三題噺700文字程度
少女は自室から庭下を眺めていた、青々とした芝生が一面を覆う、しかし彼女の視界の先には目を凝らさなければ見逃してしまうような小さな白い点が右へ左へちょこまかと動く点を目で追いかける。しっかりと手入れが行き届いていなければ小石に紛れてしまいそうなその白点を見失わないように必死に追いかける。
そんなことをしていると彼女の背後の扉がノックもなくガチャっと開かれる。
ノックをしてはいないがその所作に粗暴さは感じられず、わずかに彼女から丁度人一人が見えるだけのスペース分だけ開かれると丁寧にゆっくりとお辞儀をすると
「お嬢様、王妃様がお呼びです」
そう用件だけを簡潔に伝えると、そのまま何も言わず扉を開放して中へ入ってくることもなくじっとこちらを見ている、白と黒の割烹着のような服着た少女はこの家の使用人の少女で彼女から感情の色が感じられずただ用件だけを伝えに来たという感じだ、だが十二歳の少女が相手であってもこの家では使用人の彼女よりお嬢様と呼ばれた少女の方が位が上なのだ、よって勝手に辞去するわけにもいかず、こうして少女からの指示を待っているのだ。
少女は毎日のことなので振り向くことも応えることもせずとも彼女が今どういう佇まいで待っているのかを鮮明に想像する事が出来た、兎に集中しようとすればするほど背中に突き刺さる視線が気になって、気になって仕方なく、ふうっと小さく聞こえないように注意してため息を吐くと、兎を追いかけることを諦め、使用人の彼女に「行きましょう」と告げた。
彼女が部屋の外に出るとそこにはもう兎を視線で追いかけていた年相応の十二歳の少女はどこにもいなく、大人顔負けの凛としたこの屋敷のお嬢様の姿がそこには在った。
三題噺なので特にストーリーとして完結ではなくワンシーン切り取りな感覚で今回は書いてみました。