土くれと彼女の思い出
両の手を突っ込み、せっせと土を穿り出す。
行った事は無いんだけど、鳥取の砂丘とかこんな肌触りなのだろうかと思うようなサラサラとした砂を
一生懸命に掘る。
「水でもかけて固めたらいいんじゃない?」
言うが早いかワタシがまだ土塚、いや砂塚に手を差し込んでいるというのにバケツに汲んできた水を勢いよくかけた。
サラサラの砂もろともワタシまでずぶ濡れになってしまった。
これでは帰って母さんに叱られてしまう。
しかし、それでも掘り続けたくなってしまうのは、やはり楽しいと思っていたからなのだろう。
単純に、端的に、的確に、しかし朧げに楽しいからなのだろう。
砂が泥になって服が汚れても、そのまま遊ぶ事が楽しいから辞められないのだろう。
程よく固まった土くれの山に通した手
向こう側からトンネルを掘ってきたソイツの手に触れた。
「これ、誰の手?」
「俺じゃない。」
「ボクでもないよ。」
「お前はいつも嘘つくからなぁ」
「酷いなぁ」
「ワタシが嘘ついてるかもしれないよ」
「それを言うなら俺だってそうだ」
そう疑心暗鬼の擦り付け合いをする。
そして誰が誰の手を握ってたなんて分からないままに、ワタシ達は成長していったんだ。
その時も分からなかったし、今までもこれからも、きっとずっと分からない事だ。
《キャラクターデータ認証》
《精神統合》
《認証》《認証》《認証》《認証》
現実が仮想空間へとダイブする。
俺自身の身体が解けて、泡のような形になって身体を再構築されていくイメージを意識する。
リアルでの俺の姿がバーチャルでのオレの姿へと構成される。
宇宙空間なのか、電子の海なのかよくわかんねぇけど光の玉がいくつも互いが互いを干渉しあうように
揺れ動くのを貫き、
オレはその世界へと降りてきた。到着した。
列車の汽笛音に一般プレイヤーの話し声や靴がレンガで出来た床を蹴る音が混ざって賑やかだ。
毎日、オレと同じようにこのゲームを楽しんでる奴らが行ったり来たりしているんだろう。
周りを見渡して感動してるやつも居れば、降りた瞬間にさっさと駅を出ていくやつらも居れば、
メニューを開いて何かをチェックしたりするやつも居る。
初ログインで酔ったのか、フラフラと壁伝いにのんびり歩くひょろい奴は、初心者だろうか。
オレもそいつらに習ってさっさと街の中心にでも出ようと歩き出す。
「・・・さてっと」
慣れた手つきでメニュー画面を開くとメールが着ていた。
リアルに置いてきたスマートフォンと連動しているので、ゲームの中に居ても送受信が可能なのは
便利なのだがオレとしてはリアルはリアル、ゲームはゲームと分けたいところであり
むしろ迷惑とは言わないまでも邪魔だと思う部分だ。
それはそれとして、メールはタケからだった。タケというのはリアルでの友人・・・知人だ。
『ごめんね。今日も少しログインする時間が遅くなりそうだ。』と云々。
長文で小難しい事をグチグチと書いてあって途中で読むのをやめた。
頭がいいなら、もう少し簡潔にまとめる努力もして欲しいものだ。
「なぁ、こんな武器拾ったんだけどどうよ?」
「あぁ?微妙だなぁ。そんなんより、あっちの武器のがいいぞ。断然安定してるからな!」
「ふーん。じゃぁそっちにするわ。」
南側のエリアは海になっている。
所謂ガチ勢のたまり場にもなっているこのエリアでもクエストを持っているNPCが居るので
初心者は何となく着づらくなっているらしい。
ここからは船を使って別の『セカイ』エリアに行くことが出来る。
「あ!リンちゃぁん!!遅いよぉん!!」
「こっちは学生だからしょうがないだろう」
店の前で仁王立ちをして待ち構える狐の獣人モデルのNPC、
錬金屋のコンが鼻息をムフーと吐きながら短い手をバタバタさせていた。
「デイリー、今日アタチんとこやるって言ってたから寝ないで待ってたのに酷い!!」
「出待ちかよ。」まるでメンヘラのような有様だ。
デイリーとはデイリークエストの事だ。
一日一回できる限定クエスト。
借金の取立てのようにしてクエストを催促してくるNPCってのも可笑しなものだ。
「アタチんとこのクエストって報酬少ないから、やってくれる人少ないから仕方ないのかもだけどね」
寂しいなぁっとポツリと呟く。
初心者用のクエストがメインであるコイツが、こんなエリアに置かれているので適材非適所って感じだ。
「だからオレ達がちょくちょく顔見せに来てやってるんだろ?」
「そうだね!」
パァっと明るくなる。
まるで赤ん坊を扱っているような気分になる。
「もうちょっとレア度の高そうなレシピでもあれば、アタチんとこの店も賑やかになるんだけどねぇ」
「まぁ、このゲームにNPCを強化するようなシステムなんて無いからな。便利すぎるのもいい事ばかりじゃないって事だな」
「便利なのはいい事なんだけどね」
励ましても、なかなか納得してくれない赤ん坊のようなコイツの攻略法が知りたい。
明るくなったり暗くなったりと忙しい奴だ。
「ところで、今日のクエストは何なんだ?」
「ヌッフッフッフ。急かすでない」
急かしたのはお前だ。
店の棚から他の本や小物を巻き込みながら分厚い本を無理矢理引っ張り出す。
散らかした物の片付けは手伝わないぞ?
