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再会を誓って

2020/9/6 改稿

「今回は突然のワガママにお付き合い頂いてありがとうございました!」


 改めて集まった俺たちに真っ先に口を開いたユキがものすごい勢いで頭を下げてきた。


「えっ、いや、そんな、別に構いませんから!ねぇ?スギミヤさん?」


「ああ、とくに問題ない」


 慌ててスギミヤさんに話を振ると彼も同意して頷く。そんな俺たちに彼女は改めて「ありがとうございます」と言って頭を下げた。


「本当に大丈夫だ。それより何故いきなり手合わせなんて言い出したんだ?」


「あ、その、一度くらいは勇者候補の方と立ち会ってみたかったんです」


 頭を下げる彼女を気にした様子もなく訊ねるスギミヤさんに、彼女はそう返したのだが、目がやや逸らされている。恐らく俺たちには教えられない彼女なりの事情があるのだろう。


(悪いことではないと思うけど…)


 昨日聞いた彼女の言葉を信じるのであれば彼女に勇者候補を続ける意思はない。どういう意図があったにせよ、そんな彼女の行動が俺たちの不利益になる可能性は低いと思う。


「そんなことより!お2人に少しお話してもいいですか?」


 俺がそんなことを考えていると彼女は少し強引に話を変えてきた。


「伺います」


 俺はスギミヤさんと顔を見合わせると彼が小さく頷くのを確認して聞く姿勢を取る。


「ありがとうございます。では、まずスギミヤさん」


「なんだ?」


 彼女はスギミヤさんの方へ向き直ると彼に話し始めた。


「スギミヤさんは騎士(ナイト)というジョブを上手く使いこなせていると思います。ジョブの立ち回り方をよく理解しているし意表を突くような攻撃にも臨機応変に対応出来てました。ですが―」


 彼女はそこで一度言葉を切ってスギミヤさんを見つめた。


「ですが?」


 しかし、スギミヤさんはその意図が分からないようで首を傾げる。


「少しジョブに頼り過ぎていると感じました」


「どういう意味だ?」


「スギミヤさんの動きはまさに騎士(・・) ()()()()です。これは安定感はある反面、対峙する相手からすれば動きの予測も付けやすいんです。あくまでジョブは補助と考えてもっと自力を付けるべきだと思います」


「うむ…」


 彼女の言葉にスギミヤさんは考え込んでしまった。


「続いてニシダさん」


 俺がスギミヤさん様子を窺っていると彼女は俺へと視線を向けてきた。


「は、はい」


 すっかり意識がスギミヤさんに向いていた俺は慌てて返事をする。やや声が上擦ってしまった…


「すみません。聞きそびれていたんですが、ニシダさんのジョブはなんでしょう?」


 彼女に言われて俺は自分のジョブについて説明した。すると彼女は「なるほど」と呟くと少し考え込むような仕草を見せた。


「えっと…、クノウさん?」


 俺は考え込む彼女に恐る恐ると言った感じで声を掛ける。


「あっ!失礼しました。どうお話するか少し考えていました。ええと、それではニシダさん」


「はい」


 改めてこちらを向く彼女に俺は居住まいを正す。


「最初に伺いますが、ニシダさんはどうして私と剣で戦ったのでしょう?」


「へっ?」


 予想外の質問に思わず間の抜けた声が出た。改めてそう聞かれるとどう答えていいか分からない。「手合わせ」と言われて、相手が剣だからなんとなく自分も剣で戦わないといけないような気がした、というのが理由と言えば理由だろうか?


「とくに深い考えがあった訳では無さそうですね」


 俺が困惑しているのを見て取ったのか、彼女がそんな風に言ってきた。


「は、はい…」


 俺はなんだか恥ずかしくなって小さな声で答える。その様子に「あっ!別に責めてる訳じゃないんです!」と彼女は慌てて言葉を重ねる。


「ただ、私がニシダさんの立場なら少なくとも最初に剣は選びません」


「えっと、それはどういう?」


 彼女の言葉の意味が分からず、更に俺は困惑する。そんな俺に、彼女は「私の生い立ちやジョブはお話しましたよね?」と言うので頷いて同意する。


「剣士を相手に剣の間合いで勝負する、それって無謀なことだと思いませんか?」


「それは…」


 彼女にそう言われて俺は言葉が出なかった。


 確かに俺は「手合わせ」と言われて軽く考えていた。なんなら「自分の実力を試してやろう」くらいに考えていたかもしれない。だが、これが実践ならどうだろうか?彼女に首元に剣を突き付けられた時点で俺の首は胴体から離れていたことだろう。


