表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

プロローグ2

「え、嘘でしょ」


 彼女は彼方から聞こえる無数の馬蹄の音を耳にした。そして、丘の上で大きく振り返り、神都の方角を眺めた。しかし、夜の闇に閉ざされた視界は、神都の微かな灯りを浮かび上がらせるだけで、馬蹄の正体は掴めない。


「どうした?」


 おれはその言葉が不自然にならないように、細心の注意を払った。ガーロ大佐の言葉に嘘はなかった。というより、ここまでやって、「冗談でした」なんて素敵すぎて腰が抜ける。


「ライト、ごめん。わたしやっぱり戻らないと」


「待てよ、今から戻ったって間に合わない」


 エリアの瞳はまっすぐにおれを射貫いた。思わず目を背けてしまう。


「あなた、なにか知ってるの?」


「なにかって、なにを?」


「とにかく、わたしは戻る」


 その時だった。空に光が集まった。おれたちの知っている常識をあざ笑うかのように、夜の空に光が集まる。これが、二十年前に我が軍を壊滅させた光。こんな光景初めて見た。そして、光は雷となり地面を突き刺さった。


 彼女はその様子を見て、どことなくほっとしたように、駆け出そうとしていた足を一度戻した。


「なんだよ、あれ」


「神都の防衛魔法。ラゼルゲーハ。三十人の唱導師が気を念じて出現させる」


 彼女の言葉は、意図せずに誇らしげに響いた。そう。彼女も、本当は三十人の唱導師のうちの一人なのだ。


 おそらく、あの稲妻は我が軍に落ちた。あれがどれほどの威力かは分からないが。二十年前の記録だと、一撃で五百騎が死に、一千騎が動けなくなった。それを何発もくらったら、いかに精強を誇る我が軍でもどうしようもない。


 おれは自軍がそんな悪魔みたいな反撃を受けたことを、悲しむべきなのか、それとも、エリアの立場に立って喜ぶべきなのか、判断しかねた。夜の黒さが、おれの表情を隠してくれる。せめてもの救いだ。


「っな!」


 彼女が息を詰まらせた。神都から火が上がり、夜の点を紅く彩った。それは、少しずつであるが大きくなっていて、それと比例して、彼女の焦りが高まっていく。


「嘘、こんなの、わたしのせい……」


「エリアのせいじゃない」


「で、でも、わたしがいなかったからっ」


「なんのために三十人もいるんだよ。おまえのせいじゃないっ」


 本当はおまえのせいだよ。だから、おまえのせいじゃないって、おれは強く言わねばならなかった。


「とにかく、戻らなきゃ。戻る」


 一歩踏み出した足を止めるべく、おれはエリアの腕を握った。


「離してっ」


「ダメだ。もう遅い」


 パン、と頬がはじかれた。おれはエリアから平手打ちを食らった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