして降りてきた彼の後ろには小さな女の子がついてきていた。
女の子は歳は12、3歳ほど、緩くウェーブした金髪に優しげな蒼い瞳をしていた。顔立ちは歳相応の幼さが残るが、将来は美人になるだろうと思われる整った顔をしている。
身長は150cmないくらいだろうか?
お世辞にも発育がいいとは言えない身体に白と青を基調にした修道女のようなローブを纏っている。
そんな彼女は俺のほうをじっと観ると、少し微笑んでぺこり、と擬音が付きそうな感じで頭を下げてくる。
俺も軽く頭を下げ返したところで、少女の横にいたスギミヤさんが話し掛けてくる。
「済まない。待たせた。彼女の紹介は後にして、どこか静かに話せるところに行きたいが、どこか知らないか?」
と聞いてきた。詳しく聞くと2人はこの街に来てまだ2日程で、あまり街の施設について詳しくないと言う。
俺は何軒か知ってる店を思い浮かべるが、時間帯が悪くいい場所が思い付かない。
「すみません。今の時間帯だとどこもこんな感じですしギルドの個室を借りるくらいしか…」
ギルドでは依頼人との打ち合わせのため、個室の貸し出しをしている。
この街のギルドにも広くはないが打ち合わせ用の個室があったはずだ。
「うむ、ギルドか…」
スギミヤさんはそう言うと少し考え込んだ。
確かにギルドの個室に冒険者だけで入るのは、ないとは言わないが目立つ。
ましてや少女連れである。いかがわしい噂が立つわけではないが、それでも小さな街なので、すぐに噂になってしまうだろう。
俺たちが悩んでいると少女がスギミヤさんの腰の辺りを叩いた。
スギミヤさんが少女を見る。
「レイジさん、とりあえず今日のところは食事にしませんか?詳しいことは明日改めてということでどうでしょう?」
そう少女がスギミヤさんに提案する。
確かに早く話を聞きたいのは確かだが、人の多いところで話すのも憚らられる。
それにあの戦闘でかなり空腹なのも事実だ。
スギミヤさんがこちらを見るので了承したと頷く。
「どこかいい店はあるか?」と聞かれたので、俺が知っている安くて美味い食堂へ案内することにして、俺たちは連れ立って宿を出たのだった。
次回更新は0時頃の予定です。




