プロローグ 執事としての朝
――執事の朝は早い。
朝日から光が差し込み太陽を浴びて俺は体を起こす。寝慣れない上品なベッドから体を起こして着替えを済ます。燕尾服に袖を通し乱れがないか鏡でしっかりと確認してきっちりと着こなす。
服を着て部屋から出ると数名のメイドとすれ違う。言葉は交わさないが軽く会釈をして私は目的の物を取りに行く。置かれている籠の中から気分で数枚取り出して桶とお嬢様の好きな匂いのする魔法洗剤を用意し外に出たら準備は完了です。
執事の1日はお嬢様のパンツを洗う事から始まる。
「……よし」
水魔法で桶の中に適量の水を溜め魔法洗剤を使ってお嬢様のパンツを手洗いで丹精込めて洗って行く。この時重要なのは力加減です。あまりにも力を入れすぎてしまうとパンツの素材が傷んでしまい肌触りが悪くなってしまう可能性がある。お嬢様を不快にさせないためにもソフトに優しく触るのがコツなのです。
隅々まで洗い綺麗になったパンツを次は乾かさなくてはならない。お嬢様に濡れたままのパンツを履かせ不快にさせてしまう訳にはいかない。パンツ専用の物差し竿にパンツを干したら次は風魔法の出番だ。
「ほっ」
パンツに手をかざし熱風を送る。ここでも重要な事があり、それは生乾きの匂いが発生しないように熱風で殺菌する事だ。これは高度なテクニックが試され俺も慣れるのに苦労した。パンツに当てる温度と周りに潜む雑菌を殺す温度を微調整してパンツが痛まないように気をつける。しっかりとパンツを乾かせたらまずは最初の仕事は完成だ。
次の仕事はお嬢様を起こしお着替えの手伝いをする事だ。
「失礼します」
私の手に持つのは先程、隅から隅まで綺麗にしたパンツと綺麗に畳まれたお嬢様のお召し物。ドアをノックして間をおいてからドアを開ける。この間こそがとても重要なのだ。
「お嬢様。朝でございます」
「んー……やー……」
非常に可愛らしい声で反応するお嬢様の姿は美しい。齢10歳にして妖艶で麗しく眠る姿もまさにお伽話で語られるお姫様のようだ。ベッドの上で乱暴に乱れた金髪の髪はどの黄金よりも光輝かしい。
「お嬢様。朝でございます」
「……」
「お嬢様。朝でございます」
「……」
このように普通に起こそうとしてもお嬢様は朝にとても弱いので起きようとはしない。そんなお嬢様に対しての起こし方がある。まずはお嬢様の耳元まで顔を寄せる。
「お嬢様。朝でございます……」
「――ッ!」
耳元でボソッと囁くように言うとすぐに起きあがります。お嬢様は耳元が弱点なので耳元で囁いたり息を吹かれたりすると顔をすぐに赤くする傾向にある。今日もベッドの上で整った綺麗な顔を赤く染めこちらを睨んでいる。その姿も美しい。
「……普通に起こそうとは思わないのかしら?この変態」
時々すんなりと起きる時はあるが、このように奥の手を使って起こすと十中八九お嬢様は罵倒されます。ですがお嬢様に従える者はこれが照れ隠しだと知っているため、むしろ愛らしくご褒美だ。
「普通に起こそうと致しました。こちらお召し物です」
「……ふんっ」
お嬢様は、私から着替えを引っ手繰ると自らの着替えをベッドにおいてこちらを一瞥した。
「……早く行きなさいよ」
「それでは、お手伝いさせていただきます」
私はお嬢様の近くまでよりお嬢様の華奢な体に手をかけます。
「早く出て行けって言ったのよ変態!」
お嬢様の体に触れた際に思いきり叩かれる頬。ですがお嬢様はまだお歳は10歳。そこまでの力はありません。私は叩かれた頬を撫でた。
「お嬢様。失礼ながら私はお嬢様のお着替えのお手伝いを……」
「もう一人で出来るわよ!いつも言ってるでしょ。何歳だと思っているの!」
お嬢様はいつもこう言って私を下がらせる。執事は主人の命令には絶対服従だ。しかし執事とは完璧でなければならない。いつもなら引き下がる私だが今日は少し留まる。
「ですがお嬢様!もうこれ以上私の仕事を奪うのはおやめください!これは私にとってお嬢様に従えるための仕事なのです!」
「……私の全裸を見るのが貴方の仕事なのかしら?」
「えぇ!お嬢様の成長をこの目で記憶するのも執事の務めです!」
「……じゃあ私はさぞ体も成長して貴方も魅了しちゃってるのかしら。それなら、まぁ……着替えの手伝いをしたいと言ってるのもわからなくも――」
「ご安心ください!お嬢様のお身体の成長は今も昔も変わりませんので!安心して私にお手伝いさせてください!」
お嬢様の体は今も昔も変わらない。老いという言葉を知らないと言ってもいい程変わらない。女性と言うのは歳を取るという事に対して非常に敏感だ。だからこそお嬢様を怒らせないようにお嬢様は老いてませんよと伝えなければならない。
「そう。私はナニも何処も変わっていないのね」
「ええ!お嬢様は何もかも変わっていません!」
「そう」
一言そう言ったお嬢様は私の傍まで近寄る。お嬢様の身長は小さいためお嬢様の頭は私のお腹の付近にある。お嬢様は下を向いたまま何も話さない。
「お嬢様……?どうなされましたか?」
「絶命しろ!この変態!」
「ぐっふぁ!?」
痺れを切らして言った私の一言共にお嬢様の頭突きが私の男としての大事な部分にクリーンヒットする。悶える私の襟をお嬢様は掴むとドアを開けて私をドアの前まで引きずり捨てた。乱暴に絞められたドアの音にメイドが駆け寄り私が廊下で悶えているのを見てまた作業に戻っていた。助けなどは来ない、慈悲もない。
――あぁ。今日も執事の朝は早い。