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ー1話ー彼女が死んだ

1話からヒロインが死にます。暗い話にするつもりはないのでこれからよろしくお願いします。

みんなはこんな言葉を聞いたことがあるだろうか?

"死んでも心の中でその人は生き続ける"と。

もちろんこの言葉に僕は共感している。否定する理由もない。だけどどうだろう?心の中ではなく現実世界で本当に死人が生きていたら。

もちろんこんなことありえない話である。だから考えもしなかった。あの日、彼女を失うまでは…。



ー3日前ー

疾斗(はやと)、いい加減起きなさい!」

扉の前からドアをコンコン何回もノックする音と母親の声が耳に響いてくる。

寝起きの仕方としては中々悪いものではある。

昨日仕事で上司に理不尽に怒られた母親はいつもと違ってイライラしており言葉にトゲのある言い方だった。いつもなら「そろそろ起きなさーい」と柔らかく呼びかける母親がドアをコンコンどころかほぼ殴るレベルに叩いている。

息子の部屋のドアをストレス発散の道具にしないでいただきたい。

「すぐ行くよー…」

眠気まなこをこすり、まだ起き上がりたくないと言うことを聞かない体が睡魔を改めて襲わせる。

しかし"あいつ"との待ち合わせまで残り15分しかない。家のすぐ前で待ち合わせるとはいえ中々ピンチな時間ではある。

こうしちゃいられない。急いで布団を引っ剥がし、ベッドのすぐ近くにおいている洋服掛けからカッターシャツ、制服のズボンを取り出してパジャマをポイと脱ぎ捨てて急いで着替えた。夏になったばかりとはいえ朝はすでに暑い。

時計を見るとすでに五分が経過していた。

「やべっ急がないと遅れる!」

なんせ昨日は遅くまで起きてアニメのリアタイ視聴していたので今日の授業の用意すらしていない。

急いで床に散らばっている教科書を拾い集めリュックに詰め込んだ。忘れ物してるかもしれないが最悪誰かに借りればいい。そうして用意やらしている間に残り五分に迫っていた。朝食を食べている暇は無い。

一階へ急いで駆け下り食卓に入るとすでに冷めてきている食パンが置いてあった。そのパンを咥えたまま玄関で靴を履き「行ってきまーす」と気怠げに母親に声をかけドアを開けた。

ドアを開けると門の向こう側に"あいつ"はいた。

「よっ、えらく焦った様子でどーしたの?」

と彼女は笑って僕に声をかける。

綺麗な茶髪をしたスタイルの良い色白の女性が立っていた。

彼女は幼なじみであり、同級生であり、僕の彼女である赤浜(あかはま) 紗季(さき)だ。

顔は学年トップレベルに美人で成績も運動神経もよいまさに容姿端麗を現実に表したような人だった。

(胸が少々寂しいというのは置いておこう)

こんな何の取り柄もない僕にはもったいないほどの相手だが付き合ってくれた。

そうあれは2ヶ月前の紗季の誕生日のことだった。


幼なじみで家もすぐ近くだった僕は毎年紗季の誕生日は彼女の家に行って祝うようにしていた。

しかし今年は誕生日だけではなく僕にはもう一つ目的があった。そう。彼女に告白することだ。

昔はそれほど恋愛対象として意識したことはなかったがここ1年程で急に意識し始めていた。

幸い彼女に彼氏はおらずファンクラブがひっそりと運営されている程度だった。(それだけでも十分ヤバイことは言わずもがなだが…)

彼女を誰にも取られたくなかった僕は誕生日に告白することを決意していた。

そして迎えた当日。誰かに告白するのが初めてで変な汗がダラダラと体中から吹き出していたがもう遅かった。彼女はすでに目の前にいた。しかも丁度紗季の家族も別の部屋で用事していていなかった。

告白には絶好のチャンスだった。

「さ、紗季…」

「ん?どしたの疾斗?顔赤いよ」

笑いながらこっちを見る姿はいつにも増して綺麗に見えた。今にも心臓が飛び出そうな鼓動を必死に抑えて深呼吸した。よし言うぞ!

