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残響  作者: 紫堂 マサキ
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8月24日(木)2日目ー②

「大きな木だなぁ」



夏奈は神社のご神木の前に居た。



時折、自分がどうしてここに居るのか分からない事がたびたびあったが、そう言う時には考え事をしていることが多かった。

だが、それは夏奈自身理解していた。



「貴方は、優しいのね。ずーっと前から見守ってきたんだね」



私達の事も守ってくれていたのね。



でも、みんなもうどこかに行ってしまった・・・・



今は私一人。ごめんね―――。



「夏奈ぁッ!」



え? 誰? どこから呼んだの?



何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた。



視線を元に戻し、声の方向に顔を向けると昨日会った友達が階段を上がってきていた。



「睦だ! どうしたの?」



こちらに近づく睦に尋ねた。



「どうしたのじゃないだろッ どうして昨日いなくなったんだよ!」



睦は少し強い口調で聞いていた。



「そ、それはそのぉ、なんというか・・・」



「なんだよ。そんなに来たくなかったのかよ」



「いや、そう言う訳じゃ・・・」



夏奈は、何かを隠しているのだろうか睦と目を合わせようとはしない。



「じゃあ、なんだよッ」



「あ、そう! 用事!」



「用事?」



突然夏奈は、何かを思い出したかのように言った。



「うん、ちょっと用事を思いだしたんだ」



「だから、ごめんね。心配したよね。」



「ほんとだよ。ほら、そしたらさっさと夏奈の家を探そうぜッ」



睦は頭を切り替えて、今日ここに来た理由を夏奈に話した。



「うん、ありがとう。 じゃあ今日は頑張って探しましょう!」



「今日はやけに元気だな?」



「今日は気分が良いんだもの!」



「そう言うもんかね?」



やけに嬉しそうに話す夏奈に睦は首を傾げた。



「そう言うもんよ! さぁ、行きましょッ!」



そう言って睦の手を握ると走り出した。



「お、おいッ 待てって!」



「良いから良いから、ほら行くよ!」



「おいおい、どうなっちまったんだ?」



昨日までとは雰囲気が違うぞ?



夏奈の変わりように着いて行けずにいた。



それもそのはず、昨日まで泣いていた少女が次の日には笑顔の絶えない女の子になっていたのだ。



すぐに受け入れろと言われてもそれは難しいだろう。



「最初は、どの辺に行くんだ?」



「え~っと、どこ行こうか? エヘッ」



エヘッじゃないだろッ!



1人でツッコむ睦をよそに夏奈の足は速まってゆく。



まぁ、どこでもいいか。だいいち自分の家が分からないで探すんだから、家の場所が分かるんだったら苦労しないだろう。



1人で納得していたが、それ以外に睦は少し不安だった。



昨日は不安に押しつぶされそうなほど、か弱かったはずの夏奈があれだけ元気に笑っている姿を見ればこちらも安心するものだ。



「何1人でニヤついてんの?」



つい2人でいることを忘れていた睦はいつの間にか後ろを向いていた夏奈に気付かなかった。



「別に」



「ふーん。」



夏奈はどこか寂しそうな顔をしていたが俺は見なかった事にした。



「そしたら、街に行ってみようか。」



「街へ?」



夏奈はどこかびっくりしている様子だが、そんなに街が驚くことなのだろうか。



「あぁ、俺も詳しくは分からないがこの道を真っ直ぐ行くと小さいが街があるらしい。そこなら何か分かることもあるんじゃないか?」



「そうね。何か手がかりがあるかもしれないわね」



二人は、来た道を戻るようにして反対方向へ走り出した。


              


「やっと着いたね!」



「そうだな、やっと街に着いた。」



「凄いのね、睦は目的地を正確に連れてってくれる。」



「いや、そんなこともないよ」



夏奈はここまで来るのに迷うことなく来れたことに驚いていた。



二人は無事に街の入り口まで来ていた。



「それじゃあ、探そうか!」




―――1時間前―――




「ねぇ、行き方も分からないのにどうやって街まで行こうっていうの?」



ふと、夏奈は疑問に思っていた。



場所が分かっていても、行き方が分からないのであればどうすることもできない。



「大丈夫だよ。マップで調べるから」



ん?



