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ー3話ー彼女のイメチェンPart1

遅れてしまいまして申し訳ないです。

彼女が死んでから2日後。

今彼女は僕の部屋にいる。そして僕の目の前で星座をしている。ちなみに僕も正座をしている。

これは長年の彼女との付き合いで自然と身に付いた話し合いの時の姿勢である。小学校高学年からだろうか。いつの間にか話し合いをする時、特に重要な話し合いをする時はこの姿勢になっていた。まぁ今している話が今までで1番重要なのだが。

「えーと…紗季…なんだよね。もちろん…」

「うん…私だよ。でも…なんなんだろ…」

彼女の告別式から帰ると彼女は家にいた。なんだよこの漫画みたいな展開。嬉しいけどなんだか複雑である。この2日間散々泣いてたのに彼女がいるとなるとそれが恥ずかしく思えてしまう。しかし仕方ない。なんせ彼女は2日前に死んだはずなのだ。くどいかもしれないがもう一度言わせて欲しい。"彼女は2日前に死んだ"はずなのだ。その彼女が家にいるのだ。喜ばしいが複雑な気持ちになっても仕方ない。そう。仕方ない。

「とりあえず…状況整理した方がよさそうだね」

「そうだね」

疾斗はここ2日間の予定を紗季に話し、紗季からもこの2日間のことを聞いて状況を整理することにした。そうでもしないと頭が追いつかない。現時点で既に追いついていないが。

「じゃあまずはあの日から行こうか」

「私が死んだ日だね…」

「あの日…電車に轢かれた後どうなったの?」

紗季はスゥと息を吸って当時の状況を話し始めた。

「轢かれた後私は自分のことを空から見ていたの。バラバラになった自分をね」

「あれだね、死んだら自分のことをどっかから見ることになるみたいなやつ」

「多分それだよね。それで『あ、本当に死んだんだ』って思ったんだよ」

「あの時、自分の…その…姿を見てどう思った?」

正直これは聞くべきことではない気もする。なんせバラバラになった自分を見たんだ。辛いなんかで済むような気持ちな訳がない。けどこれは紗季にこれから接する上でも必要な気がするのだ。だから聞いて受け止める。彼氏として。

「……」

「嫌なら無理に話さなくてもいいよ…?」

「大丈夫…話すよ。私はあの時…自分のことは正直ほとんど見てなかったの」

「ほへ?」

予想外の答えが返ってきたので変な返事をしてしまった。あの騒ぎの中でまず自分がどうなったか気にならなかったのだろうか?

「何でというか自分が気にならなかったの?」

「もちろん気になったけど…それよりも疾斗の方が気になっちゃって」

「俺が…?」

普通なら自分のことを気にしてパニックになるもんじゃないのか?僕ならそうなる。確実に。断言できるよ。神に誓って。

なんて脳内で自分だったらと考えていると紗季は理由を話し始めた。

「なんでかって言うとね、疾斗って昔から私がいないと何も出来なかったじゃない?」

グサっ!っと胸に言葉という矢が飛んできた。

「い、いやー…そんなことないよね?…ね?」

紗季は動揺する僕を見てクスッと笑って話を続けた。

「最近はどっちかというとそんなことはないんだけどね。でも昔はそうだった。ずっと1人で何かを抱え込んでは陰で泣いてたよね」

「そ、そうだっけ〜?」

思い出したくない嫌な頃の記憶に限って覚えられているというのは中々恥ずかしい。しかもその頃は1番忘れて欲しい記憶ランキング生きてきた16年で堂々の第一位なのに。

「それでね、疾斗はずーっと部屋で篭ってゲームしたりしてたよね。あの頃私は『なんでこの子外でみんなと遊ばないんだろう?』って疑問に思ってたの」

「えーと確か親が昔の同級生でちょくちょく交流があったから僕のこと知ってたってこと?」

「うん、そう。それである日こんな質問したの覚えてる?」

「質問?」

はて、そんなことあっただろうか?というかあったとしてもその頃の記憶は脳の奥深くにしまっている。だから思い出せない。思い出したら嫌な記憶も蘇るからね。

「私は『君は私をどう思う?』って聞いたの。なんでそんなこと聞いたのかは分からないけどね」

「へ?そんなことあったっけ?」

そんなピュアな質問されてたのか僕。しかしそれはそれで何て答えたのか気になるな。あの頃別に紗季を恋愛対象としてはもちろん見てないし。何て答えたんだろう?