 その想像に俺はぶるりと身震いをする。つい先日死にかけたばかりなのだ。それなのに戦いを甘くみていた。そんな自分に愕然とする。彼女は話を続ける。


「もしかすると最初は手の内を明かさないため剣を抜くかもしれませんが、私なら最初から銃を使います。普通に考えれば剣士の間合いの外で戦えますから。それに―」


 そう言って彼女は視線を俺の太ももに付けられた投擲用のナイフへ落とす。


「弾幕の中に混ぜてそのナイフを投擲したかもしれません。そうして隙を見つけたら一気に懐へ入ります。ニシダさんは体術も出来ますよね?」


 どうやら立ち合いの際に見た俺の動きからそこまで分かってしまうらしい。俺は黙って頷く。


「剣は―いえ、剣以外もですが多くの武器は懐に入られると咄嗟に攻撃することが難しくなります。もちろん分かっているのでそういった場合の対策はしていますが、有効な手段であることは変わりありません。なのでニシダさんはスギミヤさんとは逆にもっとジョブを使いこなせるようになった方が選択肢も広がって有利に立ち回れるようになるはずです」


 彼女の話を聞きながら、俺は昨日彼女に聞いた話を思い出した。剣を抜くことの覚悟と責任―彼女にあって俺に足りないもの、俺はそれを改めて自覚した。


「お2人はこれからも勇者候補を続けるんですか?」


 考え込む俺とスギミヤさんに彼女が真剣な表情で聞いてきた。


「もちろんだ」


「俺は…今はそのつもりです」


 即座に頷いたスギミヤさんに対し、俺はやや悩みながら答える。ユキはそんな俺たちの答えに頷くと、「でしたら―」と言って続ける。


「お2人には対人戦闘の経験が足りていないように感じます」


 彼女の言葉に俺とスギミヤさんは押し黙る。確かに俺たちの対人戦闘経験は少ない。勇者候補とは2人ほど対峙したがあれを『戦闘』と呼べるかは疑問だし、あるとすれば野盗や冒険者崩れとの捕り物くらいだろう。俺が考えている間にも彼女の話は進む。


「もちろん並みのクリーチャーを相手に後れを取ることはないでしょう。ですが、対人戦闘ではクリーチャーとの戦闘にはない要素として『駆け引き』が加わります。先ほどニシダさんにお話したこととも重なりますが、対人戦闘では相手が常に正々堂々こちらと同じ条件で戦ってくれるとは限りません。私よりも手練れがいたり、騙まし討ちのような狡猾な手段を使ってくる相手もいるかもしれません。対人戦闘の経験を積むのはなかなか難しいと思いますが、お2人なら対応出来るはずです」


 彼女は最後に祈る様に言うと話を締め括った。対人戦闘――俺はその言葉の重さに、改めて自分が巻き込まれている事態の重大さを実感せずにはいられなかった…





■□■□■□■□■□■□■□■□

「今回は本当にありがとうございました」


 猫耳族の野営地の外、集まった一人一人に俺は深々と頭を下げた。胸の傷も癒えたため相談した俺たちは今日ハルヴォニへと帰ることにしたのだ。


「ほ、本当にもう気にしないでください!」


「そうだよー!」


 頭を下げる俺にユキとミアが対照的な反応をする。


「それで2人はどうするのー?」


 俺が顔を上げるとミアが聞いてきた。俺はちらりとスギミヤさんを見る。彼は俺にしか分からないくらい小さく頷いた。


(ある程度事情を話すのはOKってことか)


「一旦は仲間の待つハルヴォニに帰ります。大移動(スタンピード)が治まった後は北の大森林へ行ってみる予定ですね」


 スギミヤさんの許可が出たので、俺は簡単にこれからの自分たちの行動を伝える。


「私たちはもう暫くここにいると思うけど、北の大森林に行くときはうちの村に寄ればいいよ!」


「えっ!?いいんですかっ!?」


 俺は彼女の言葉に驚く。獣人種はあまり俺たち普人(オーパス)と関わらないイメージがあったからだ。実際彼女と話したときもそんな話をしたような気がする。そんな俺に彼女は「いいの!いいの!」と軽く言う。


「2人なら歓迎だよー!内陸は普人(オーパス)の街もないから大変だしねぇ!」


 彼女の言葉を聞きながら周りを見回せば、他の猫耳族の人たちも頷いている。


「っ!!ありがとうございますっ!!」


 俺は彼らの反応に嬉しくなってもう一度勢いよく頭を下げた。そうしてそれぞれと別れを済ませた俺たちは野営地を後にした。

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