「睦、マップって何?」



夏奈のその一言が始まりだった―――――。



「え? 夏奈はマップ使ったことないの?」



「だからマップって何なの? 睦は使ったことあるの?」



「そりゃあ、俺だって使った事くらいあるよッ」



この子は最初何を言っているのか分からなかった。



「ほら、この中のアプリだよッ 皆のスマホにだって入っているだろ?」



「ねぇ、何その箱は? 箱の中に綺麗な星空があるわよッ」



夏奈は睦の手に持ってスマホを見て大きく目を見開くと近づいて見ていた。



まるで、スマホを初めて見たかのような反応だった。



「え? 何ってスマホだよ! 夏奈知らないの?」



「ええ、見たことも聞いたこともないわ! それにしても綺麗ね。」



「あぁ、これは壁紙だよ。もともと入っているんだ。」



「とっても綺麗。これなら曇りの日でも綺麗な星空がいつでも見れるわね。」



夏奈は冗談じゃなく、感想を言っていた。



本当にスマホを見た事ないんだ。睦は驚いた。



「なんでそんなに驚いているの? そんなに私変かしら?」



「待って、夏奈は携帯って知ってる?」



「ケイタイ? それもまた綺麗なものなの?」



「マジかよッ 携帯知らない人初めて見た」



「そんなに驚かないでくれる?」



ごめん。とだけ伝えた。



「まぁ、いいわ。それよりもそのスマホ? とかマップ? っていうもので早く行きましょうよ」



夏奈は急かすようにいうと、検索ワードに目的地を入力していく。



もう3年もスマホを使っているから、文字の入力等さほど難しくはないが滑らかに動く睦の指に夏奈は興味津々だった。



「な、何かな?」



「いいえ、さっきから止まることない指がとても不思議だから」



「そ、そうかな?」



よし! 睦はそう言って検索ボタンを押す。



検索中という文字が画面中央に浮かびその周りを円を描くように光が回っている。



すると、画面が変わり目的地らしき場所に赤い的のようなものがその場所に刺さった。



「ここだね。行ってみようか!」



うん――――。



夏奈は楽しそうに足を運んだ。




――――――― 目的地 ――――――




二人が到着した街は、この辺でも2つ目には入る大きな街だった。



周りは集合住宅が並び、少し足を伸ばすと大きなショッピングセンターがある。



だが、ここの住民はこぞって近くの商店街で用を済ます。



だからか、一つぽつんと立つショッピングセンターがもの悲しさを語っていた。



二人は大通りに面した道を歩き、何か気付いたことや見覚えのあるものがあるかあたりを探していた。



「う~ん。見つからないわね」



「そうか。 でもまだ探し始めたばかりだから頑張ろう」



睦は少しでも夏奈を元気にしようと声を掛けた。



あっ



「どうした?」



突然の夏奈の声に睦は振り向いた。



「さっきの続きなんだけど、睦はあの黒い箱・・・スマホ?だっけ持っていたじゃない?」



「うん、それがどうしたの?」



突然大声を上げたから何事かと思えば先ほどのスマホの話だった睦は少し拍子抜けしていた。



「あれって、目的地まで連れてってくれるだけなの? それともまだ何かあるの?」



「あぁ、このスマホは電話も掛けられるんだ。まぁそれがこれの大きな役割なんだけどね。」



「え? 電話もかけられるの?」



夏奈は目をキラキラと輝かせながら顔を近づけた。二人の顔はもう目の前でいつ睦の顔が赤くなるかは時間の問題だった。



「そしたら、夏奈はどうやって電話とかしてたの?」



「私? 私はねこれ使ってたよ。」



ん? カード?



「これは?」



夏奈はそう言ってポケットから取り出したのは一枚のカードだった。



片方の面には、淡い緑色の背景に灰色の英語でTELEPHONE CARDと書かれ、隣には電話だろうかイラストが描かれていた。



「えっ? 睦、テレホンカード知らないの?」



「テレホンカードって何?」



今度は逆に睦がテレホンカード知らない事に夏奈が驚いていた。



今日初めて、夏奈の驚く顔を見たかもしれないと思った。



大きく目を開けている所は、少し面白かったが可愛いとも思った。



「このカードがあればね、どこでも電話を掛けられるの」



「どこでもってそのカードで?」



「違うわよ! このカードを公衆電話に入れるのッ」



「あぁ公衆電話なら聞いたことある!」



聞き覚えのある単語に睦は少し誇らしげだった。



「聞いたことあるって・・・・睦って不思議ね」



「何が不思議なんだよ?」



「だって、あんなに素敵な箱を持っていて、行く先を案内できる魔法のような道具を持ってるのにテレホンカードを知らないなんて不思議だなって思って」



「それに、公衆電話なんていくらでもあるわよ!」



「え? どこに?」



睦はそう言われ周囲を見渡したが公衆電話らしき物体はどこにも無かった。



「どこにも無いじゃないか?」



え?



