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ズボンを下ろしたその時

 平手打ちぐらいで済んでありがたい。いや、申し訳ない気持ちで一杯だった。おれはおまえを愛するフリをしただけだ。そして、だまし、おまえの国を滅ぼした。殺されても文句は言えない。


 そうだよ。こんな気持ちになるくらいなら、あのときおとなしく死んでおけばよかったんだ。命に目がくらんで、罪のない少女を死ぬほどつらい目に遭わせ、自分も死んだ方がマシだと思うくらい堕落するなら。



 半年前。おれは瞬間風速的な人生の絶頂を体験した。



 腕の中には心から愛する女性がいた。叶わぬ恋と知りながら、恋い焦がれた女性。だが、奇跡は叶わぬ恋を叶えてしまった。


 どういうわけか、数多いる近衛隊のひとりに過ぎないおれは、リン王女の目にとまった。


 ある日、王女は侍女を使わしおれを呼びつけた。おれは謁見の栄に浴することになった。ただ遠くから眺めていただけのお姿が、ひと跳びで触れることの出来る近さにあった。おれはうつむいて、お言葉を待った。


 最初の謁見は至極事務的なものであった。近衛隊の現状などをお聞きなっただけだった。無論、おれは何一つ隠し立てすることなく語ってお聞かせした。


 そのようなこと、隊長から聞けばよいものを、と訝しく思ったが、こちらの思いを見透かしていたのだろう、帰り際侍女が、隊長は繕いが多く真実が聞けぬゆえ、と弁明していた。


 そして、おれはそれからも呼ばれることになる。回を重ねるうちに、王女のお気持ちに気づくようになった。無論、王女はおれの気持ちはとうに知っていたはずである。


 いや、三国一美しい姫君である。よもや、自分を好かぬ人間がいるなどとは想像だにしておらなんだ。


 おれたちはついに二人きりになる機会が増え、この日で三度目だった。三度目の正直。


 おれは決心した。リン王女を奪う。初めて、リン王女の唇を奪った。彼女は優しく応じてくれた。されに、その胸元を開いた。磁器のように美しい肌だった。おれは豊満な乳房に顔を埋めた。


「王女。王女のためならばこの身は惜しくありません。いつなんどきでもわが命、お使いください」


「そなたの赤心、わたしも嬉しく存じます」


 そう言って、王女はおれの後頭部を優しく撫でた。


 王女のお心を手に入れ、そして、今まさに、そのお躰も手に入れんとしていた。


 乳首を優しく吸った。鼻腔に甘い香りが広がる。彼女が切ない吐息を漏らした。もう後戻りは出来ない。この後のことなど知ったことではない。おれはただ、狂おしいほど愛するこの女性を犯す。もう、そのことしか頭にない。自分が動物であると否応なく諦めるしかなかった。人生を謳歌し、悔いを残すべからず。


 ズボンを下ろしたその時。


 扉を蹴破り、近衛隊が乱入してきた。おれは電光石火の早業で王女から引っぺがされて、数人に取り押さえられた挙げ句、頭を強打されて意識を失った。

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