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悪魔憑きの神父さま  作者: 茶柱 太郎
2/2

クラス替えの朝

 

「しーんーじー君、あーそーぼ♪」


 今日からクラス替えのため朝早くから浮わついた気持ちを一気に沈んだ気持ちにさせてくるのは、教室へ向かう途中の下駄箱でリズムに合わせて僕、吉山 信二の肩に手を回してくる駒田 太一という男だ。身長160センチの僕に対し、180という見下ろすようにこちらを見るのは金髪にピアスといった派手な風貌をしている僕と同じ駒田学園の2年生だ。


「お、おはよぅ、駒田君。でも、今から学校行かないと間に合わないよ?」


「理事長の息子の俺が遅刻しても大丈夫なのはしんじ君も知ってるでしょ?そんなことより、今週のお友達代持ってきたの?」


 こいつは僕からお友達代と称してお金をたかってくる。家が金持ちなのに嫌がらせとしてこんなことをしてくる。


「も、もう、そういうのやめない?と、友達からお金を取るのは、友達じゃないと思う…」


 いい加減やめてほしくて、僕は言ったけど、


「んだと?てめー、またいじめられてーのか?!太一君はお前がいじめられねーよに助けてやってんだろーがよ!」


 怒鳴りながら僕に睨んでくるのは、佐伯 亮太という金魚のフンのように駒田に引っ付いている小柄な男で、髪は汚い茶髪でいかにも不良という感じの男だ。

 助けるもなにもこいつが駒田から指示を受けて僕をいじめているのは知っているし、なにを馬鹿なことをと思っていると、


「吉山、お前あんま舐めてると、またボクシングゲームしちゃうぞ?」


 その言葉を聞いた瞬間僕の体は震え出した。以前ボクシングゲームと言って僕を一方的に殴り、怪我を負わされたからその恐怖が今も昨日のことのように覚えているからだ。


「ひっ!そ、それだけは、や、やめて、ください…」


 ニヤニヤと笑いながら駒田は肩から手を離し、


「ここじゃ、広いから体育館の裏行くぞ。」


「チンタラ歩いてんじゃねえ!さっさと歩け!」


 佐伯に足を蹴られ、嫌々ながら歩き出した僕は助けを求めるべく、周りの人を見ると皆、それぞれ目を合わせないように顔を伏せた。それもそうか、以前僕を助けようとした同級生は少なくない怪我を負い、駒田に殴りかかったなどの言いがかりをつけられ学校を退学させられたのだ。駒田の父によって。


「はは、みんな駒田君に何をさせられるのか怖いから僕なんかに関わらいようにしてるのか…」

納得しながらそう呟くと助けを呼ぶのは諦めて、駒田のあとを追った。








 __________






「よし、ここらでいいだろう。ほら、吉山お前も構えろよ。審判は佐伯な。平等に頼むぞ。」


 人を不快にさせるようないやらしい笑みを浮かべた駒田は制服の上着を脱ぐと、シャドーボクシングをし始めて準備を始めた


「わかったよ、太一君!ほら、吉山お前も早く準備しろよ!」


 佐伯に急かされながら、僕はしぶしぶ上着を脱いで地面に置き、白シャツになった。


「よし、準備ができたようだな。太一君、もう始めていい?」


「おう、いいぞ。」


「レディー、ファイ!」


 佐伯がそう言うと駒田は僕に向かって助走つけながら、

「これでもくらえ!」と言いながらパンチを繰り出した。


「おえぇぇぇぇ!」


 思いっきりお腹を殴られた僕は胃の中のものが出るんじゃないかと思うくらいに吐き出した。


「おいおい、まだ始まったばかりだろ?もっと楽しませろよ!」


 無理やり僕を立たせると、「おらぁ!」と何度もお腹を重点的に殴り続けた。こいつがお腹しか殴らないのは顔に跡が残らないようにするためだ。理事長の息子であっても、流石に顔に跡が残るとなると問題になるので服を着てるとわからない部分しか危害を加えない。


「も、もう、やめて、く、ださい。」


 僕が痛みに耐えながらなんとか言葉振り絞り伝えると、


「はぁ?何ぬるいこと言ってんの?あと1時間は続けるから♪」


 絶望するような答えが帰ってくる。


「太一君、俺も参加していい?なんか、見てるだけだとつまんなくてさぁ。」


 こちらを汚い笑みで見てくる佐伯が言うと、


「おう、お前もやれよ!おもしれーぞ!」


 人をなんとも思ってない台詞を言えるこいつらの頭の中はどうなってるんだろうと思いながら、


「おら、くらえや!」


 僕に向かって助走をつけながらくる佐伯を見て、あぁ、どうか生きてますようにと願いながら、目を瞑った。






「アーメンンンンンンンンン!」







 この場に似合わないフレーズが聞こえ、そして、



「ふべらばっ。」



という変な声が聞こえたので恐る恐る目を開けると佐伯が泡を吹きながら横たわっていた。



「ぇ?」



自然に口から出た言葉をそのままに、駒田のほうを見ると駒田も分からないらしく、ぽかんとしていた。自分でもわからない光景が広がっていたので「なにが起こった?」と思考していると、