っと埃が立ち込める中、「えーっと、どれだっけなぁ」と言いながら一生懸命内容を捜索する狐の小娘を
睨みつける。
というか、デイリークエの内容決めてなかったのかというところに呆れる。
「これ!『パステルカエルの胃袋』これが欲しいの!」スプラッタな素材だ。
「それって結構、入手難易度高いやつだろ?何に使うんだ?」名前くらいは聞いた事あるものの
使用用途は分からなかった。
回復アイテムなのか、装備の素材なのか、それとももっと特殊なアイテムなのか・・・。
「これがあれば、装備とかの色が変えれるの。」
それでパステルカエルなのか。
「ふーん、まぁわかったよ。取りあえず行って来るさ。」
クエスト画面にはコンの手書きと思われる文体のデータがあった。
『パステルカエルのいぶくろ』
カエルの胃袋×1
っと粗末、適当な文面でまるでお遣いの買出しだ。
昔、小さい頃を思い出す
そんなクエストデータだった。
「どっか行くの?僕も行こうか?」
「きても何も面白くないぞ?ただのお遣いだよ」
「何買うの?卵?牛乳?お肉?お野菜?ワタシも付いていっていい?お釣りが出たら三人でアイス食べれるね」
「あぁ、なるほど。僕達に内緒でアイス食べるつもりだったんだ!ずるーい!」
「何なんだよ。だいたいお釣りが出ても三人分もアイス買えるわけねぇだろ」
「だったらさ、三人でわけっこすればいいよ!」
これぞ妙案とばかりに胸を張ってみせた。
パステルカエルを討伐する事自体は、そんなに難しい事じゃなかった。
奴らが顔を出す数が少ないので、倒してもなかなかお目当ての品を落としてはくれなかった。
ちょっとした素材と、申し訳程度の経験値くらいだ。
「はぁ・・・」っと溜息も出る。
「もう少し離れたところ行ってみるか。確か・・・。」っと街の公園エリアの近くを散策していると、
ボイスチャットが流れてきた。
送信者はタケだった。
「なんだよ?」
「不躾だね。ひょっとしてツンデレってやつかな。こっちのキミだったらそういう属性も似合いそうだ」
「喧嘩売ってるなら、いくらでも買うぜ?」
そういうとタケは「冗談だよ」とわざとらしく笑う。
というか、属性とかそういうのに理解のあるやつだったのか・・・。
「そっちに不安定なデータが流れていったみたいだ。」
「・・・不安定・・・?」
ゴォアアアアア!!
聞くやいなや叫び声が聞こえた気がした。
「取りあえず、被害にあった彼には一旦ログアウトしてもらったよ。ありがとね」
「それはいいんだが、さっきの狼は何だったんだ?」
公園エリアから離れたところにデータの隙間のようなところを発見した。
隙間というよりはリアルでいうと食い破られたような感じでテクスチャーに風穴が開いていたという感じだ。
公園エリアの延長のようなところに出たわけだけど、
その周囲には蒸気機関のパーツがあちこちに散らばっていて、
そこには腰を抜かして座り込む先程の男性プレイヤーと件の狼モンスターが居た。
「普通の狼モンスターにしては、なんていうかデザインがこのゲームの雰囲気と違うっていうか新しいやつか?」
しかし、そんなアップデートがあるなんて聞いていない。
「なんだろう・・・バグかな・・・。」
「そんなフワフワしてちゃ困るだろ・・・。」
ボイスチャットの向こう側から珍しく真剣な声のトーンでタカは言う。
「手伝ってくれるよね?リン」
「ゲームは、遊ぶためのところだからな。」
第3話目を閲覧どうもありがとうございます。
小さい頃、それこそ幼稚園や保育園に通っていた頃は何でも珍しくて、下らないものを
集めまくる事ってありますよね。
ワタシはお菓子の缶詰にドングリの帽子の部分だけひたすら集めたり、セミの抜け殻とか集めてました。
下らないものほどレア度が高いと感じるような感じです。
始めたばかりのゲームはだいたいそんな気分になりますよね。