すると夏奈も周囲を見渡したがやはり公衆電話は無かった。



「え、公衆電話なんていくらでもあるはずよッ」



「でも、どこにも無いよ」



「そんなわけないわ、こんな大きな通りなんだもの1つや2つはあっても可笑しくないはずよ」



夏奈は血相を変えてそう言うが、どこにもその姿は無かった。



「すいませーん」



「はい、いらっしゃいッ」



夏奈は近くのレストランだろうか、外にいた従業員に話しかけた。



「あの、お聞きして良いですか?」



「この辺で公衆電話ってありませんか?」



少し年配のおじさんは、笑顔で対応してくれた。



「公衆電話かぁ懐かしいね。この辺りじゃ昔はいっぱいあったんだけど、段々と周りも変わっていくにつれて無くなったんだよ。」



「そうですか。」



「昔は良かったんだけどね。前は温かった街だったんだけど今じゃ見る影もないよ。新しいものも大事だけど、昔の古き良き時代ってのもないとね」



おじさんは少し寂しそうにそう言って辺りを眺めていた。



眺める姿が、別れた恋人が再び目の前にきてくれるのを待っているかのようだった。



「こんな所で、公衆電話の話が出来るとは思っても無かったよ。ありがとう。」



おじさんはそう言った。



「なんで、ありがとうって?」



夏奈は不思議に思いおじさんに尋ねた。



「そりゃあ、昔の話が出来たんだ。今じゃ昔の話をしても通じやしねぇからね。それにこうやって人との繋がりってのは無くしちゃいけねぇからね。周りが変わっちまってもそこに住む人まで変わっちまっちゃこの街の思い出が無くなっちまうからよ」



「この街の思い出・・・」



「そう、住む人が変わっちまってもこの街は今も昔も覚えててここの人達を守ってんだ。」



おじさんが何を言いたかったのか全部は分からなかったが、おじさんがこの街を愛しているということは睦も夏奈も分かった気がした。



「それじゃあ、おじさん仕事に戻るよ」



「引き留めてしまってすみませんでした」



夏奈はそう言って、再び大通りを歩く。



「街の思い出かぁ」



「どうした?」



「いや、私は私の住む場所を本当に忘れちゃったのかなって」



夏奈は泣き出しそうな顔で呟いた。



「・・・・・・・」



どう返せばいいか分からず睦は必死に考えていた。



だが、思い当たる言葉は全て他人事のような言葉ばかりで、そんな言葉しか見つけられない自分に腹が立っていた。



「睦は優しいんだね」



「俺は・・・」



それ以上、何も言えなかった。



言えなかったのではなく、言うことが出来なかった。



その時、夏奈は今にも泣き出しそうだったから――――――。



俺は、なんて弱虫なんだ。




それから二人はすぐに戻ることに決め、この街を後にした。



婆ちゃん家の近くまで来る頃にはもうすでに夕暮れだった。



あれから二人は何も話さぬまま、否何も話せぬまま沈黙の時間過ごしながらここまで戻ってきた。



「あ、あのさ今日は夜はどうするの?」



睦は口を開いた。



久しぶりに口を開けたかのようで、言葉を忘れてしまったのか口をパクパクと開けたり閉めたりしていた。



「今日は、泊まる場所確保してあるから大丈夫」



「そ、そう。じゃぁまた・・・・」



「えぇ、また・・・・」



夏奈は帰るまでずっと落ち込んでいる様子だった。



夕焼けが地面を染め始めた頃、去ってゆく夏奈の背はどこか小さくか弱かった。



このままでは消えてなくなってしまうのではと思うほど、小さくなっていた。



「また、明日。」



睦は小さくなる夏奈の背にそう呟き、帰りの道を歩いた。



ただひたすらに――――――。


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