プロローグ1
「ヤダン少佐。ご覧よ。この星空を。この澄んだ空から雷が落ちるとはにわかに信じられないね」
「しかし、大佐。文献によれば、天候は関係ないと書かれております。二十年前は太陽が降り注いでいる中でやられましたから」
「ま、もうなるようにしかならないね。乾坤一擲。ライト君が上手くやってくれているとは思うんだけど。まぁ、もう僕らはここから眺めることしかできないんだし」
ガーロ大佐とヤダン少佐は丘の上か神都に攻め入る自軍を眺めていた。
一万の攻城部隊が城門に群がる。その後ろから三千の騎兵が馬蹄を高鳴らせていた。さらに大がかりな攻城兵器が続く。
夜討ちには適さない星明かりに照らされて軍勢は雪崩のように神都に押し寄せた。
「おい、嘘だろ」
ガーロ大佐は呟く。ヤダン少佐の頬を一条の汗が流れ落ちた。二人が眺める夜空に、にわかに光が集まっていた。こんな光景を二人は見たことがなかった。
濁流のように流れていた軍勢も、その光が気になるのか急に淀みが生じる。進む速度に迷いが見て取れた。
「勘弁してく……」
大佐の言葉が終わらぬうちに、空中に浮かんでいた光が、一本の雷となり、軍勢に降り注いだ。軍勢のその部分が消滅する。
ヤダン少佐は首からかけた遠眼鏡で様子を確認して、
「五十騎ほどやられました」
「……なんだよ。驚かせやがってね」
「二十年前は一気に五百騎やられましたからね」
「あの裏切りジジイの言ったとおりだ。そして、それもこれもライト君のおかげって訳か。いや、くわばらくわばら」
軍勢は体制を立て直し、再び城門に向かう。軍は生き物。怖いと思えば怯み、相手が弱いと分かれば勢いづく。そのことをガーロ大佐はよく知っていた。
空に光は再び集まるが、その光に先ほどのような力が宿っているようには見えなかった。
城門が火を噴いた。攻城兵器から火炎の弾が降り注がれる。城門と言わず、城内の街も焼き尽くしてしまう勢いだ。
「ようし。勝負あったかな」
ガーロ大佐は嬉しそうに指をはじいて鳴らした。