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意外な一面

久々のほのぼの回です!




2020/9/11 改稿

「じゃあお2人は大移動(スタンピード)の原因と戦ったんですかっ!?」


 俺の話にレオナールさんが驚きの声を上げて身を乗り出す。身長が足りないからか、椅子の上に立ち上がってテーブルに乗ってしまっている。


 あれからもエリーゼちゃんは泣き続け、やがて泣き疲れて眠ってしまった。「気丈に振舞ってはいましたがやはり不安だったのでしょう」とレオナールさんが言っていたとおり、知らない土地で頼りにしていた人がいなくなるというはかなり心細かっただろう。


 そんな彼女をスギミヤさんが部屋へと運んでいった。彼が降りてくるのを待って俺たちは食堂へ移動した。そこで森へ入ってからのことを説明していたのだが、俺たちが変異種らしきクリーチャーと戦ったという話を聞いてレオナールさんが驚愕した、という訳だ。


「え、ええ、まあ…」


 俺はその反応にやや気まずく返事をする。隣に座るスギミヤさんは先ほどから「我関せず」といった様子で口を開かない。


 彼がそこまで驚くのも当然ではある。実際俺たちのように少数で変異種に挑むことはほぼないだろう。変異種とは通常のクリーチャーとは異なる強力な個体である。発生原因には諸説あり正確なところは分かっていないが、通常、その存在が確認されればギルドから複数の高ランク冒険者へ討伐の依頼が出される。


 これが大移動(スタンピード)ともなれば、他の大陸であれば国が対処する様な事態なのだ。国が存在しないアーリア大陸でも、普段は争うことが多い獣人たちがこのときばかりは種族に関係なく共闘して対処する、それほどまでに“ヤバイ存在”なのだ。


 そんな存在にたった2人で挑んだと聞けば驚くのは当然だし、下手をすれば功名心に逸るバカか自殺願望のある奴と思われても仕方がない。


(はは。俺もそんなのの仲間入りか…)


 俺が現実逃避気味に考えていると、レオナールさんはようやく落ち着いたのか「す、すみません!取り乱しました…」と言って恥ずかしそうに顔を赤らめて椅子に座り直した。


「コホンッ。え、ええと…それにしても本当によく無事でしたね」


 彼はよほど恥ずかしかったのかわざとらしく咳払いをすると、話を逸らすように何度目かになる言葉を口にした。ただ、さすがに今の話を聞いたからか今まで以上に実感がこもっている気がする。


「まあ実際は死にかけたんですけど…」


 俺は気まずさから小声で言うと視線をわずかに逸らす。


「…ええと、それでお2人は今までどこにいたんですか?さすがにずっと森で戦っていたという訳ではないんですよね?」


 俺の様子をどう思ったのか、レオナールさんはすぐに次の話題に移ってくれた。


「もちろんです。実はですね―」


 俺もそれに合わせるように、たまたま調査に来ていた猫耳族に助けられて彼らの野営地で療養していたことを説明する。


「猫耳族ですか…。獣人が普人(オーパス)を野営地に招くなんて珍しいですね」


「え、ええ、まあ、本当にたまたまだったのでしょう!」


 レオナールさんの口にした当然の疑問に俺はやや早口で答えた。正直ユキのことを話していいのか分からない。話したとして「何故その人は獣人と一緒にいるのか?」なんて聞かれても困るのだ。


 俺が猫耳族についてどこまで話すかと考えていると、『ぐぅぅぅぅぅ』という音が食堂に響いた。


「へっ?」


 思わず間抜けな声が出る。思わず隣を見ると、珍しいことにいつもクールな表情のスギミヤさんが気まずげな顔で「す、すまん…」と言って顔を伏せた。


「そういえば野営地を出てから何も食べてませんでしたね」


 報告やら再会やらで忘れていたが俺も自分が空腹であることを思い出した。


「そんなことだと思ったから、ほれ、用意したぞ!」


 ちょうどその時、厨房からアンットさんが出てきた。手にはたくさんの皿を抱えている。


「ありがとうございます!ってこんなにですかっ!?」


 礼を言った俺はテーブルに次々と並べられた皿を見て驚く。煮込み料理に焼き料理、蒸し料理や揚げ物に近いものまで、そこには近海で採れた魚や森で採れた肉や野菜がふんだんに使われた料理の数々が所狭しと並べられていた。