「じ、実はさ…僕紗季のことが…」

「何よー?そんな改まっちゃって」

彼女は微笑んで僕を見ている。先に続く言葉が気になっているようだが急かす様子もない。こういった少しの優しさにも僕は惚れてしまったのだろう。

「紗季のことが…ずっと好きだったんだ!だから…よければ…僕と付き合ってくれませんか?」

頭を下げて返事を待つことにした。頭を下げたのは単に彼女の顔を直視できないからである。恥ずかしいから。そして何よりも怖いから…。

「………」

彼女は黙ったまま返事がない。さすがに反応が気になった疾斗はチラッと紗季のことを見た。

それと同時に紗季の反応を見てビックリした。

何と彼女は涙を零していたのだ。いつも笑顔の絶えない元気な彼女が。紗季の泣いている姿を見たのは長年の交流の中でもほんの2、3回だけであった。だから疾斗はビックリしてしまった。

「さ、紗季?!どうしたの?!」

「どうしたのってね…嬉しかったの…凄く…」

紗季は手で涙を拭き取りながら答えた。彼女の放つ言葉は優しく、心に一つ一つ染み込んだ。

「だからね…疾斗…」

「な、何?」

「私でよければ付き合って下さい」

「………」

や、や、や、や、や、や、や

「やったーーーーーーーー!!!!!」

「ちょっと疾斗はしゃぎすぎ」

嬉しさで飛び跳ねる僕を見て微笑む彼女は今まで見た中で一番綺麗で可愛く見えた。

そうして彼女にとってそして僕にとっても記念日となったあの日から今日で丁度2ヶ月であった。

「いやーしかし今日も暑いね」

「そーだねー。疾斗は汗っかきだから気をつけないといけないね」

他愛もない話をしながら僕らは学校に向かった。

高校に入学してから約3ヶ月。僕は人付き合いが苦手だから友達がいっぱい出来たわけではなかった。

クラスで昼食を食べるほんとに仲良い友達が1人いるが正直その他の男子からはあんまり好かれていない。

理由は明白である。僕が紗季と付き合うことになったからだ。まぁ言ってしまえば嫉妬、妬みという醜い感情によって毛嫌いされていた。

そういうことがあり僕はクラスの男子が同じように嫌いだった。唯一仲が良いのは光里(ひかり) 煌輝(こうき)という超イケメン男子である。名前からして分かるとおりまさに輝いている。これほどピッタリな名前はそう存在しないであろう。

煌輝だけが僕の信頼できる男子だ。

そういえば煌輝と紗季がくっつけばビッグカップルになるだろうと学年中で噂が流れていたが紗季はどう思ったのだろうか?

「なぁ紗季?」

「どーしたの?」

「前に一回さ、煌輝と紗季がくっついたらビッグカップルになるって言われてたけどどう思ったの?」

そう聞くと紗季はムッとした顔で僕を睨んだ。

どうやら怒っているようだ。僕には何で怒ったか理解できないんだけど。

「何?私と光里くんが付き合って欲しかったの?疾斗は?」

「え、い、いや。そういうことじゃなくてどう思ったのかなーって…」

「私はずっと疾斗のことが好きだったからあの噂は正直気に入らなかったのに…あ…」

紗季は何かに気付いて顔を赤らめた。

もちろん僕も聞こえたよ。"ずっと好きだった"って。

「紗季ずっと僕のことが好きだったんだ…」

「ち、違っ…いや、違くはないけど違うの!」

分かりやすく焦っている紗季を見るとなんだか安心する。しかし朝からなんだこの可愛さはマジで一瞬天に召されるかと思ったんですけど。

くだらないやりとりを楽しんでる間に高校に着いていた。僕は5組紗季は7組だった。1学年8組編成のこの学校は6組から8組までは階段を上がって右側に位置しているので紗季とは一旦階段を上がればお別れとなる。

