冴えない男
続けて投稿です。
2020/8/20 改稿
「くっ!」
いつからいた?
先ほどまだこの空間には自分しかいなかったはずなのに。こいつが誘拐犯か?一気に汗が吹き出す。
男は身長が180cmくらいのひょろ長い体型で、ボサボサの黒髪にメガネ、くたびれたシャツに弛めた黒のネクタイをしてその上からヨレヨレの白衣を羽織り、白衣のポケットに手を突っ込んでいる。
疲れたどこかの研究員といった風貌なのだが、薄暗い部屋なのにレンズが反射して瞳はよく見えない。
「あ、あんた、誰だっ?こ、ここはどこなんだっ?」
とにかく何でもいいから情報を聞き出さないといけないと思い、警戒しつつ男に投げ掛けてみた。
「まあまあ、少し落ち着いてよ。西田 信人君」
男は苦笑しながらもう一度俺の名前を呼んだ。
名前が知られているということは人違いなどではなく、俺を狙って拉致したということか?一気に警戒度が上がり身構える。
「そう構えないでくれたまえ。僕は君に危害を加えるつもりはないよ」
男は白衣のポケットから手を出し、安心させるようにホールドアップして両手を上げてひらひらと振ってみせた。
「あんた一体何が目的だ!」
俺は警戒したまま強い口調で男に問う。
少し右足を後ろに下げて姿勢を低くして、男に何か不審な動きがあればすぐに動けるように構える。
「そんなに構えなくてもいいんだけどなぁ」
男はまた苦笑いしながら頬掻く。
「僕は君たちが言うところの“神”ってやつだ。まあ君たちが住むこの世界の“神”ではないんだけど」
「神?」
研究のし過ぎだろうか?理系も行き過ぎると宗教にハマる人とかいるし。
「今日は“神”として君にお願いしたいことがあって、失礼ながらこんな場所に君を招待させてもらった」
「神様が人間にお願い?人体実験のモルモットにでもなれってか?」
自分を“神”言うどう見ても人間の、しかもマッドっぽい危なそうな男、刺激しては不味いと思いつつ苛立った口調で返してしまう。
「信じられないとは思うんだけど、僕が管理する世界で勇者として魔王を倒してくれないか?」
男は気を悪くした様子もなく、しかし、真面目な顔で意味のわからないことを言ってきた。