死罪
おれの独房の前に、法務官が三人やってきて、そのうちの真ん中のが言い放った。
「アンフォール・フォン・ライトから貴族の称号を剥奪し死刑に処す」
なんという響きをもった言葉だろうか。その言葉をおれはどう受け止めたらいいのだろうか。貴族の称号を剥奪されるくらいは諦めていた。アンフォール家には長兄もいれば次兄もいる。おれひとりいなくなったところで安泰だ。
だが、まさか死罪になるとは思っていなかった。
靴音を鳴らして、法務官たちは去って行った。
法務官が去った後も思考は泳いでいる。死ぬという感覚が掴めないでいた。王女に手を出したのだ。タダでは済まないことは百も承知だった。だからって、まさか殺されることになるとは。おれの罪は死に値するのだろうか。
それから、数日。おれは死がなんであるかわからないまま、死ぬのを待っていた。
「やぁ、ライト君。すっかり意気消沈だね」
独房の前に現れたガーロ大佐は、死刑囚の前で笑って見せた。おれはそれに笑み返すくらいしか出来ない。
ガーロ大佐は兵学校の三年上の先輩で出世頭だった。おれは兵学校を卒業して1年間、大佐の部隊にいた。
「その顔を見ると、死罪を賜ったことに納得がいっていない様子だが?」
「なんの用ですか。王女を誑かして殺される、愚かな兵を笑いに来たんですか?」
「それだけの嫌味が言えるならまだ大丈夫そうだ」
ガーロ大佐はなにかを試すようにおれを眺めている。この人はいったいなにを考えているのだろう? 昔から、なにを考えているのかよく分からない人だったが。
沈黙に、おれの方が耐えられなくなり、
「本当に笑いに来ただけですか?」
「あいにく僕はそんな暇じゃないんだ」
「じゃ、どうして」
「ひとつ僕のために働いてもらおうと思ってね」
それは、おれが死なないことを意味するのだろうか。体が震えた。思わず、鉄格子にしがみつく。
「助けてくれる、ってことですか?」
「いや、残念ながら死刑の執行はもう済んで、君は死んでるんだ。ほら、この通り」
ガーロ大佐が懐から取り出した一枚の書類。おれの死亡診断書だ。ますます意味が分からない。
「悪いが、君を助けることは出来なかった」
「おれは死ななければならないほどのことをしたんですか?」
「当たり前だろう。王女を犯すなんて、君、どうかしてるよ」
「いや、お、おか――」
「死罪だけでラッキーだと思った方がいい。アンフォール家ごと潰されたって文句は言えない」
なにか、おれの知らないところで預かり知らぬ話が回転している予感。