「ふぅ。悩める子羊に救いを与えるとは我ながら良いことをしたな!」


 なぜかサムズアップをしながらこちらに、親指を立てながら言うのは全身真っ黒なぶかぶかな服を着て首から十字架をぶら下げた人だった。


「えっ、と、君はたしか、新堂君?」


 少し自信無さげに問うと、


「俺のこと知ってるのか?珍しいな。」


 少しだけ嬉しそうに眠そうな目の目尻を上げながらその人は答えた。


「おい、お前。どっから沸いてきたか知らねーが、俺の楽しみを邪魔して大丈夫だと思ってんのか?」


 先ほどまでぽかんとしていた駒田はこめかみに血管をぴくぴく浮かせながら駒田は仁太郎に言った。


「何言ってんの?俺は迷える子羊を導いただけだぞ?」


 さもそれが不思議という顔で仁太郎は駒田に言うと、


「てめえ、人を馬鹿にすんのはいい加減にしろよ!まぁ、てめーも吉山と同じような目に遭えばそんな口は聞けねーだろ。」


 新たな獲物を見つけたと感じながら駒田は、手をポキポキと鳴らしながら仁太郎へと歩み寄った。


「はぁ、争いごとは主が嫌うから俺も嫌なんだけどねぇ。仕方ない。この手は使いたくなかったんだけどな。」


 仁太郎はそう言いながら、首から十字架を外し手に持つ。その行動に吉山と駒田は?という感じで見ていた。十字架の短い横の部分を右手で持ち、銃のように駒田に向かって構えた。その行動を見た駒田は大笑いをした。


「ぶぁっははは!何がしてんだてめー。そんなものをそんな持ち片して。本物の銃じゃあるめいし、ははは「パン!」っ!?、なんだ!?」



 駒田は、突然の音にびっくりしながら笑いを辞めると辺りを見た。自分の足下のすぐ横がなにかにえぐられたように小さい窪みができていた。恐る恐る顔を仁太郎のほうに向けると、手に持つ十字架からは白い煙が立っていた。


「ほらね?言ったでしょ?あんまり使いたくないって。ほら、俺って祭とかでも射的苦手じゃん?」


 そんなこと聞かれても知らねーよ!と内心駒田は思いながら、


「お、お前、それ本物じゃねーか!?普通持っちゃいけねーだろそれ!?」


「ほら、俺、神父だから。悪魔と戦うときのためにね。ちなみに銀の弾だから。人間には当たっても、う~ん、死なない?」


「いや、死ぬわ!人間そんなに頑丈じゃねーから!ってか悪魔なんかいるわけねーだろ!?」


 必死でツッコミを入れた駒田は、こいつは馬鹿なのか?と思った。


「まぁそんなことはいいや。で、どうすんの?このまま俺にアーメンされるか、吉田君を見逃すか?」


「なんだよ、アーメンされるって!?わ、わかった!吉山見逃すからそんなものこっちに向けないでくれ!」


 駒田はビビりながら仁太郎から距離を取ると、そのままに走って行った。「おーい、こいつ忘れてるぞー?」と叫ぶとすごいスピードで駒田は佐伯を抱えて走り去って行った。


「あ、あの新堂君、助けてくれてありがとう!それと僕の名前は吉山、吉山 信二。一応、1年生のとき同じクラスなんだけど。」


 信二は自分の名前が間違っているのに苦笑しながらあらためて仁太郎にお礼をした。


「あー。いいよ。たまたま近く通ってたら、声が聞こえたし、迷える子羊を救うのが俺の仕事だしな。」


 そう言って笑ってくれた新堂君を見てなんだか心が軽くなった。


「それでも、ありがとう。みんな駒田君が怖くて助けてくれなかったんだけど、仕方ないって思ってたら新堂君が助けてくれてすごい嬉しかったんだ。」


「そっか。」


「新堂君ってクラスで寝てばっかりだったからあんまり話したことなかったんだけど、良かったらこれからも仲よくしてくれないかな?」


「おー、いいぞ。よろしく。」


 そう答えると「うん、よろしく!」と嬉しそうな顔をする信二を見て、仁太郎は苦笑した。


「1時限目は始まってるし、2時限目になったら教室行くから。先、帰っててもいいぞ?」


 仁太郎が体育館の裏にある大きな桜の木の下で横になりながら信二に尋ねると「僕もちょっと休憩して、2時限目から行くよ。」と仁太郎の横に腰を下ろして座った。


 春の桜が舞っている中で横になっている仁太郎を見ながら、「決めた。新堂君のように強い人になろう。心だけでも強い人に。」そう信二は心の中で決意をした。




 結局、二人とも寝過ぎて3時限目からの教室に向かうことになった。

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