襲撃!
むしろ、喋りたかったのはおれの方かも知れない。数日間とはいえ牢獄につながれ、その開放感もある。また、こんな深夜に、文字通り逃げるように、王都を後にする寂寞とした虚しさ。
だが、しばらく黙って、馬車の揺れに身をまかせていると、次第に睡魔が襲ってきた。
そして、明け方、空が白みはじめた頃、おれが目を覚ましたのと、御者が言葉を発したのはほぼ同時だった。
「くそっ!」
御者は馬車を急停車させた。
ガツンっ、と矢が外板に立った。襲撃されているのだ。窓から外を見れば、薄暗がりの森の中、一本道。襲撃にはもってこいだ。
「畜生っ! 囲まれた」
御者はもう一声、吠えた。
「剣は?」
一瞬、御者は渋った。が、思い直したように、
「座席の下に」
御者が大佐からどういう命令を受けているかしらないが、ここで、おれが殺されてしまうのは、もしくは、自分が死んでしまうのは駄目だということだ。
天井に頭が支える狭い馬車だ。中腰で立ち上がり、座席を持ち上げる。二振りの剣が納められていた。
ガツン、と走行している間にもう一本、矢が突き刺さる。おれは窓から体を外す。窓など容易に矢は突き抜けるだろう。そんな盲射りの流れ矢に当たって死ぬなど恥だ。
剣を掴むとおれは扉から勢いよく飛び出して、地面を転がった。久しぶりの土は、明け方の涼気とともにひんやりとしている。
御者も御者台から飛び降り、剣を抜いた。
気配から察するに敵は五、六人だ。奥の方に射手が隠れているかも知れない。
おれは御者を突き飛ばした。御者が立っていた場所に、矢が突き刺さる。
「敵に向かって走れっ。射られる」
この矢の間隔では、射手は一人だろう。
おれは敵の気配に向かって駆け出した。
草むらの陰に一人。
おれが剣を振り下ろせば、そのものは転がって後ろに下がる。
暗闇に浮かぶ陰が握る剣だけが、不気味な白さを放つ。剣が動く。素人じゃない。おれは的の剣を鐔で受け、相手の腹に蹴りを入れる。そして、後ずさる敵に突きを繰り出す。
が、剣は致命傷を与えるまでは届かず、切っ先がわずかに相手の肉を抉っただけだった。
向こうの方でも、御者が雄叫びを上げながら斬りかかっている。剣戟の響が届く。
敵は逃げ足も速かった。
「引け」
との一声で、数人いた陰は一斉に森の奥へと消えていった。
おれはしばらく矢を警戒し、その場に伏せていたが、気配も消えれば、起き上がって剣を鞘に収める。
御者は大きくため息を吐き、上がった息を整えていた。そして不本意げに、
「すみません。借りがひとつ出来ました」