「じゃ今日も頑張ろー」

「うん!また帰りね」

紗季は微笑んで手を振り教室へと向かって歩いていった。それと同時に僕も彼女と背を向けるように自分の教室へ歩いていった。

教室の扉を開けると今日も騒々しい馬鹿ども…おっと賑やかな方たちが教室で暴れていらっしゃる。

この空気感大っ嫌いだ。来て早々憂鬱な気分になっていると何やら神々しいオーラを纏った人が近づいてきている。間違いない煌輝である。

「おはよー疾斗。今日も退屈そうな目してるな」

「おはよー煌輝。退屈そうな目じゃない、退屈な目をしてるんだよ」

こうしていると思うがなぜ煌輝みたいな人間が僕といてくれるのだろう?

なんかデジャヴ感がすごいけど考え出したら止まらないからここらでやめとこう。

「おっとそろそろ時間だし座っとこうぜ」

「うん、そーだね」

キーンコーンカーンコーン

1日の始まりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。


ー数時間後

あいも変わらずボーッとしたまま授業を受けて1日が終わった。煌輝は部活があるので「じゃあなー」と言って別れた後疾斗は足早に校門の外へ向かった。

しばらくの間スマホをいじって待っていると紗季がやってきた。

「お待たせー!」

小走りでやってくる姿はなんとも愛くるしい。

「抱き締めてぇ」

「ん?何か言った?」

「あ、いや、なんでもないよ」

まさか声に出てるとは思わなかった。気をつけないとマジでヤバイこと聞かれかねない。

「私このあと友達とカラオケ行くから電車なんだけど疾斗どーする?」

「んー俺はカラオケある駅とは反対だけどちょーど本屋寄りたいと思ってたから本屋行くよ」

学校に1番近い駅は満智(まち)駅なのだが西に一駅行くと紗季の目的のカラオケが。東に一駅行くと疾斗の目的の本屋があった。

2人で駅に向かっている間も登校中と同じように他愛ないくだらない会話を楽しんでいた。

今こうしている時間が1番楽しかった。

7分ほど歩くと駅に着いた。改札を通ると右に東行き、左に西行きの階段があった。2人は「また明日」と手を振ってお互いの方面へ向かうホームへと階段を登った。ホームへ着くと向かいのホームに紗季が見えた。紗季も僕に気づいたようで小さく手を振っている。

まもなく2番線に電車が参ります…

紗季のいるホームに丁度電車が来るようだ。

紗季を見ていると階段の方からイヤホンをつけて歩きスマホをする男性が歩いてきていた。

歩いているが周りを全く見ていなかった。

ホームで待っている人がそいつを避けている状況だった。しかし紗季は俺を見ていてその男に気付いていなかった。ついに紗季にぶつかった男性は「いってーな、クソが」と罵倒を紗季に浴びせたがその直後ぶつかったことでバランスを崩した紗季は線路に落ちた。

あまりにも突然なことだったので僕はどうにも出来なかった。向こう側のホームもザワザワしていたがもう電車はすぐ近くまでやって来ていた。

「紗季ィィィィィィ!」

紗季は僕をみてまた微笑んでこう言った。

「疾斗、ありがとう」

直後電車は彼女にぶつかった。彼女の体は吹き飛び辺りに血しぶきが飛んだ。ホームでは様々なところから悲鳴が上がっていたが僕は彼女が死ぬ瞬間を見ていることしかできなかった。

彼女が電車に轢かれて肉塊になる瞬間を。

「あ、あ、ァァァァァァァァァァァァ!」

あの日僕の心は彼女と一緒に死んだ。はずだった。


ー続ー


不定期更新ですので次回の話がいつになるか分かりませんがネタはありますので頑張って早めにあげたいと思ってます。乞うご期待。

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