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残響  作者: 紫堂 マサキ
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8月24日(木)2日目ー①


あれは夢だったのか――――



今日は夢見の悪い朝だった。



夕方まで現実だと思っていた出来事が、突然泡のように弾けて消えていってしまった。

家へ帰ってから、あれが現実の出来事だったと家族に話しても誰も信じてはもらえなかった。



それが虫の居所の悪さの原因の一つでもあった。



「はぁ、なんだったんだろうな――――」



1つ溜息をつく。



「ほら、睦ぉ朝ごはんよ!」



母の声が聞こえてきた。



「よっこいしょっと」



爺臭く膝に手を置き立ち上がった。

昨日久しぶりに走ったツケが足に来ていた。



「ッぁ――久しぶりに筋肉痛だぁ」



歩く度下半身の筋肉が悲鳴を上げている。



どうにか庇うように歩いているつもりだが、痛みはジンジンと迫ってきていた。

でも、この痛みも睦にとっては紛れもない夏奈と出会ったという事実であり、夢では無いという希望でもあったそんなことを考えているうちに、いつの間にかニヤケていた。



「アンタ、なにニヤついてんの? 気持ち悪いわよ」



しまったと思った。



「べ、別にいいだろッ」



「あッそ、ほらさっさと席ついて」



さらっと母親に受け流され、そのまま促されるように昨日晩御飯を食べた居間へ通された。

もうすでに、家人は全て席についてた。



「やっと起きたか睦」



「あらあら、睦ちゃんおはよう」



「ほら、飯食うぞ」



それぞれ言葉を掛けられ、足早に席へとついた。



「おはよう」



皆に向けて挨拶を済ませて朝ごはんへ目線を落とす。



いつも、家では食べないようなものばかりで好奇心をくすぐられた。

田舎だからと言ってしまうと、他の田舎の人達に殺されそうだが目の前に置かれたのは煮物や漬物が多かった。だが、朝ごはんと言えば鮭なのだろう。一人ひとりの前には焼き鮭が置かれていた。



「いただきます。」



母親が席へと着き、各々が箸をつけ始めた。



「今日はどうするんだ?」



最初に口を開いたのは父さんだった。



「ん? また外をブラブラしようかなって」



「そうか、また遅くなるんじゃないぞ。皆に心配をかけるな」



「わかったよ」



睦はそういながら、ご飯を口に運んだ。



昨日はあれから、家族みんなから説教をされた。

まぁ予想されていた事だったからか、それほど落ち込むことはなかったがそれよりも、夏奈の事が頭の中でいっぱいだった。



『今日は、また夏奈を探すか―――』



ある希望はあった。



足の筋肉痛があるということは、昨日は外へ行き体を動かしたという事。それにみんなは見ていなくても、自分は夏奈に会っていて忘れていない事が大きな要因だった。



早く出かけたい気持ちを抑えながら朝ごはんを食べてゆく――――。



「ごちそうさま。」



一通り箸をつけ食事を済ますと、食器を流しへ持っていった。



「ちょっと調べものしてくる」



「そう。あんまり遅くなるんじゃないわよ」



「分かってる」



睦はそう言って外へと出た。



朝ごはんと言っても、もう時間は9時過ぎを回っていた。



もうこの時間になると、セミたちの声も高らかに響いていた。



「うるせぇなぁ」



セミの声が耳に入るたびに暑さが倍に増したようだった。



「まったくこの声をもっと抑えられねぇのかな」



セミに文句を言いつけるが、より声が大きく増したように感じこの場から逃げるようにあの(・・)場所(・・)へ向かった。



「きっと、あの神社ならまた夏奈に会えるはず」



昨日初めて会った場所にいると希望を胸に、同じ道を通って向かった。



はぁ・・はぁ・はぁ・・・



「やっぱキツイなこの階段・・・」



昨日の今日だからこそ、筋肉痛の体には負担は大きかった。



まだ、先がある・・・

いつまで登ればいいんだよ―――



太陽の日差しが木々にあたり、木々の葉が青々としていた。



日差しにあたり、階段にはユラユラと光の海が広がっている。



階段の終わりが見えない事に苛立ちを覚えながら、追い打ちを掛けるように蝉の声が大きく声の数も多くなってきた。



睦は階段を登りながら、昨日の事を考えていた。



どうして、夏奈は家まで一緒に来たのに突然煙のように消えてしまったんだろう―――。



それに、自分の家が分からないってどういうことなのか睦は分からないでいた。



「自分の家が分からないって、どれだけ辛いんだろうな―――――。」



帰る家のある睦にとって夏奈の気持ちは理解することは難しかったが、それでも夏奈の抱える不安や恐怖は少しは分かるようだった。



「あともう少し。がんばれ俺!」



自分に言い聞かせ悲鳴を上げる筋肉に力を入れる。



次の日は、もう動けないだろう。と思いながら残りの数段を登ってゆく。



「やっと着いたぁ―――――ッ」



はぁ・・・・はぁ・はぁ・・はぁ



膝に手を当てて大きく肩で息を吐いた。

肩が上下に動くと同時に、汗が体中から噴き出し体から落ちた汗は石段に大きな染みを作った。



「ここに居なかったら、もうわかん・・・」



言い終える前に睦は言葉を失った。



目の前に佇む本殿の隣には、樹齢何年だろうか分からないがとてつもなく大きなご神木が聳え立っていたのだ。



その下には見覚えのある少女が見上げていた。



いた―――。



「夏奈ぁッ!」



睦は見上げる少女に向かって声を掛けた。



ビクッ



少女は大きく体を震わせると声の方向に顔を向けた。



「睦だ! どうしたの?」



咄嗟に大きな声を出したのか声は裏返っていた。



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