「で、僕何て答えたの?」

「疾斗はね『君の笑顔を見るたびに思うんだ。そんなに愛想笑いばかり浮かべて楽しいのかなって』って答えたんだよ」

「うわっ」

うーーーーーーーわっ。なんと恥ずかしい答えを送ってるんだよ昔の僕。気持ち悪いよ。

「なんか気持ち悪くない?」

「ううん。そんなことないよ。私はその言葉にとても救われたんだから」

そんな恥ずかしいセリフで僕はいつのまにか紗季を救っていたようだ。もちろん心当たりはない。

「私ねあの頃は特になんだけど友達とかといる時に愛想笑いするのが嫌いだったの。周りに悟られないように頑張って取り繕ってたんだけど疾斗はそれをすぐに見破ったの」

「僕ってそんなに洞察力に優れてたっけ?」

「昔は特に凄かったよ。今も頑張れば色々見えてくるんじゃない?」

ほう。洞察力か。少し鍛えてみるのもいいかもしれないな。あとで検索しよう。

「で、何でその言葉に救われたの?」

「私の外面に貼り付けた薄っぺらいマスクを剥がしてくれたの。それで私は今までよりもちゃんと友達と接するようになれたの。それで今の私があるんだよ」

「僕が紗季を助けた…?」

「それだけじゃないよ。疾斗は自分じゃ気付いてないだけで私を何回も何回も助けてくれてるよ」

紗季は僕を見てニッコリと微笑んだ。

「今の私がどんな状態にあっても私はずっと疾斗の側にいるからね」

紗季の笑顔を見てまた涙が溢れた。でもそれはここ数日流していた涙じゃない。嬉しいから泣いているんだ。紗季がいるから泣いているんだ。

涙を拭って紗季を見ると紗季も同じように涙を溢していた。その顔は今まで見た中で1番輝いている笑顔だった。


「さて、ここからはこれからについて話そう」

「そうだね。私って世間では死んだってことになってるんだもんね」

そう。紗季はすでに死んだことになっている。そこそこ話題にもなっている。もしも外を歩いていたら大騒ぎになってしまう。

「ということで僕はバレないためにとある事を考えました」

「何々?」

「イメチェンしよう!」

「…イメチェン?」

そう。イメチェンである。言い方が悪いかもしれないが簡単に言えばイメチェンである。まぁ変装である。多分その呼び方が1番適しているのかもしれない。

「街で僕と歩いてたりしたら大騒ぎになるだろ?だからイメチェンするんだ」

「…具体的には?」

「基本は髪を中心に変えるつもり」

紗季のこの綺麗な茶髪が印象的である。なので1番手っ取り早く変えやすい髪を変えようと思ったのだ。

「まずは髪を染めようと思うんだけど?」

「それなら簡単でいいかも…私何色が似合うかな?」

「んー…無難に黒とかはどう?あんまり派手な色でもジロジロ見られるし」

「そうね…よし!黒で行こう!」

紗季の黒髪…はっ、いかんいかん。想像したら止まらなくなってしまう。どうせこの後見れるんだからそれまでのお楽しみだ。

「じゃあ僕買ってくるね」

「ちょっと待って」

「ん?どうしたの?」

「今私たちは他の人に認識される前提で話してたけど本当に他の人に認識されるのかなって」

あ、確かにそれは考えてなかった。僕が認識していたから他の人も見えると思い込んでいた。

「確かにそうだね…でももしそのまんまで外に出て認識されても危ないし色々してからにしない?」

紗季は少し考えて頷いた。

「そうね。私の考え不足だったわ。じゃあ黒の髪染めるのお願いね」

「任しといて!」

僕は紗季を背に薬局へと出かけた。幸い近所の薬局は髪染め用の塗料をたくさん売っていた。僕は駆け足で薬局へと向かった。


ー30分後

僕は家に戻り部屋へと駆け上がった。部屋のドアを開けると紗季はベッドで寝ていた。寝顔も可愛いので起こすのも気が引けたが仕方ない。

「紗季ー。戻ったよー」

紗季の肩を触って体を揺すると紗季は「んー」と言ってムクっと起き上がった。

「あーお帰りー。あった?」

「うん。あったよ。……ちょっと待って。僕今紗季に触れた…」

「…?普通じゃない?」

「いや、だって紗季は死んでるんだよ。複雑なんだけどさ」

紗季もそこでハッとした。どうやら気付いたようだ。

「ほんとだ…私に触れるってことは…周りに認識されてもおかしくないよね?」

「うん…でも良かった。紗季に触れないなんて辛すぎるから」

「な、何よ!?エッチなことでも考えてるの!?」

紗季は顔を赤らめて後ろへ後退りした。

「なっ!違うよ!紗季とどっか行く時に手を繋げなくなったりするだろ!そういうことだよ!」

紗季は「そういうことね」と言って胸を撫で下ろした。

「さて、髪を染めようか」

「そうね。始めましょう」

作業は淡々と進んでいった。作業している間僕らは他愛もない普段するような会話をして楽しんだ。そんなことをしていると本当に紗季が蘇ったんだと実感してまた涙が出そうになったというのは言うまでもないだろう。


「ほい、完成!と」

「ありがとう。鏡は確か廊下の突き当たりにあったわよね?」

「うん。どうぞ見てきて」

紗季は部屋を出て鏡を見に行った。どんな反応するか楽しみだ。

…おかしい。もう姿を見ていてもおかしくはないはずなのだが。どうしたのだろう。

部屋を出て紗季を見て見ると鏡の前でじっと自分の姿を見ていた。

「紗季、どうしたの?」

紗季の肩をポンポンと軽く叩くと紗季は僕の方を向いて小さく呟いた。

「私って黒似合うのかな…」

どうやら初めて見た自分の黒髪に違和感を感じているのか鏡の前で固まっていた。

「大丈夫だよ!似合ってるよ!」

必死に励ましてはみるものの紗季は固まって動かなかった。まるで石になったようだ。

「とりあえず部屋に戻ろう。心配しなくても似合ってるから」

紗季はコクリと一回頷いたがやはり動かなかったので僕が手を引いて部屋へと連れて行った。

こんなんでこれから先大丈夫なのだろうか。と不安の念を隠せなかったのは言うまでもないだろう。


ー続ー

次回はもう少し早めに出すつもりです。どうぞお楽しみに

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