「俺からお前たちの帰還祝いだ!遠慮せず存分に食えっ!」


 アンットさんは「まだまだあるからなっ!」と言うと、ガッハッハッと笑いながら厨房へと戻っていった。


「……」


「……」


 俺とスギミヤさんは顔を見合わせる。


「「いただきますっ!」」


 俺たちはどちらからともなく手を合わせると、勢いよく食べ始めたのだった。




 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

「ふぅ~。食った、食った」


「さすがに食い過ぎたな」


 食事を終えた俺たちは腹をさすっていた。あれだけあったお皿の上には今や欠片一つ残っていない。


「うっぷ…お2人は明日からどうするんですか?」


 俺たちと一緒に食事したレオナールさんがやや苦しそうにしながら聞いてきた。


「うーん、どうすると言ってもギルドからの処分が決まるまでは動けませんしね…。俺は調べ物でしょうか」


「調べ物?ああ、例の閉ざしの森についてですか?」


「それもあるんですけど、ちょっと他に調べたいことが出来まして…」


「他に?何か力になれることがあるなら協力しますが?」


 言葉を濁す俺にレオナールさんがそう申し出てくれる。


「いえ、とりあえずギルドで資料を見せてもらえることになってるので。もし何かあれば改めてご相談しますよ」


「ええ、いつでも仰ってください」


 俺の返事に特に気にした様子もなくレオナールさんはそう言ってくれた。


(隠し事ばかり増えていくな…)


 心の中で溜息を吐く。


 俺はあの変異種に食われたかもしれない勇者候補について調べるつもりだった。ただ、名前も性別も容姿も分からない人物について調べるため、「何故探しているのか?」と聞かれても理由を答えることが出来ない。せめてもう少し相手のことが分かっていれば商人のネットワークなどを借りることも出来るだろうが今はまだ無理だ。


「スギミヤさんはどうされるんですか?」


 俺が心苦しく思っている間にレオナールさんはスギミヤさんにも同じ質問をしていた。


「いや、俺もニシダと一緒に調べ物をしようと思っているが?」


 スギミヤさんはそう言って俺の方を見る。


「いや、スギミヤさんは他にやることがあるでしょ?」


「やること?いや、他には特に予定はないと思うが…?」


「「はぁぁぁぁぁ」」


 何のことか全く分からないという様子のスギミヤさんに、顔を見合わせた俺とレオナールさんが同時に溜息を吐く。どうしてこの人は…


 俺が呆れていると同じような顔をしていたレオナールさんが「あのですね!」と言って話し始めた。


「いいですか、スギミヤさん。今日のエリーゼさんの様子を見てどう思いました?」


「い、いや、その、心配させた…と、思う…」


 レオナールさんに今までにないジトッとした目で見られたスギミヤさんが困惑した様子で言う。


「それなら明日はエリーゼさんと過ごしてあげてください!!」


 どうにもよく分かっていなさそうなスギミヤさんの様子にレオナールさんの声が大きくなる。


「い、いや、それならニシダだって…」


 スギミヤさんはレオナールさんの剣幕にややたじろぎながらもそう言って俺を見てきた。


「スギミヤさん…」


 レオナールさんはスギミヤさんの反応に呆れを通り越し、もはや憐れむ様な視線を向けた。さすがに居た堪れなくなってきた。


「スギミヤさん、確かに俺も心配を掛けたと思いますが彼女は俺よりもスギミヤさんの方がもっと心配だったと思いますよ?」


 俺の言葉にスギミヤさんは「そんなことはないと思うが…」と首を捻る。さすがにこれはない。


「当たり前じゃないですかっ!だいたい俺は成り行きで一緒に旅してるだけで、元々はスギミヤさんとエリーゼちゃんの2人の旅でしょうっ!!」


 どうにもよく分からないといった彼の様子についつい俺も声が大きくなる。


「はぁー。いいですか。彼女にとってはきっとスギミヤさんはお兄ちゃんみたいなものだと思うんです。家族に近いと思うんです。それに今までこんなに離れたことはなかったでしょ?」


「それは、まあ…」


 一つ息を吐いて気持ちを落ち着けると俺は諭すように言う。スギミヤさんはやや煮え切らないまでも俺の言葉に納得出来る部分もあったのか、とりあえずは同意する様に頷いた。


「だったら、せめて明日は一緒にいてあげてください。なんなら2人で買い物にでも行ってくればいいじゃないですか」


 俺がそう言うと正面に座るレオナールさんも納得するように何度も頷いている。


「そ、それもそうだな。分かった。明日は1日エリーと過ごすことにしよう」


 俺たちに押されたところはあるもののスギミヤさんはそう言って頷いた。


(案外鈍感なんだなぁ)


 俺はその様子に意外なものを見た気がして心の中で呟いた。

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